思いもよらぬ共闘
~~~その日の夕方~~~
「……………………」
双眼鏡が見せる光景。
それを見て、修一は密かに舌打ちをした。
(思った以上にレベルが高いな。暮らしも……セキュリティも)
畑仕事に従事する男達。
家事に励む女達。
そして、コミュニティ全体を守る兵隊たち。
ある種の理想郷と言えるかもしれない。
この世界で、どこか牧歌的な雰囲気を醸し出しているのが気に食わないが。
「どうだ、修一?」
「目当てのガキは見付けたか?」
同行することになった2人の男が問い掛けてくる。
そんな彼等に対し、修一は言葉ではなく首を振ることで答えた。
「チッ……どこかに押し込めてやがんのか?」
恐らく、その可能性は低い。
必要ならば悪事にも手を染める彼だが、女子供には弱いところがあったからだ。
「とにかく、もっと近くまで行かないと話にならない。ルートを変えて進むぞ」
そう言うと、修一は歩みを再開しようとした。
だが、その瞬間――
『―――――――――ッ!!!』
辺りに警報音が鳴り響いた。
それは木々の間で反響して強まり、学校まで届いているのは間違いなかった。
「な、なんだってんだよ!?」
「クソッ、見つかったか!?」
「いや、違うはずだ…………」
辺りに人の気配はない。
何より、いきなり警報を鳴らす方が危険なことぐらい、彼等にも分かっているだろう。
(だったら、どうして……)
抱いた疑問に少しばかり俯く修一。
と、その時――
「あぁああぁぁ…………」
「ぐがぁぁああ…………」
背後からゾンビが現れた。
どうやら、仕掛けられていた警報装置に奴等が引っ掛かったらしい。
「と、どうする、修一!?」
一瞬、この場は倒して逃げようかと思った。
しかし、警報が作動したことで学校に動揺が走っているのは間違いない。つまり、逆に考えればチャンスなのだ。
「行くぞ、この機に乗じて潜り込む!」
「ま、マジかよ!?」
ゾロゾロと姿を現すゾンビを前に、男達は恐怖の表情を浮かべる。
しかし、その光景を目にしても修一の考えは変わらなかった。
「当たり前だ、さあ行くぞ!!」
そう言って自分をも鼓舞すると、修一は山道を駆け出した――
―――*―――*―――*―――
鼓膜を揺り動かす警報音。
それを耳にしながら、俺は手にしていた農具を放り出し、グラウンドへと駆け出した。
「ボス!!」
同じく、イオナの相手をしていたはずのトニーも飛び出してきた。そんな彼に対し、俺は必要な指示を出す。
「トニー、人選は任せるから警備隊を三つに分けてくれ。そうしたら、それぞれを学校の守備、農道の封鎖、山道の左ルート捜索に当たらせてくれ」
「了解ッ!!」
「隊長! 俺は どうすればいいッ?」
たまたま近くに居た春喜が意気込んで指示を仰いでくる。
「春喜は将吾と千夏を連れて山道の右ルートから捜索を頼む。警報の理由が分かったら すぐに無線で連絡を入れてくれ」
「おっしゃ、任せて!!」
指示を受けると、春喜は迷いなく駆け出していった。そんな彼の背中を見送ると、俺は声を張り上げた。
「信楽、三井、石川!!」
あの〝オタク3人組〟を呼び寄せる。
気になって外へと出てきていたのか、意外に早く集まってくれた。
「むむっ、我々の力が必要かね!?」
「ああ、3人は警備を固めて欲しい。信楽は《イージス》の調整を、三井は《シェルター》に皆を避難させてくれ。石川は防衛システムの起動を頼む」
「うむ、任せたまえ!」
「承知したでござるよ!」
「(*・∀・)ゞ!!」
俺の言葉に頷くと、3人は それぞれの持ち場に散っていった。
これで出すべき指示は終えた。
後は残ったメンバーと中央ルートから山道を捜索するだけだ。
「よし、行くか!!」
自らを奮い立たせるように言うと、俺は後ろ腰から銃を抜き取りつつ走り出した――
―――*―――*―――*―――
「(:.;゜;Д;゜;.:)ハァハァ」
息を切らしながら、石川は農地から少しだけ離れた空き地で足を止めた。そして、1度だけ深呼吸をして気分と肺を落ち着けると、近くにあった装置へと手を伸ばす。
それは、鉄製の台座にアサルトライフルが取り付けられた装置だった。土台部分は旋回可能となっており、更には そこから伸びたワイヤーがライフルのトリガーに掛かっている。
「トリャー(┛ಠДಠ)┛」
電子音を響かせ、装置が稼働し始める。
台座が左右に旋回しつつ、前方へと赤外線センサーを照射し続ける。これに外敵が触れた瞬間、ライフルが火を吹くというわけだ。
「( ¯﹀¯ )ドヤ」
誰に見せるわけでもなく胸を張ると、石川は学校へと引き返した――
―――*―――*―――*―――
「さあ、早く入るでござる!!」
学校の離れに建てられた集会所――そこへと非戦闘員を集める三井。そして、全員が集まったことを確認すると、内側からドアを閉めた。
『―――――――――ッ!!』
木造の内装には似つかわしくない重々しい音。
それもそのはず、この集会所の外装は三井によりフルメタルの改造を施されているからだ。これが《シェルター》と呼ばれる所以である。
「これで何人も入り込むことは出来ぬでござる」
満足気に笑うと、三井は他のメンバーの無事を案じた――
―――*―――*―――*―――
「チッ……どうなってやがんだ!!」
吐き捨てるように言いながらも、俺は銃を構えてトリガーを引く。
今となっては慣れた作業。
しかし、今回は数が半端じゃなかった。どうやら、大勢のゾンビが学校を目指して進軍してきたらしい。
(それだけ、奴等の数が増えてるってことか……)
それは、逆を言えば人間の数が減っているということ。
俺は少しばかり重々しい溜め息を吐きつつも、そんな場合ではないと無理矢理に気持ちを切り替えた。
「しかし……この状況で はぐれるとはね」
先程まで一緒だった能美とは、ゾンビの団体を相手していた時に見失ってしまった。彼のことだから大丈夫だとは思うが、早目に合流した方がいいだろう。
「さあ……行くか!」
言いながら、駆け出そうとする俺。
「えあぁあぁああッ……!!」
しかし、そこへ俺の行き道を塞ぐようにゾンビが現れた。
「邪魔すんな、こっちは急いでんだよ!!」
無駄に弾薬を消費するわけにはいかないため、正確に撃ち倒していく。
だが、次の瞬間――
『―――――――――ッ!!』
俺のものとは別に、銃声が近くで鳴り響いた。
仲間かもしれない――そう思った俺は、次々と現れるゾンビを倒しながら、バックステップで聞こえる銃声へと歩み寄っていく。
そして、最後の一体を撃ち倒した時、銃声の主が背後に迫った。
仲間との合流――それを期待していた俺だったが、しかし、感じる気配は全く馴染みのないものだった。
(チッ……侵入者か!)
感覚だけでの判断。
だが、それこそが この世界で最も頼りになると知っている俺は、迷うことなく振り向き様に相手へと銃口を突きつけた。
すると、そこに居たのは――
「―――――――ッ!!」
「……………………ッ!?」
それは、あまりに懐かしい顔。
俺に楯突いてばかりいた男の姿。
予想していなかった人物の登場に、さすがの俺も思考が停止してしまった。
「クッ…………!」
「おっと…………!」
同時に我を取り戻した俺達は、下がりつつあった銃口を互いの眉間に突き付けた。
「修一……どうして お前が?」
「お前に言う義理はない!」
相も変わらず突っかかるような態度。
だが、それで全てが分かった。どうやら、未だに井川へと仕えているらしい。
「まあ、どうでもいいさ……今は、別に問題があるからな」
言いながら、俺は肩越しに後ろを振り返った。
迫るゾンビの群れ。
奴等を前に、人間同士で争っていては死ぬだけだ。
「さて……どうするよ?」
挑発するような問い掛け。
それを受けて、修一は舌打ちをしながらも銃口を僅かに下げた。
「……勘違いするなよ、今だけだからな!」
「それはコッチの台詞だよ」
憎まれ口を言いながら、俺は即座に身を翻した。同時に、修一も反転。ゾンビに向き直る。
(まさか、こんな展開になるとはね……)
そんな事を心の中で呟きつつ、俺は銃を握る手に力を込めた――




