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謎の部隊

 ~翌日・とある工場~


「はあっ……はあっ……!!」

「はあっ……ドアを閉めるんだ!!」

「フンっ……!!」


 重々しい音を響かせて、鉄製のドアが閉じられる。

 だが、その直後――


『―――――――――ッ!!!』


 硬いものが ぶつかり合うような音が鼓膜を震わせる。

 恐らく、ドアを叩くというよりも、勢い余って激突したのだろう。


「……………………」


 残響に緊張感を煽られながら、俺はドアに向かって銃を構え続ける。しかし、分厚い鉄の扉はゾンビに破れる代物ではないのか、音以上の脅威は無いように思われた。


「……ふう、焦らせやがって」


 ヒップホルスターに銃を戻しながら、俺は安堵の溜め息を吐いた。


「それにしても、凄い数だったな」


 トニーが胸元のボタンを開けながら言う。

 その言葉に、俺は同意の意思を込めて頷いた。


 今日の俺達は、朝から物資の調達と同時に、学校までのルートを開拓するため広範囲での探索を行っていた。

 その途中で工場地帯に立ち寄ったのだが、そこがゾンビの巣窟だったのだ。結果として俺達は数えるのも馬鹿らしくなる量のゾンビに追い掛けられ、このような状況になっているというわけだ。


「しかし、本当に此処で合ってるのか?」


 そう言いながら、トニーは隣に立つ隊員に目を向けた。


「は、はい! データでは、そのようになっているであります!」


 緊張した面持ちでタブレット端末を操作しながら返事する隊員。そんな彼に対し、トニーは僅かに苦笑を浮かべた。


 彼の名前は《瀬尾 武智》。情報技術員だ。

 実は、この工場を目指したのは彼の提言からだった。トニー達が拠点としていた基地で、瀬尾が分析を任されていた端末――このゾンビ騒動と関係がありそうな施設から回収した物――の中に住所の記された謎のリストが隠されていたのだが、その内の幾つかが武器を貯蔵している前哨基地と重なったのだ。


 ならば、未調査の場所にも武器があるかもしれないと、その中から学校へのルートと重なる箇所を選んで来てみたのだが、どうにも基地として使われていた様子がないのである。


「どこかに隠してあるのか、それとも引き上げた後なのか……どちらにしろ、もう少し調べてみないとな」

「ああ、そうだな」

「了解であります!」


 俺の言葉にトニーと瀬尾が頷く。

 そんな2人に俺も頷き返すと、工場内の探索を開始した。



 ―――*―――*―――*―――



  ~10分後~



「はあ……ここもか」


 俺は重々しい溜め息と共に呟いた。

 階下へと続く階段を見つけて降りてきてみれば、いつかの大学で見つけたのと同じ研究室へと辿り着いたのだ。


「これが、ボスの言っていた……」

「ああ、モンスター開発室さ」


 皮肉を込めて言い放つ。

 誰に対してなのか分からないところが、少しばかり悔しいが。


「電気は……来てるな」


 どこかで自家発電装置でも動いているのか、メインコンピュータに限ってだが稼働していた。


「とりあえず……瀬尾、出来るだけデータを取り出してくれ」

「ハッ、了解であります!」


 トニーの指示に敬礼すると、瀬尾は自分のタブレットをメインのパソコンに接続する。それを横目で見ながら、俺は情報を共有しているであろう別のPCを立ち上げた。


(これは……日記か?)


 無名のフォルダに格納されていた日付だけのファイル。何となく気になった俺は、それを端から開いていった。


……………………

………………

…………

……



「ふむ……なるほどな」


 日記を粗方 読み終わった俺は、誰に言うともなく呟いた。


「何か分かったのか?」


 手持ち無沙汰だったのか、俺の呟きを聞いて声を掛けてきた。そんな彼に向き直りながら、得た情報の整理がてら、ここで起きたことを説明した。


「やっぱり、ここもウィルスの研究施設だったらしいな。でも、それを隠すために上階の倉庫は避難所として使っていたんだってよ」


「ふむ……」

「だけど、研究中に事故が発生。ウィルスが配管を伝って倉庫に流入してしまったらしい。それが原因で、ここは破棄されたんだってよ」

「では、外にいた大勢のゾンビは……」

「ああ……多分、避難所に逃げてきた人達だろうな……」


 何とも後味の悪い真実。

 俺達は揃って溜め息を吐くと、瀬尾の方へと視線を向けた。


「――よしっ、完了であります!」

「うむ、では引き上げるとしようか」


 場の空気を払拭するように、トニーが声を張り上げる。それに同意の頷きを返すと、俺達は来た道を戻って上階へと出た。


 辺りを警戒しつつ、倉庫へと戻る。

 と、その時――


『……………………ッ!!』


 どこからか聞き覚えのある音が響いてきた。

 久しぶりに聞くため反応が遅れたが、それは間違いなくヘリコプターのものだった。


「……止まったな」


 屋上で音が止む。

 つまり、乗ってきた人間は此処に用があるということだろうか。


「ど、どうするでありますか……?」

「そ、そうだな……」


 俺は見えるはずもないヘリコプターを天井越しに見つめながら、腕を組んで考えた。


「……少し様子を見よう」


 ヘリを操縦してる時点で人間だが、よく知れない相手に正面から会いに行くのは気が引ける。こんな世界では尚更だ。ここは、慎重に行動するべきだろう。


「では、コンテナの陰に隠れよう」

「ああ、そうだな……」


 トニーの言葉に頷くと、俺達は入口からは目に付きにくいコンテナの影へと移動した。


『……………………ッ!!』


 その時、ブーツ特有の硬質で大きな足音を響かせながら数人の軍服を身にまとった男達が入ってきた。

 身なりこそ瀬尾たちと同じだが、放つ空気が触れるだけで切れそうなほど鋭かった。


「奴等……本物だな」

「本物?」

「ああ、高度な訓練を受けた本物の兵士だ」


 言われて視線を向けてみる。すると、確かにクリアリングの仕方が手馴れていた。俺達もトニーに習ったが、その比ではない。


「一体、何者だ……?」


 そんな疑問を抱きながらも、様子を見続ける。すると、新たな人影が上階から降りてきた。


「安全は確保できましたか?」

「ハッ! この階に敵影はありません!」

「よろしい。では、地下へと向かいますよ。実地テストは――」


 言いながら遠ざかっていくため、言葉が途切れてしまう。続きを拾おうと揃って移動しようとした俺達だったが――


『―――――――――ッ』


 誰かの飲みかけか、瓶入りのジュースを蹴飛ばしてしまった。余計な音など存在しない倉庫に、その音は予想外の大きさで響き渡った。


「誰だ!?」


 怒声と銃弾が同時に向けられる。

 その容赦のない攻撃に、俺達は武器を構えつつ身を隠した。


「何事ですか、騒々しい」

「どうやら、ネズミが入り込んでいたようです」

「なら、早急に始末なさい。こんな所に長居するつもりはありません」

「了解しました!」


『―――――――――ッ!!!』


 鳴り響く銃声。

 放たれる鉛玉の全てが、正確に俺たちの隠れている場所へと撃ち込まれていた。


「クソッ……正確な射撃しやがって!」


 音しか聞いていないというのに これなのだ。姿を見せようものなら一撃で仕留められるだろう。


「ボス、どうする!?」

「あんな奴等と やり合うのは馬鹿げてる……隙を見て逃げるぞ!」


 しかし、実際には その隙を作り出すのが難しい。熟練の兵士を相手にするなど、これが初めてだからだ。


「ボス……あれは裏口じゃないか?」


 言われ、視線を向ける。

 すると、確かに倉庫の一角に裏口と思われるドアがあった。しかし、そこを抜けるためには奴等の射角に飛び出さなければならない。


「囮が必要か…………」


 現状で考えられるのも出来るのも、それだけだ。他に代案などないだろう。


「ならば、私が囮になる。ボスは瀬尾を連れて逃げてくれ」

「いや、俺がやる。トニーは先に逃げてくれ」


 こういう場合は能力の違いではなく、今後に有用なのは どちらかで決めるべきだ。後進の育成も出来るトニーに比べて、俺の有用性は高くない。


「……分かった、頼む」


 言い出したら譲らないのは付き合いの中で悟っているのか、トニーは少しだけ不安げな表情を浮かべはしたものの頷いてくれた。


「よし……行けッ!!」


 物陰から半身だけ覗かせ、牽制射撃を行う。

 それと同時に、トニーと瀬尾が裏口に向かって走り出した。


「クッ……生意気な!」


 お返しとばかりに銃弾を撃ち込んでくる。

 しかし、反撃は予想の範疇。俺は焦らずコンテナを盾にしてやり過ごす。


「ならば、奴等を先に――」


 言いながら、兵士の1人が銃口をトニー達に向ける。

 危ない――そう思って体勢を変えようとする。

 しかし、その瞬間 目に映ったのは、銃口とは別に俺を見ている兵士の姿だった。


(フェイントかッ……!!)


 直前で気付いた俺は、体勢の変更を無理矢理に止め、ハンドガンの銃身を横に向ける。そして、そのままマズルジャンプを利用した掃射を行った。


「チッ……!!」


 舌打ちと共に身を隠す兵士達。

 その間に、トニーと瀬尾は裏口からの脱出に成功していた。


(次は俺だな。でも……)


 同じ脱出路は使えない。ドアを開けている最中に撃ち殺される。


(だとすると、下に行くしかないか……)


 階下に出口がないことは百も承知。

 それでも、奴等を下に誘導した上で足止め出来れば、脱出の機会も得られるはずだ。


(まあ、そんなチャンスがあればだけどな……)


 自嘲的な笑みを浮かべつつ、俺は残弾を撃ちながら地下へと向かう階段を下りた。

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