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まさかの人物

「…………倉庫か」


 辺りを見渡しながら俺は呟いた。

 いきなりの戦闘になる事さえ覚悟していただけに、ガランとした室内は何となく拍子抜けさせるものに感じられた。


「うむ……しかし、見るべきところはないな」

「次に行こ、次」


 腕を組むトニーと、さっさと歩き出す春喜。

 そんな2人に笑みを浮かべつつ、俺は隣の部屋へと続くドアを開けた。



その瞬間、俺は凍り付いた――



 その部屋にあったのは……人間の死体だった。

 それも、かなりの数の。


 しかし、驚愕すべきは多さじゃない。

 全ての人間に〝調理された形跡〟があるということだ。


「何と……いうことを……」

「奴等、人間狩りって言ってたけど……この事かよ……」


 顔を顰めて視線を逸らす2人。

 俺も、流石に直視する事は出来なかった。


「……行くぞ。奴等は確実に黙らせる」


 決意を新たにすると、俺達は別の場所へ向かうため倉庫へと戻った。


しかし、その時――


「ちょいと待ちな」


 不意に横合いから呼び止められる。

 反射的に視線を向けると、そこには10人ほどの男達が居て、こちらに対して銃を構えていた。


「嵌められた……か」


 警備が手薄だったのは、誘き出すためだったようだ。少しばかり迂闊だったかもしれない。


「ククク、馬鹿どもの狩りは楽で……って、おいおい マジかい」


 何やら一人で驚いている男。

 疑問に思って目を凝らせば、俺も同じように驚きの気持ちを抱くことになった


「ククク……久しぶりだな、ボス」

「お前は……田山!?」


 いつだったか、まだグループから追い出される前、武器と食料を奪って逃げようとした男だ。

 その贖いとして、俺は奴に三本の指を切り落とせと命じた。だが、逆上した田山がナイフを手に突っ込んできたのだが……そこを華菜に足を撃たれたのだ。

 まさか、あの状態から生き残れるとは思わなかった。


「生きてるのが不思議か? まあ、そうだよな。俺だって助かるとは思っていなかった」

「……………………」

「でもよ、案外 俺はタフだったみたいだぜ。生き残っただけじゃなく、こうしてグループのリーダーにまでなったんだからな」


 誇らしげに腕を広げる田山。

 その言葉と態度に、俺は先程の光景を思い出した。


「……何がグループのリーダーだ。あんな事をする奴等が胸を張っていいわけねえだろ!」


 思わず声を荒らげてしまう。

 人間である以上、決して超えてはならない一線があると思っていたからだ。


「ケッ……言ってくれるじゃねえか。それなら、人の足を撃ち抜いて置き去りにするのは人の道に反してねえってのか?」

「あれは貴様が我々の生命線を奪ったからだろう!」

「同じことだ! 理由が何であろうと、人を殺していることに変わりはねえ!」


 確かに、そうなのかもしれない。

 グループの規律を守らせ、生存率を高めるために田山の命を利用しようとしたのは間違いないのだから。


(同じ穴のムジナ……ってことか)


 ならば、無用な倫理観など引き合いに出す必要もない。

 奴等のやり方が気に食わない――敵対する理由は、それだけで十分だ。


「まあ、どうでもいいさ。今 お前達の生死を決めるのは俺なんだからな」

「クッ……」

「まずは、武器を捨てな。言う事を聞かなけりゃ……分かるだろ?」


 言いながら、こちらに向けている銃口を強調する。しかし、俺は言う通りにせず、密かにポケットへと手を忍ばせた。


「おっと……余計な事はするなよ、ボス。そのお手々を出しな」


 目敏く俺の行動に気付いた田山が牽制してくる。しかし、俺に焦りはなかった。すでに切り札は意味を為しているからだ。


「さあ、早くしなッ!」


 苛立ったように声を荒げる田山。

 そんな奴に対して、俺は不敵な笑みを浮かべながらポケットから手を出して見せた――持っている《手榴弾》と一緒に。


「なッ……テメェ!」

「動くなよ? もう安全ピンは外れてるんだ。お前らが驚かせた拍子に落っこちたら、数秒後にはドカンだぜ」

「クッ……」


 さすがに、この状況で手榴弾が爆発したらタダでは済まない事は理解しているらしい。田山は1歩だけ後ずさった。


 しかし、焦りの表情を浮かべたのは一瞬のこと。すぐに気を取り直したのか、余裕の笑みを浮かべながら俺に近付いてきた。


「ククク……やっぱり、アンタは一筋縄でどうにかなる相手じゃねえな。それでこそ、俺のボスだった男だ」


 何を偉そうに――そうは思ったが口には出さない。


「なあ……いっそのこと、ここは1対1のサシで勝負しねえか?」

「……どういうことだ?」

「あの日から、俺はアンタに対して憎しみを抱き続けてきた。でもな、リーダーになったことで、あの時のアンタの選択に理解を示せるようにもなってきたのよ」

「……………………」

「だが、そんなの俺は認めたくねえ。アンタだけは、俺の手で倒してえのよ」

「……要はスッキリしたいってことだろ?」

「ハハハッ、その通りさ。この手でアンタを殺して、すべてをチャラにしてえのよ」

「そういう事なら、付き合ってやるよ。《元ボス》として、ケリは着けねえとな」

「ククク、アンタなら そう言うと思ってたぜ……おいッ」


 どこか楽しげに言った後、田山は近くにいた男に目配せした。その結果として奴が手にしたのはリボルバーだった。


「勝負の方法はロシアンルーレットだ。交互に自分へと銃口を向けてトリガーを引く……ただ、それだけだ」

「……………………」

「トリガーを引く回数は自由に決めていい。一回でも二回でも……それこそ気合があるなら5回でもな」


 やれるものならやってみろとでも言いたげな表情。しかし、俺は気にせず鼻で笑ってやった。


「さて……準備はいいか?」

「ああ、いつでもいいぜ」

「ククク……じゃあ、行くぜ。まずは、アンタからだ」


 そう言うと、田山は俺に銃を手渡してきた。

 それを手にして俺は――


「……………………」


 差し出されたリボルバーを手にして、俺は一つだけ息を深く吐く。

 そして、銃口を自分の頭に突きつけると、田山に向かって不敵な笑みを浮かべて見せた。


「隊長……?」

「まさか……ボスッ!!」


 何かを感じ取ったのか、2人が慌てて俺を止めに入ろうとする。しかし、それより先に俺は覚悟を決めた。


「俺がお前に負ける事は無い……絶対にな」


 そう言い切ると、俺は静かに目を閉じてから、トリガーを5回連続で引いた。


『―――――――――ッ!!』


 5回連続で鳴り響く金属音。

 その間、俺の頭が撃ち抜かれる事は無かった。


「ふうぅ……」


 さすがに漏れる溜め息。

 正直、生きた心地がしなかったが、何故だか大丈夫だという確信が俺の中にはあった。


「さあ、次はお前の番だぜ」

「クッ……」


 動揺と恐怖を表情に宿す田山。

 そんな奴を見て、俺は銃を渡すことなく自分の腰元へと手を伸ばした。そして、鞘に収まっていたナイフを抜き放つと、田山の足元に放り投げる。


「…………3本だ」

「えっ…………?」

「指だよ、そいつで三本を切り落とせ。あの時に果たせなかった《詫び》を、今 見せてもらおうか?」


 あの日、あの時の再現。

 しかし、今度は違う結末を迎えることだろう。


「クッ……ククククク……」

「……………………」

「結局、変わってねえのか……必死になって生き残ったところでよ……」


 どこか諦めにも似た口調で呟く田山。

 そして、その手をナイフではなく腰元の銃へと伸ばそうとした。


 だが、その瞬間――


『―――――――――ッ!!!』


 突如、爆発音が辺りに響き渡った。

 それと同時に倉庫の出入口が吹き飛び、大勢の武装した男達が駆け込んできた。


「奴等だ! まとめて始末しろ!!」


 そう声を上げるなり、男達は一斉に銃を構えた。それを見て、俺 トニー 春喜の3人は、同時に横へと飛んで回避した。


『―――――――――ッ!!!』


 鼓膜を震わす銃声。

 それと同調するように、田山を含む男達が撃ち抜かれて倒れ伏していく。


「チッ……こうなったら……!!」


 迷ってはいられない。

 俺は咄嗟にポケットへと手を伸ばすと、手榴弾から取り付けたばかりの安全ピンを外して倉庫の壁へと投げた。


『―――――――――ッ!!!』


 またも響き渡る爆発音。

 その凄まじさを表すように、倉庫の壁には大きな穴が空いていた。


「トニー、春喜! 走れ!!」


 短い言葉で指示を出す。

 それを予期していたのか、2人は素早い動きで外へと向かって駆けた。


「逃がすか!!」


 しかし、それと同時に俺達の意図を察した襲撃者の1人が、行く道を塞ぐように銃弾をバラ蒔いた。


「クソッ……!!」


 結果、俺だけが外への道を閉ざされてしまう。そんな俺を見て、春喜とトニーが足を止めた。


「隊長!!」

「ボスッ!!」


 走る足を止め、戻ろうとする2人。

 そんな彼等に、俺は反射的に叫んでいた。


「止まるな! いいから行け!!」

「でもッ……!!」

「大丈夫だ、今度は すぐに戻る!」


 言いながら、二人に笑みを浮かべて見せる。

 それで納得……いや、信じることにしたのか、2人は力強く頷いた。


「……分かった! 絶対に死ぬなよな!!」


 そう言うと、2人は敢えて俺に視線を向けることをせずに走り去っていった。


(さて……次は俺だな)


 追い掛けてくる銃撃を躱しながら、俺は何とか側のドアから逃げ出した――

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