第13話 魔導学
(あの人がジェラルド男爵の……娘)
金の絹のように美しい髪を持ち、整った顔立ちの美人。
それが憎き男爵の娘。
憎しみを抱いて当然のはずだが、どこか迷いがあった。
それも彼女と仲良くなったからだろう。
知り合ってまだ間もないが、彼女が悪い人にはどうしても思えなかった。
「……レイエス!」
(例え、あの人が良い人でも親がそうとは限らないはず)
隣のスーザンが肘で突っつく。
「アリス・レイエス!」
教師が怒声でアリスを呼ぶ。
そこで自分が呼ばれていることに気づいたアリスは張り詰めた雰囲気を感じつつ「は、はいっ!」と慌てて返事をする。
「前に!」
アリスは急いで立ち上がり、教師に言われた通り、前へ出る。
「やあねー。やる気のない人がいると」
わざと聞こえる声で嫌味を言われた。誰だと伺うとその声の主はハイエマン嬢だった。
今日はA組とB組の合同授業。
それゆえB組のハイエマン嬢もいた。
周りはハイエマン嬢の言葉に同意するようにクスクスとアリスを見て笑う。
「平民が魔法なんて使えるのかしら?」
アリスはそんな言葉を聞きながら、教壇の前に出る。
(あの人がジェラルド男爵の娘だったなら楽なのに)
「では、魔法で豆を一つ一つ、隣の皿に移動させるように」
「はい」
アリスは杖を構えて、豆を一つ一つ浮遊させて隣の皿へと移動させる。
「……結構」
アリスは一礼して席に戻る。
「どういうこと?」、「あれくらいボンヤリして心を無心にしろってこと?」、「偶然ですわ」
教室の生徒達が少しざわつく。
アリスはなんともなしにやってのけたが、実は今のところ生徒の中で一つ一つ、豆を浮遊させて隣の皿に移動させた者はいなかったのだ。
驚き、羨望、嫉妬と色々な目でアリスを見る。そしてハイエマン嬢も暗く、鋭い目でアリスを見ていた。
◯
「どうしたの? ぼーとして?」
魔法学の授業後、セレンがアリスをしんぱして尋ねてきた。
「何でもないよ」
アリスは空笑いして答えた。
「そう?」
「朝飯、食い忘れたか?」
「あんたじゃないんだから。……ハイエマン嬢のこと?」
セレンが声を小さくしてアリスに聞く。
「え、違うよ。全然」
総合教養後のことを言っているのだろう。
アプローチは確かに失敗し、恥もかいた。
けれど、アリスのショックはそこではなかった。
「姉のせいで朝飯食べれなかったとか?」
「だからなんで朝飯なのよ」
「いや、朝飯抜くと力がでないじゃん」
「そんなのないから。ちゃんと食べてるよ」
「なら、放課後のお使いが大変とか?」
「ううん。全然だよ。大変なんかじゃないから」
「そうならいいけど。変な噂を聞いたからよ」
「噂?」
スーザンは顔を寄せて、小声で、
「アイスバーンの相部屋の奴って、学園を去っていくらしいぜ」
「学園を?」
「おう。理由は知らないけどよ。結構、パシられるって聞くぜ」
「そうなの? そりゃあ、放課後に購買部へ寄ってあれこれ買ってくるように言われるけど……」
あとは朝と夕、食堂に行って二人分の食事を受け取ってくるくらい。さして学校を辞めるほど苦になることでもない。
それともこれから要求がひどくなるのか?
「ま、何かあったら事務所に相談すればいいさ」
「それとだけど……」
セレンが何か重要なことを話す空気を出す。
「何?」
「なんか去年に事件があって……それに巻き込まれた相部屋の人もいるとか」
セレンはボソボソと小声で話す。
「事件?」
「詳しくは知らないけど、アイスバーン嬢が部屋に篭るきっかけになったとか」
◯
アリスとスーザンは今日の応用科目の見学を魔導学に選び、セレンは歴史の授業を選んだ。
先日、セレンが言っていたように魔導学もまた魔法を使った対戦だった。魔法学と違う点は魔導学は杖ではなく魔導具を使ったもの。人によっては大きいものから小さいものまで様々な形の魔導具が使用されている。
その中でアリスの師匠リズベルトが製作に携わった魔導具もちらほらと見られた。
そして今、教師に名前を呼ばれて、ぽっちゃりとした男子生徒がステージに上がる。彼は貴族バッジを着けていないことから平民と思われる。その彼はリズベルトが製作した魔導具を使用するらしい。魔導具は白い槍型の魔導具で五大属性の魔石が嵌められていて、槍の先端は空洞となっている。魔法はその先端から放出される仕組みとなっている。
次に教師は対戦相手の名を呼んだ。
対戦相手は煌びやかとした金管楽器ホルンのような形の魔導具を脇に抱えてステージに上がってくる。
対戦相手の男子生徒がステージに上がると拍手が起こる。彼は貴族らしく銀のバッジを着けていた。
誰かが「そんな安い魔導具を使う者に勝ってください」と声援を送った。
誰だろうとアリスは声援を送った人物を伺った。その声援の主はハイエマン嬢だった。
「きっとあの魔導具ハイエマン製だぜ」
隣に座るスーザンが小声で言う。
「だから応援を?」
「それと相手の魔導具がジェラルド製だからだろうな。アリスはジェラルド製を使う相手を応援か?」
「べ、別にそういうわけではないけど」
そして魔法による戦闘が始まった。
魔法対戦はハイエマン製を使う男子生徒がホルンでいうところの音を放出する部分から炎を魔法を放つ。
炎を大蛇として、貴族の生徒を中心にとぐろを巻く。
「うっひゃあ! これこっちに来ないよな?」
「ドーム型の防御魔法がステージを囲むように張られているから問題ない……かと」
でも、防御魔法がところどころ薄い気がする。
「いけ!」
ステージ上の貴族生徒が声を上げると炎の大蛇が平民生徒を襲う。
これは瞬殺だなと誰もが思っていた。
けれど、平民生徒は槍型を傘の様に形を変えて、くるくると回す。表面には水魔法による水のヴェールが展開して、炎の大蛇を相殺した。
「おお!!」
観客から歓声が上がる。
さらに平民生徒は魔導具を傘から元の槍へと形を戻して水を放出する。
貴族生徒はシールドを展開しながら避ける。
時折、カウンターとして炎を球をいくつも放出する。
けれど、狙いがズレたのか平民生徒から離れた場所に炎の球がいくつも向かう。
「うひゃ!」
観客が悲鳴を出す。
その中で一つの炎の球が観客側に向かい、ドーム型シールドによってかき消された。
「ちゃんと狙えよ!」
観客から貴族生徒へとヤジが飛ぶ。
ヤジに怒り、顔を赤くした貴族生徒がまた炎の大蛇を作る。
だが、力んだせいか、炎の大蛇の鱗が破裂して炎の飛沫が四方に弾け飛んだ。
さらに炎の大蛇は分裂して、あちこちへと飛び跳ねる。
観客側に炎の飛沫が飛んでくるのだが、ドーム型シールドにより、消される──はずだった。
なんと炎の飛沫の一部がシールドを破壊してしまった。
「シールドが!?」
しかもその後で炎の大蛇だった一部分がシールドの穴を越えて、観客に襲って来た。
アリスはすぐに杖を出して水属性魔法を放った。他にも水属性魔法を放った生徒が幾人かいたため、炎はかき消された。




