第14話 いざこざと生徒会長
「て、ことがあったんだぜ」
応用科目の魔導学を見学した後、休み時間でスーザンはセレンに魔導学で起こった珍事について話した。
「だから言ったじゃない。危ないって」
「でも、シールドが壊れるなんて思わないだろ?」
「で、その後はどうなったの?」
「戦闘は中断。炎の大蛇を出した貴族生徒は教師にお叱り。アリスは褒められたってわけだ」
「いや、まさか、こんなことになるとは。他にもいたんですよ。水属性魔法を使った人や観客に向けてシールドを展開した人とか」
アリスは照れながら言った。
「でも、一年だとアリスだけだろ。すごいじゃん」
「いや、事前にスーザンが大丈夫かなと心配してたので」
「おっ! 私、ファインプレーか?」
「なわけないでしょ」
「アハハ、それでセレンは歴史の授業を受けたんだろ? どうだった?」
「普通だったわ。それとアリスが言っていたように応用科目では修学旅行を行うらしくて、実質ただの旅行らしいわね」
◯
放課後、アリスはまた姉様のマーガレット・アイスバーンから使いを頼まれて購買部に来ていた。その帰り道、校舎裏でアリスはある貴族の一団が、平民に対して詰め寄っている現場に遭遇した。しかもただの詰め寄りではなくて相手を投げないように囲んでいる。
アリスはすぐに角に隠れ、様子を伺う。
貴族は魔導学の授業で見た子爵のご子息。対して平民は対戦相手のぽっちゃりとした男子生徒。
「お前、あの魔導具を見せてみろよ」
「はあ? なんでだい?」
「違法になんか仕組んでんだろ?」
「おいおい、何を仕組むと言うんだい?」
ぽっちゃりとした男子生徒は呆れたように言う。
「あの蛇炎を防ぐなんてありえねえだろが!」
あの魔導具で出した炎の蛇は蛇炎という名前らしい。
「君だって属性の相性くらいは知っているだろう。水が炎を防いで不思議がるかい?」
「あんなちっぽけな水で防ぎ切れるか?」
「君は一匹のアリを倒すのにハンマーを使うのかい? 効率ってものがあるだろ。それに見た目だけで威力は低い」
「威力が低いだ? シールドを破壊するほどの威力だぞ」
「あれはシールドに問題があったんだろ? 硬度にばらつきがあって、たまたま弱いところに君の失敗したナントカの炎が壊したんだろ?」
「舐めてんのテメェ! 弱いってんならもういっぺん食らってみるか?」
「こんなところで魔法を使うのか? 君は馬鹿か?」
さすがに魔法は使わないだろうが、今にもケンカが始まりそうだった。
(ここは教師でも呼ぶべきか?)
そう悩んでいた時、【通信蝶】からの魔力波を感じて、「ひゃう!」と声を出した。慌てて口を閉じるも、
「誰だ!?」
アリスはおそるおそる彼らの前に出る。
「あ、あの、たまたま帰り道で……」
「見てたのかテメェ!?」
「す、す、すみません」
「ボビー様、あの小娘、例の……」
見たことのある男子生徒が子爵の生徒に耳打ちする。
「あいつが?」
子爵の生徒が訝しみ、それからアリスへと目を向ける。どこか値踏みのような視線が向けられ、アリスは嫌な感じを受けた。
「これはちょっとしたお話だ。関係ないやつは引っ込んでてくれないかな?」
「で、で、でも」
「いいから引っ込めよ」
取り巻きの一人が懐から杖を出した。
その瞬間、アリスは魔法で彼が出した杖を弾いた。
「テメェ!?」
杖を弾かれた取り巻きが驚きと苛立ちの声を出す。
「ジャック!」
子爵が取り巻きの一人に命じる。
名を言われた弱々しい彼は、アリスを見て戸惑うが、もう一度子爵に名を呼ばれ、しぶしぶ動こうとした。
その時、
「なんだい? この騒ぎは?」
予期せぬ闖入者に皆、驚く。
アリスの後ろから現れたのは生徒会長だった。
入学式の時に見た美青年がそばにいて、アリスの胸の鼓動は高まる。
「なんでもありませんよ。話をしていたらそこの女が魔法を使ったんですよ」
子爵が焦りつつも、へらへらと嘘を述べる。
「そうかな? 杖がそこに転がってるけど……」
生徒会長はアリスを見る。
美青年に見られているこたにアリスは緊張する。
「彼女は杖を出していない。これは君達の方に──」
「本当に何もありませんから」
子爵の生徒が急いでこの場を去り、取り巻き達も慌てて後を追う。
「いいのですか? 追わなくて?」
「まあ、君達は無事みたいだし」
「それより大丈夫?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
「礼なら私でなくボードレール嬢に言ってくれ」
生徒会長が後ろを振り返る。
そこには一人の貴族令嬢がいた。金のバッジということは伯爵令嬢か。
(あれ? どこかで見たような?)
「では、私はこれで」
伯爵令嬢が頭を下げて、この場を去ろうとする。
「あ、ありがとうございます」
伯爵令嬢が去る前にアリスとぽっちゃり生徒は礼を言う。
「あの時の状況から察するに君が子爵にいじめられていたのかな? そして、たまたまそれを見た君がピンチになったと?」
「はい」
「いやぁ、急に現れた時はびっくりした。しかし、杖を弾いたのは……ルーン魔法かな?」
「はい。ああいう輩への対策として前に出た時からいくつかルーンをいくつか用意してました」
アリスが使用したのはルーンという文字を使った魔法。指先に魔力を込めて、彼らに見えないように魔力で文字を書いていたのだ。
「すごいルーン文字まで使えるんだ。しかもペンではなく魔力か」
生徒会長がアリスを褒めるので、アリスの胸の鼓動はさらに強く──。
(これ、魔力波だ。やばっ! すっかり忘れてた!)
胸ポケットの【通信蝶】が今も通信に出ろと魔力波を送る。
「あっ、あの、私も用がありますのでこれで」
アリスは一礼した後、その場を去る。
「君、ありがとう」
後ろからぽっちゃり生徒の謝礼が放たれる。
◯
「遅い! 使いも碌にできないのか?」
ドアの向こうからマーガレット嬢の怒りが放たれる。今回は【通信蝶】からではなく、ドア越しの怒声であった。
「す、すみません。本当に色々あって、それで」
「一応、聞こうかしら。何があったの?」
アリスは先程のいざこざについて説明した。
「なるほどそんなことが。だから【通信蝶】の応答にも出なかったのね」
「はい」
「しかし、貴女がルーン魔法を使えるとは驚きね」
「はい。前にその……ある方から教えていただいて」
「しかもペンを使わず」
普通ルーン魔法はペンで紙か建物にルーン文字を書いて、魔力を込めるもの。
それをアリスは指先に魔力を込めて書いたのだ。
なかなかのことだ。
「誰に教わったの?」
「え、ええと、ずいぶん、昔で……名前を聞いてなくて……」
「……そう。分かったわ。もういい」
「はい。失礼します」
マーガレット嬢の部屋の前で一礼した後、アリスは自室に入った。
そして自室に入るやアリスは大きく息を吐いた。
「よう、どうした? 今日はお疲れか?」
使い魔のクラムが疲れ気味のアリスに尋ねる。
「まあ、色々あってね」
アリスはベッドに座る。
「実は昨日、お茶会した令嬢のことを話したよね?」
「ああ」
「彼女がジェラルド男爵の娘だった」
「マジかよ。こんなことってあるんだな」
「嬉しそうね」
「当たり前だろ。仇の娘だぜ……どうした? そんな悲しい顔をして?」
アリスは自分の顔をさする。悲しい顔をしていたのだろうか。
「もしかして許そうなんて気じゃないよな?」
「そんなわけない!」
アリスは声を張って否定した。
「そうだ。許してはいけねえ。絶対にだ」
「……でも、悪い人には見えないのよね」
「娘がそうでも親は違うぞ。それに娘だって知り合ったばっかだろ? 知らない顔があるかもしれねえ」
「そうかな?」
「そうそう、俺からも面白い話があるぜ」
「何?」
「お前が庭園って言うから、気になって探ってみたんだよ。そしたら間違えて別の庭園、いや植物園に入っちまったよ」
「植物園なんてあるんだ」
学園の敷地は広い。庭園以外にも植物園があってもおかしくないのかもしれない。
「その植物園はさ、陰湿な教師の専用植物園でさ、奥に行けば行くほど厳重なんだよ」
「へえ」
「いやいや、ここは気になるだろ。おかしいだろ。それをどうでもいいみたいな返事をしてよ」
「そりゃあ、ここは魔法学園だもん。魔法薬に関するものや、危険な毒草も保管されていると思うし」
師匠のリズベルトもアリスが間違って触らないようにと庭園奥に厳重管理された畑を拵えていた。
学園もまた生徒が間違って触らないように対策を講じているのだろう。それにここは貴族の子息・令嬢が通う学園だ。もし貴族に怪我でもさせたら大きな問題だろう。
「なーんだ」
アリスはポケットからクルミを出して、部屋着に着替える。そして朝食の盆を持って食堂に向かう。まず朝食の盆を返却して、その後で二人分の夕食を受け取り食堂を出る




