第15話 事件①
人見知りで友人も少ないシャーナでも新一年生の話は嫌でも耳に入る。
主に男爵の貴族達から。
今は休み時間で次の授業まで談笑している。
普段なら彼らの会話など気にも留めないのだが今回は違う。
なぜなら内容が自分の妹や他の妹、そしてどの一年生が可愛いとか優秀かなどであった。
可愛くて優秀な一年生として名前が上がったのはマリアだった。子爵であり入学式で新入生代表を務めたとか。
「でも、そのマリアより魔法に優秀な子がいるそうよ」
「聞いたわ。相当な熟練者らしいわね」
「平民の子でしょ?」
「応用魔導学の件ね。聞いたわ」
(まさかエリセのやつ、目立ったことをしたんじゃ?)
しかし、エリセが応用魔《《法》》学は見学したが応用魔《《導》》学の見学をしたとは聞いていない。聞き間違えか。
ついシャーナは貴族達の会話に聞き耳を立ててしまう。
「防御シールドが壊れて観客に被害がでかけたとか?」
「それを防いだのでしょ?」
(……人道行為ということか)
それなら致し方ないかなとシャーナは考える。
「アイスバーンの一年生らしいわね」
「ええ。《《新しい子》》らしいわ」
「ん? アイスバーン?」
シャーナはつい声を出してしまった。
会話をしていた貴族達がシャーナに視線を向けた。
「ごめんなさい。つい。アイスバーンの名が出たもので。彼女とは同じ寮なのでびっくりしました。まさか妹が出来ていたとはびっくりです」
シャーナは慌てて、子爵らしく丁寧に話す。
「ええ、可愛らしい妹が出来たらしいわ」
「非常に優秀な子だとか」
「魔法学の授業でも先生方に一目置かれているとか」
「名前はアリス・レイエスです」
アリス・レイエス。
エリセ繋がりで知り合った子だ。
「そうですか。ありがとうございます」
一礼してシャーナは席を立ち、教室を出る。
(アイスバーンに妹!)
去年、魔法院エイワスから編入してやってきた辺境伯。しかも使用人なしで同級生と相部屋となった。
普通は二年生で爵位が男爵のものが平民の一年生を妹にする。
それが辺境伯の身分で同級生を相部屋に住まわせた。しかもその同級生が自主退学。それが何度も。
異例中の異例。
アイスバーンは落ちこぼれてリュミエールに編入とも噂されたが、本人は三年前から飛び級でエイワスに在籍。
なら、何か問題を起こして飛ばされたのかと噂された。こちらの方は信憑性が高く、生徒間に浸透した。
「……アリス・レイエスか」
まさかあの少女がアイスバーンの妹とは。
けれど他にも気になることがある。
アリスの能力だ。
前にエリセは普通と言っていた。
(もしかしてあいつの言っていた普通とは機関の連中基準か?)
しかし、それだとアリスの実力が相当なものではないだろうか。
(実はアリスも機関に関わってるのか?)
◯
一方その頃、話題になっていたアリスは廊下で黄色い声を聞いて、なんだろうと伺っていた。
B組の教室前に生徒会長と銀髪の生徒を中心として令嬢達が取り囲んでいた。
銀髪の生徒も生徒会長に劣らずの美青年で、タイとバッジから二年生で伯爵のご子息と判る。
その二人が揃っているのだ、新入生の女子生徒が騒がないはずもいかず、二人を取り囲んでいる。
そしてその中に令嬢達にはハイエマン嬢もいる。
彼女達はまだ入学したてで右も左も分からないので、エスコートをお願いできないかと頼み込んでいた。
アリスは自分と違う世界だなと離れようとした。
生徒会長は「そこの君」と女生徒を呼び止めた。
誰かが生徒会長のお眼鏡にかかったのかなとアリスは考えた。
また生徒会長が女生徒を呼び止める。今度はアリスの近くで。
不思議と思い、振り返ると、すぐ近くに生徒会長がいた。
「で、で、殿下!? な、な、なんでしょうか?」
まさか呼び止められていたのが自分だったとは知らず、アリスは驚いて心臓を跳ねさせた。
「おや? 私は噂の第三王子ではないよ」
「で、でも、皆が」
「あくまで噂だよ。ウ・ワ・サ。ね?」
妙な圧を受けて、アリスはこくこくと頷いた。
「あ、あの私に何か用でも?」
「昨日の件だよ。詳しく聞こうとしたら、逃げるように帰るんだから」
「す、すみません。急用があったもので」
「ちょっと向こうで話でもいいかな?」
「は、はい」
アリスと生徒会長、そして銀髪の生徒は中庭へと移動する。その際、廊下でハイエマン嬢が恨みがましい眼をしていたのをアリスは気づいていなかった。
そしてもう一人、二年生の男子生徒がいたことも。
「ここなら誰にも邪魔されないからね」
「は、はい」
「こちらは生徒会副会長のキール・ディプトリーだよ」
「どうもキール・ディプトリーだ。よろしく」
「はい。アリス・レイエスと言います」
「君がアリス・レイエスか」
生徒会長が驚いた。
「私の名を知っているんですか?」
「一年生、そして二年生担当の魔法学教師から聞いたよ。君、かなり優秀なんだってね」
「そ、そ、そんなことありません」
手と首を振ってアリスは否定する。
「謙遜しなくてもいいよ。二年生の応用科目の時、シールドが壊れて、観客に蛇炎の一部が当たろうとしたのを止めたんだってね」
「いえいえ、私以外にも止めた人がいますよ」
「話によると君が一番最初に反応したとか?」
「そ、そうでしたか?」
「会長、そろそろ本題に」
「ああ、そうだったね。レイエス嬢、昨日の放課後のことを詳しく聞かせてくれないかな?」
アリスは放課後の出来事を語った。
「……なるほど。そんなことがね」
生徒会長は眼を瞑り、人差し指で眉間を撫でる。
(その困った仕草も絵になる!)
「レイエス嬢?」
「は、はい、すみません」
「謝ることはないよ。彼らは──」
「会長!」
副生徒会長キールが生徒会長とアリスを押し倒した。
その瞬間、キールの前方で爆発が発生。
「キール!」
「だ、大丈夫です」
誰かが生徒会長を魔法で攻撃した。
魔法の使用は御法度のはず。
ましてや攻撃魔法となると。
誰だと周囲を伺うと、人影が見えた。
人影が去ろうと動くのだが、すぐにキールが動いた。
「待て!」
生徒会長が立ち上がり、アリスに手を差し伸ばす。
「あ、ありがとうございます」
「まだ注意を怠ってはいけないよ。敵が近くに隠れている可能性もある」
生徒会長は周囲を警戒する。
「でも、さっきキール副生徒会長が……」
「仲間がいる可能性もあるだろ?」
「そうですね」
が、周囲には不穏な気配はなかった。
それで生徒会長とアリスはキールの後を追う。




