終劇間近
~~~同時刻、一階の廊下~~~
「おっ、トニー。購買部だってさ」
春喜がドア上部に取り付けられた プレートを指して言う。
「こんな状況で食事は出来ないぞ?」
「分かってるって。そうじゃなくて……ほら」
言いながら、耳を澄ますようにジェスチャーで伝えてくる。その通りにしてみると、確かに中から人の気配が伝わってきた。
「連れ去られた人達か?」
「分からない。でも、スルー出来ないっしょ?」
確かに、その通りだ。
調べるのに手間取るわけでもなし、見るだけ見てみるのがいいだろう。
「よし……入るぞ」
一応の警戒として銃を構える。
春喜も臨戦態勢を整えると、ドアノブに手を掛けた。
「……今だ!」
トニーの合図を受け、春喜がドアを開ける。
それと同時に、トニーは中に飛び込んだ。
すると、そこに居たのは――
「……お待ちしておりました、隊長」
かつての部下達の姿だった。
「お前達、どうして……?」
思わず、疑問を口にする。
しかし、その理由は すぐに理解できた。
「なるほど、奴の考えそうなことだ……」
過去の仲間と敵対させる――情に流されやすい自分たちには最適な策と思ったのだろう。
「申し訳ありませんが、隊長には此処で死んで頂きます」
諦観を抱いた口調。
それを聞いてトニーは眉を潜めた。
「馬鹿どもが……それが正しいと本気で思っているのかッ?」
トニーの根本的な問いに、隊員たちは僅かに顔を顰めた。
「……正しいとか間違ってるとか、もう そんな次元じゃないんですよ、隊長!」
「……………………」
「自分たちは奴に踊らされて取り返しのつかないことをしてしまった……もう、今更 後戻りなんて出来ないんです」
井川の尖兵となり繰り返してきた愚行――それが枷となり、彼等から考えることも逆らう気力も奪ってしまったのだろうか。
「後戻りとかじゃねえだろ! 人類の未来の問題なんだぞ!!」
そんな隊員たちに春喜が反論する。
当初から千葉の綺麗な理想を追ってきた春喜にしてみれば、彼等の迷いは苛立たしいものに映るだろう。
そして、それはトニーも同じだった。
ここに来て、自らの弱い部分に負けている彼等が許せなかったのだ。
「どうしても戦うというのか?」
「はい……もう、後ろに道はありませんから」
そこに留まるだけでは何も解決しない。
そこから前進する事こそが大事なのに。
「ならば、仕方ないな……」
静かに言いつつも、トニーは隊員たちを厳しく睨みつけた。
「今一度、お前達に教えを説いてやる。その情けない考え方の隅々にまでな!!」
そう言い放ち、トニーは銃を構えた。
同時に、春喜と隊員たちも構える。普段は活気に溢れていたであろう購買部が、殺伐とした空気に飲み込まれていった。
「さあ…………来い!!!」
「うおおおあああああっ!!!!!」
火花散る闘気。
そこにあって雌雄を決するのは、思いの強さなのだろうか……
―――*―――*―――*―――
~~~その頃、別の場所では~~~
「クッ……無遠慮に撃ってくれるね」
苦々しく将吾は呟いた。
連れ去られた人々を救おうと体育館を目指していたのだが、敵の激しい銃撃に阻まれ、近くの教室へと隠れているのだ。
「うむ……このままでは身動きが取れんな」
常と変わらず冷静にいう能美。
こんな状況だというのに、汗一つ浮かんでいない。
「落ち着いて感想なんて言ってないでさ、この状況を脱する手段でも考えてくれよ!」
苛立たしげに言いながら、敵に向かって射撃を行う。時折、こうして牽制しておかないと一気に制圧されてしまうからだ。
「そう言われてもな……これを打破するには、最早 囮でも使うしかあるまい」
「囮って……道は狭い廊下しかないんだぞ? 出た瞬間に撃たれて終わりだ」
「ああ……だから、その覚悟のある奴が必要なわけだ」
「覚悟って言われても……」
そんなの、すぐに決まるものでもない。
後ろに控えている千夏にしても、友恵にしても同じだろう。
「……………………」
「……………………」
教室を場違いな沈黙が包み込む。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに能美が口を開いた。
「……そう言えば、お前には借りがあったな」
「借り……?」
そんなもの、あっただろうか?
思い当たる節はないのだが。
「無理矢理に連れ去って、見世物にしただろ?
「ああ……その事か」
何とも懐かしい話だ。
今では現実感すら失われている。
「……そろそろ、返さなければな」
そう言うと、能美は教室のドアに手を掛けた。
「能美……?」
思わず、名を呼ぶ。
すると、能美は穏やかな表情で振り返った。
「すまんが、骨は拾ってくれ」
その言葉と共に、能美はドアを開け放つ。
そして、迷うことなく廊下へと身を踊らせた。
「出てきたぞ、撃ち殺せ!!」
能美に向かって一斉に放たれる銃弾。
それは彼の身体の各所に被弾し、朱色の花を咲かせた。
「……………………ッ!!」
声なき声を上げつつも、能美は男達の懐に潜り込む。
そして、目にも留まぬ速度で刀を抜き放つと、連続の峰打ちで次々と男達を眠らせていった。
「クソがっ! 舐めやがって!!」
数人が取り回しの利かない小銃を諦め、ハンドガンに持ち帰る。それを見た瞬間、将吾も教室から飛び出していた。
「そうはさせるか!!!」
小銃を構えながら廊下を駆ける。
相手からしたらいい的である事は理解していたが、身体が勝手に動いていた。
「チッ……だったらテメェから殺してやるよ!!」
向けられる複数の銃口。
それを見詰めながらも、不思議と将吾の中に恐怖はなかった――
―――*―――*―――*―――
~~~教室棟 1階~~~
「さすがに、待ち伏せも増えたな……」
修一の提言通り、渡り廊下を利用した移動のお陰で敵との遭遇は最小限で済んでいた。しかし、背後を突いているとは言え、この学校自体が激戦区なのは同じ。やはり戦闘は避けられなくなっていった。
「弾薬も そろそろ厳しいしな……」
たっぷりと持ってきてはいたが、予想以上の敵数に心許なくなってきた。
と、そこへ――
「……………………ッ!!」
踊り場から廊下へと出た瞬間、何者かと鉢合わせた。相手は驚きの気配を伝えながらも、咄嗟に銃を構えようとする。
(なかなかだな……)
少なくとも、実戦は知っているようだ。
しかし、連続する戦闘で気が昂っている俺には物足りない反応だった。
『―――――――――ッ!!』
銃身を掌で叩き、射角を自分から外す。
その上で間合いを詰め、相手の喉元にナイフを突きつけた。
「抵抗するなら殺す……」
ドスを利かせた低い声。
しかし、それに対して相手が見せた反応は、恐怖ではなく安堵だった。
「良かった、やっと見つけた……」
そこに居たのは懐かしい顔――小百合だった。雅也から話は聞いていたが、あの時とは比べ物にならないほど自然と銃を握っている。
「何だ? 探してたのか?」
再会の感動も挨拶もなく話題を進める。
この状況下では余計な時間を掛けられないのだ。
「そうなの! 井川がイオナちゃんを連れて逃げようとしてるのよ!」
「何だと……?」
意外な事実。
奴が、こんな早期に諦めて戦線を離脱するとは思わなかった。
(いや……罠か?)
浮かび上がる もう一つの可能性。
恐らく、小百合の行動すらも予測してのトラップではないだろうか。
(狙いは……俺の命か)
逃走の意思を見せれば、小百合は慌てて俺を探す。その情報に踊らされて向かった先で待ち伏せ――と言ったところだろう。
(上等だ……敢えて乗ってやるよ)
どちらにしろ、井川との対峙は避けられない。つまり、罠が張り巡らされていようとも、奴の懐に入り込む必要があるのだ。
だったら、犠牲になるのは1人でいい。
俺が暴れることで井川の手勢を疲弊させられれば勝機も見える。逆に、思っている以上の規模であれば、その情報を小百合に届けてもらうことで逃走の手助けになるのだ。
(これで、終わらせてやる……)
少なくとも、俺と奴との因縁は。
「どうするの……?」
「……案内してくれ。奴は、俺が仕留める」
静かに、だが ハッキリと言い切る。
そんな俺の様子に一種の覚悟を見たのか、小百合は深く頷くと先導のために駆け出した――




