突撃
重装化された観光バスが、大通りを疾走する。
群がるゾンビを薙ぎ倒し、障害物となる車を押し払いながら。そして、目指していた場所――井川たちの拠点である学校へと辿り着く。
「ボス、どうする!?」
「構わない、そのまま突っ込め!!」
ハンドルを握るトニーに迷わず叫ぶ。
それを受け、トニーも一気に加速させた。
『―――――――――ッ!!!』
轟音を響かせ、正面玄関に重装化された車が突っ込む。白煙を上げながらポッカリと口を開ける玄関。それを確認した俺達は、一斉に車から飛び出した。
「へっへ~、侵入成功~」
得意気に笑う春喜。
しかし、その直後――
『―――――――――ッ!!』
反撃の銃弾が撃ち込まれる。
どうやら、奇襲を予期して待ち構えていたらしい。
「危ねえじゃんか……ったくよ!」
下駄箱に身を隠しながら春喜がボヤく。
だが、仕方ない。井川も理解しているのだろう。この戦いで全てが決すると。
「隊長~、どうする? このままじゃ動けないぜ?」
下駄箱に身を隠すしかない俺達。
しかし、俺とトニーは悲観するどころか笑みを浮かべていた。
「問題ない、すぐに止むさ」
「そう言うこと」
楽観的に言い切る俺達。
すると――
『……………………』
本当にピタリと銃声が止んだ。
それを理解した俺とトニーは一斉に飛び出した。
「考えなく撃ちすぎなんだよ!!」
そう言い放つと、ゴム弾の装填されたハンドガンを撃ち込む。
『―――――――――ッ!!』
ゴム弾を受けて昏倒する男達。
実戦での使用は初めてだったが、心配は杞憂に終わったようだ。
「スゲエ……ホントに止んだじゃん」
「揃って撃ちまくっていれば、同じタイミングで弾薬が切れるのは当然だ」
「だから、ああ言う場合は大人しく隠れてりゃいいのさ」
「へえ~、さっすがバトルマニア!」
「いや……マニアじゃねえけどな」
そんなツッコミを入れつつ、俺は気を取り直す。ここから先は、より攻撃が強くなるだろうからだ。
「さて……ここから どうするんだい?」
「敵の殲滅か、連れ去られた人たちの救出と言ったところか?」
まあ、そのどちらかになるだろう。
とは言え、ここは敵地だ。時間を掛ければ掛けるだけ、状況は不利になる。そのため、速やかに制圧を完了しなくてはならない。
「ここから二手に別れよう。俺とトニーと春喜は敵の殲滅を、将吾と能美と千夏と友恵は救出に向かってくれ」
「分かった。でも、どこに……?」
「体育館……だろうな」
恐らく、その通りだ。
井川にしても銃撃戦は予想していたはず。だとしたら、銃弾の行き交う教室に押し込んでいるはずがない。
「了解。俺達は体育館に向かうよ」
「ああ、俺達は1階ずつ制圧していく。何か進展があったら無線で連絡をくれ」
「承知した」
「よし……行くぞ!!」
「了解!!」
俺の号令に全員が声を揃える。
それを受けて、俺達は それぞれの向かう先へと足を進ませた――
―――*―――*―――*―――
~~~10分後・廊下~~~
「ふう……こっちも それなりに多いな」
額に浮かんでいた汗を拭いながら呟く。
実は、俺達が最初に乗り込んだのは教室棟だったのだが、あまりにも待ち伏せが多かったので、急遽 隣の棟である特別教室棟に移ったのだ。
「井川も それだけ本気ということだろう」
「ちょっとは手を抜いて欲しいけどねぇ」
どちらにも同意である。
だが、何にしろ負けるわけにはいかないのだ。こんなところで止まっているわけにはいかない。
「見つけたぞ! ぶっ殺して――」
階段から降りてきた男が、俺たちの姿を認めて襲いかかってくる。だが、その素人臭い襲撃に、俺は焦ることなく反撃に移った。
「グハッ……!!」
ゴム弾の一撃を受け、男が後方にひっくり返る。
「バ~カ、喋る前に撃てよ」
「こんな奴等ばっかりだったら楽なんだけどねぇ」
「フッ……確かにな」
思わず和む。
しかし、そんな場合でもないため、俺達は気持ちを切り替えると廊下へと身体を向けた。
「――待てッ!!」
そこへ、怒号にも似た大声を張り上げながら、何者かが俺たちの眼前に立ち塞がる。
俺達の行く手を阻んだ人物――それは修一だった。
「ここから先へは行かせない!!」
言いながら、ホルスターに手を伸ばし銃を抜き取る。
その様子を見たトニーと春喜が、咄嗟に前へと出て銃口を修一に突き付ける。だが、修一に怯えた様子はなかった。
「……そこを退け、修一。これは俺達と井川の喧嘩だ。関係ない奴を殺る気はない。命を懸けられない奴なら尚更な」
ハッキリと言い放つ。
この場面で気遣いも遠慮も必要ないからだ。
「……分かってるんだよ、そんな事は」
しかし、意外にも修一は俺の言葉を認めた。
だが、その口調は静かでありながら強い決意を感じさせるものだった。
「これが、大きな意志と意味を持ってる争いだってことぐらい、俺にも分かってる。でも……いや、だからこそ、今じゃないとダメなんだ!!」
「修一……?」
「今 《アンタ》が抱えてるモノに比べれば、ちっぽけで取るに足らない理由さ……でも、俺は どうしてもアンタに勝ちたいんだよ!!」
叫ぶような感情の吐露。
それだけに、俺の心まで届くようだった。
「あの頃から分かってた。俺はアンタに嫉妬してただけだって。姉さんのことだけじゃなくて、男として強いアンタが羨ましくて、疎ましかったんだ」
「……………………」
「だから、《井川》の下らない言葉に踊らされた……その上、その結果からも目を逸らし続けた……このままじゃ、あまりにもダサすぎるじゃないかよッ……!!」
「修一……」
「だから、ここは退けない!! 例え死ぬことになっても、今度は自分の力だけでアンタに挑む!!」
目元には涙さえ浮かべ、修一が自らの決意を口にする。
恐らく、彼にしても分かっているのだろう。こんな事をしたところで何の意味もないのは。結局、自己満足以外の何物でもないことも。それでも、挑まなければならないと決意したのだ。己の中で僅かに燻っていたプライドを守るために。
「……みんな、先に行ってくれ」
「なっ……バカを言うな、ボス!!」
「そうだよ! こんな奴に付き合うことないって!!」
確かに、その通りだ。
事実、そんな事をしている場合ではない。
それでも、これ程の覚悟を見せられては逃げるわけにいかない。
それに、何よりも――
「悪いな……俺は喧嘩に負けるのが何よりも嫌いなんだよ」
挑まれて背を見せるなど冗談じゃない。
どうせ派手に喧嘩をするなら、すべてに勝って有終の美を飾ってやろうではないか。
「まったく……そういう所は変わらんな」
「おいおい、トニー……諦めんなって」
「仕方あるまい。そんな人間が、私達の《ボス》なのだからな」
諦めとも苦笑とも取れる表情を浮かべながらトニーが言う。そんな彼に対し、春喜も笑わざるを得なかった。
「ははは……そうだったね」
「悪いな、春喜 トニー」
「構わん。だが、一つだけ言っておく」
「おう、これだけは言わせてもらうぜ!」
「……………………?」
「絶対に負けるなよ!!」
気持ちのいい笑みを浮かべて言うと、2人は俺に親指を立てて見せてから走り去った。緊迫した場面のはずなのに、俺の顔は自然と微笑んでいた。
しかし、それも一瞬のこと。
すぐに気を取り直すと、目の前にいる修一を真正面から見詰めた。
「さあ……これで存分に戦えるぜ」
「ああ……感謝するよ」
交わす言葉は それだけ。
だが、十分だった。
覚悟を決めた者同士の間に飾った会話など不要なのだから――




