第11話 ドームハウス
アリスは生垣の迷路を突き進んでいくとガラス張りのドームハウスに辿り着いた。
「どうしてこんなところに?」
ドアを開けて、中に入る。
「すごい」
アリスは感嘆の声を漏らした。
中には色とりどりの花が植えられている。
「ドアを閉めて!」
「あ、はい」
叱られてアリスはすぐにドアを閉める。そして叱ってきた主を見て驚いた。なんと相手はアリスが探していたあの令嬢だったのだ。
「何?」
令嬢は怪訝そうに言う。
「いえ、あの、その、入学式の前日に駅舎で会ったのを覚えてますか?」
「駅舎? ……ああっ、貴女あの時の!?」
「はい。あの時のです。えっと、その、その時にこれを落としませんでしたか?」
アリスはポケットに入っていた小さな紙袋を取り出す。
「それ!? 私が落とした紙袋!?」
「はい。これを届けたくて」
「そうだったの。ありがとう」
女生徒は紙袋を受け取り、礼を言った。
「では、私はこれで」
「待って。何かお礼を……」
「いえいえ、結構ですよ」
「そうだ。お茶はどうかし──」
ここで胸ポケットの【通信蝶】から魔力を感知。アリスはついうっかり魔力を注いでしまい通信をオンにしてしまった。
『アリス! 至急、万年筆を買ってきてちょうだい!』
それだけ言うと通信は一方的に切れた。
「あっ、えっと」
「今のマーガレット・アイスバーン?」
「はい。ご存知ですか?」
「ええ。クラスメートですから」
「そうでしたか。私は妹のアリス・レイエスです。ええと、ごめんなさい。マーガレット様が呼んでいますので」
「こちらこそ無理に止めようとしてごめんなさい。マーガレットに、たまにでもいいから授業に出るよう伝えておいて」
「伝えておきます」
アリスは一礼してドームハウスを出る。
◯
『遅い!』
マーガレットが【通信蝶】越しにアリスを叱責した。
アリスは帰りの際に購買部により、マーガレットに頼まれていた万年筆を買って、寮部屋に戻った。そしてマーガレットの部屋の前にあるテーブルに購入した万年筆を置いた。
『何してたの?』
「すみません。あの後、すぐに購買部に向かったのですが……」
『それでどうして時間がかかったの?』
「ちょっと道に迷ったり、購買部まで遠かったりで……」
下げた頭が徐々に下がっていく。
『道に迷う? 貴女、連絡した時どこにいたの?』
「ええと生垣の迷路、その中心辺りにあるガラス張りのドームハウスに」
『ドームハウス? 植物園の? どうしてあんなとこに?』
「人を追いかけてましたら」
『は? 人を追いかけてた?』
アリスは駅舎での落とし物について説明した。そして彼女からの伝言をマーガレットに伝えた。
「……というわけでして、それで帰りが遅くなりました」
『分かった。もういいわ』
アリスは目の前にマーガレットがいないにも関わらず、一礼してから自室に戻った。そしてベッドにダイブ。
「疲れた」
「そればっかだな。ハイエマン領のラーゼ街に比べると平和だろ」
使い魔のクラムが言う。
ラーゼ街にいた頃は酔漢やスリ、強盗、詐欺と否が応でも犯罪に巻き込まれることが多かった。それに比べここはまだ温室平穏な箱庭。
「身分とか人間関係が精神的にくる」
「ふーん」
「ふーんって、あのね。クラムは何してたのよ」
「俺は学園を散策して情報収集してるぜ。まっくこの学園、敷地が広いんだよ。疲れるわー」
「何か分かった?」
「ん〜、今日は近衛特務隊の兵舎を見つけた。けっこうデカかったぜ」
「へー。第三王子がいるって話だからかな?」
「しかし、近衛兵でなくて近衛特務隊だからな。なんか怪しいな」
近衛兵は王侯貴族や重鎮を守る部隊で基本は王都にいる。それが特務隊として魔法学園リュミエールに駐在している。
「何かあるのかもな? もうちょい探ってみようか?」
「ううん。そっちはいいや。ジェラルド嬢とハイエマン嬢について調べて」
師匠の仇であるジェラルド男爵に復讐するため、男爵の令嬢について情報。そして男爵とライバル的関係のあるハイエマン伯爵の令嬢に取り入るためハイエマン嬢の情報が最優先。第三王子については今のアリスには学園にいようがいまいがどうでもいい。
「分かった」
◯
翌日、教室にてアリス達は各々が見学した応用科目の授業について情報交換をした。
「魔法学はバトルだったよ」
「バトル!?」
スーザンが驚き、アリスは強く頷く。
「うん。攻撃魔法を使ったバトル。男子が多い」
「はあ〜、まさかバトルとはね。セレンの魔導学は?」
「こっちもアリスと同じバトルよ」
「なんで戦うんだよ。魔法って、戦うものだっけ?」
「まあ、半分くらいが攻撃魔法とかだからね。それで、あんたの総合教養学はどうだったの?」
「あー、こっちは社交界の作法だよ」
スーザンがうんざり気味に答える。
「具体的にどんなことしたのよ?」
「正しい姿勢、挨拶、立ち振る舞い、最後は……ダンス」
「どうしたのよ。暗いわね」
「いやぁ、それが……ダンスで……やっちまったわ」
スーザンが肩を落として言う。
「何をやらかしたのよ?」
「私、ダンスやったことないのよ」
「へえ。でも、教師だっていきなり踊れと言わないでしょ? 教えてから実践のはずだけど……ん? 待って! 見学よね?」
スーザンは先程から見学ではなく授業を受けたかのような言い方だ。
「見学ではなかった」
「なんでよ?」
「知らないよー。見るだけって聞いたのに」
スーザンは両手で顔を覆う。
「で、ダンスどんなやらかしをしたのよ」
「後生だ。聞かないでくれ」
「ここまできて聞かないわけにはいかないわよ。ね、アリス?」
「そうですね。私、気になります」
セレンに問われ、アリスは頷く。
「ダンスでめっちゃ足を踏んだ。しかも一回じゃないよ。何度もだよ。動くたびにさ……。外野からめっちゃ笑われた」
スーザンは不服そうに唇を尖らす。
「大変ね。これで総合教養学がどういうものか理解できたでしょ?」
「どの授業が楽なんだろうね」
楽そうに見える歴史は遺跡調査、文化も遠い地方の風習を足を運んでの現地調査。
残すは一般教養の法学、経済学、魔法教養の薬学。この3科目は授業名からして全く興味がないとついていけないくらい厳しいはず。
「楽とかでなくて、自分が興味があるものを選びなさい」
セレンは担任が言っていたセリフを吐いた。
「興味……ね。その興味があった総合教養が嫌なものだったんだけどなー」
「苦手なものでも頑張ればいつかは好きになるわよ」
「そうかなー」




