逆襲
「……来なかったか」
小銃を抱えながら、俺は朝日を浴びて呟いた。
昨日の連中を拘束・尋問したところ、奴等は少し離れたところの工場に拠点を構える集団であることが分かった。以前、俺達の存在を知り、こちらの仲間を拉致して情報を得た上で襲撃の手伝いをさせたのだ。
それを知った俺達は、すぐにでも反撃に出ようかと考えた。しかし、主立った戦闘メンバーが出撃した後に第2陣が来たとしたら此処を守りきれない。そのため、朝まで様子を見ることにしたのだ。
(これで、待つ理由はなくなったな……)
襲ってこないのであれば放っておけばいい――そんな意見もあるかもしれないが、そうするわけにはいかない。明確な害意を持っている連中を放置するわけには行かないのだ。
「どうやら、待っても無駄なようだな」
「こりゃ、こっちから殴り込むしかないっしょ!」
既に戦闘態勢の二人。
春喜は元より、常は冷静に見える能美にしても、住処を襲われて憤慨しているのだろう。
「よし、作戦を練るぞ。職員室に集合だ」
それだけを言うと、俺は花壇の縁から腰を上げた。
―――*―――*―――*―――
~その頃、井川の拠点では~
「……………………」
朝日が差し込む図書室――そこで、井川は報告を待っていた。
「……失礼します」
その時、一人の男が図書室に入ってきた。
上気した頬、荒い息遣い、そして……血に染まった衣服が特徴的だった。
「……何か喋ったか?」
「はい……ボコボコにしてやったら吐きましたよ」
その時の感触でも思い出しているのか、男は愉悦の表情を浮かべた。
「それで、奴等の正体は?」
「ここから1時間ほどの所にある工場を住処にしてるゴロツキです。此処と〝別の場所〟を同時に襲撃したそうなので、それなりに仲間の数はいるかと」
「ふむ……それならば、片付けるしかないか」
溜め息混じりに井川は呟いた。
実を言うと昨日の夜、学校が正体不明の闖入者によって襲撃を受けた。
守りは徹底させていたために大きな被害は出なかったが、それでも数人を殺されてしまったのだ。
故に、井川は相手の拘束を指示。そいつ等を尋問して情報を聞き出したのだ。まあ、目の前の男の姿を見れば、そのやり方は想像が付くと思うが。
しかし、ここまでのプロセスは別段 井川にとって気だるいものではない。彼が溜め息を吐いた理由は他のところにあった。
それと言うのも、最近になって自分の治めるグループ内で求心力が落ちてきているのだ。物資の調達が上手くいっていないのが理由である。
そこへ来て、今回の襲撃だ。
井川にとって不可抗力であるとは言え、それがリーダーへの不満に繋がるのは仕方のないことだった。
(今回は、私も出るしかないか……)
求心力の回復――それには陣頭に立って戦うのが一番だ。実際に武器を手に取るかどうかは別にして。
(まあ、いい。また予期しない収穫があるかもしれないからな)
前回、華菜を手に入れたように。
「井川さん、実は他にも報告が……」
「……何かな?」
一転、気まずそうな表情を浮かべる男に、井川は片眉を上げながら問う。すると、男は一度だけ咳払いしてから口を開いた。
「先程、自分の手伝いをしていた者が一人、姿を消しまして……」
「逃げたのか?」
「いえ、その気配はありませんでした。ただ、裏庭の方で争ったような痕跡が見つかったらしいです」
では、誰かが連れ去ったのだろうか。
昨日の連中が残っていて、何かの目的で拘束した可能性も考えられる。
(……いや、今は気にする必要もない)
どちらにしろ壊滅させれば問題ないと気持ちを切り替え、当面の指揮へと移ることにした。
「よし、では――」
人を集めるよう指示を出そうとした井川。
しかし、そこに新たな客が現れた。
「失礼。井川総帥、いらっしゃいますかな?」
片瀬が少しばかり焦った様子で入ってきた。
「ああ、ドクター・片瀬。どうかしたかね?」
「はい。実は、基地から持ち帰った端末に、重要な研究素材が見つかりそうな施設の情報を見つけましてな。そこへ向かう許可を頂きたいのです」
突然の申し出。
確かに、最近の片瀬の研究は停滞気味だ。今回の件は、それを打破するのに必要なことのようだ。
「うむ……まあ、構わん。だが、他の作戦に人を出すから、そんなに多くは無理だぞ?」
「はい、護衛だけで十分です。そちらの作戦の人選で漏れた者で構いません」
「それならば良いだろう。後で迎えをやるから、保健室で待っていてくれたまえ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
礼の言葉と共に去っていく片瀬。
そんな彼の後ろ姿を眺めながら、井川は改めて指示を出した――
―――*―――*―――*―――
~~とある工場の前~~
「ここか……」
トランクから武器を取り出しつつ俺は呟いた。
拘束した連中の話によれば、ここを拠点にしているらしい。
「意外とスムーズに来れたな」
「うんうん、久しぶりにドライブって感じだったねぇ」
俺に続いて車を降りるトニーと春喜。
とりあえず、俺達3人が探りを入れる先発隊だ。今頃は能美たちの別働隊が こちらに向かっている頃だろう。
「何とか見つからずに裏口まで来たが……ここからどうする?」
「中に忍び込んで片っ端からブッ飛ばしていく……ってのはダメか?」
半笑いでトニーを見ながら言い放つ。
その余りに考えのない作戦に、彼は苦笑を浮かべた。
「さっすが隊長! 分っかりやす~い!」
対して春喜は歓迎モード。
難しいことを考えるのが嫌いな彼らしい。
「まあ、実際にアレコレと考えたところで仕方ないんだ。それで行こう」
僅かに表情を引き締めてトニーが頷く。
ここまで来て尻込みしていても仕方ないと理解しているのだろう。
「よし……行くぞ」
言いながら、トニーと春喜に小銃を手渡す。
それぞれにマガジンを装填したところで、俺達は慎重に歩き出した。
―――*―――*―――*―――
工場内の外周に沿いながら歩き続ける。
これで出入りできる場所でも見つかれば楽なのだが。
しかし、その時――
「…………ッ!? 何だ、テメェ等!!」
見回りか、角を曲がろうとしたところで一人の男に出くわした。
「忍び込むとは上等だ! ぶっ殺して――」
言いながら、男が銃を構えようとする。
しかし、それを許すほど俺達は甘くなかった。
「させるかよ!」
反射的に距離を詰め、銃身を押さえて射角を外す。
そこへ、俺に続いてトニーが地を蹴った。
「――――――――ッ!!」
顎への一撃を食らい、男が声もなく崩れ落ちる。
『………………ッ』
その時、男の胸ポケットから何かの鍵が零れ落ちる。何気なく拾い上げてみると、車やバイクの鍵とは異なる形状をしていた。
「……どっかの鍵だよな?」
「うむ……ドアの鍵か?」
「端から順番に突っ込んでいけば分かるんじゃない?」
何とも場当たり的な案。
しかし、それ以外に方法はなさそうだ。俺達は近くにあるドアというドアに鍵を入れてみることにした――のだが。
「あっ……」
手近にあったドアに試したところ、スムーズに鍵が回転した。同時に鳴った軽快な音は、解錠されたことを物語っていた。
「大当たり~~~!」
手にベルでも持っていれば鳴らしそうな勢いで言う春喜。そんな彼に苦笑を向けながら、俺は目の前のドアを開けた――




