どんな状況でも友情は芽生える
~翌日 高架下・雅也side~
「ガツガツ……ムシャムシャ……!」
用意した朝食を貪るように食べる車泥棒――もとい、将吾。聞いた話では昨日の夕方から食べていないそうだから、それも仕方がないだろう。
(フフッ……それにしても、お人好しな男ですね)
将吾には見えないよう、沸かした缶コーヒーの湯気で顔を隠しながら、ひっそりと笑みを浮かべる。
実は昨夜、雅也は将吾に命を奪わない代わりに1晩の見張りを命じた。自分が車で眠っている間、ゾンビ共を近付けさせるなと言ったのだ。
雅也からすると、本当に見張りをやらせようとは思っていなかった。言外に逃げるなり何なり好きにしろという意味で そう命じたのだ。
恐らく、それは将吾も理解していただろう。しかし、寝入ってしまった雅也を放っておくことが出来ずに彼は留まった。
結果、将吾は一睡もすることなく十数体のゾンビを倒す事となったのだ。奪おうとした車の所有者を守るために。
(まあ、礼の代わりに食事ぐらいはね……)
らしくないと思いつつ、雅也は誤魔化すように心の中で呟く。
本来、他者がどうなろうと気にもしないのが雅也だ。身内以外の生死など、彼には毛ほども興味の無いことなのである。
それでも、こうして食事を用意したのは、将吾の中に近いものがあると感じたからだ――《彼》の心根に近いものが。
必要とあれば残忍な判断も辞さない彼だが、基本的に根底は甘い性格をしている。少なくとも、雅也は そう思っている。でなければ、理屈で思考を片付けられる自分は必要とされなかったであろう。
(もしかしたら、馬が合うかも知れませんね……)
彼と並び立つ将吾をイメージして、またも自然と笑みが浮かぶ。こんな感じで顔の筋肉が動くのは、何だか久しぶりな気がした。
「ガツガツ……うぐッ、ムググッ……!」
(……まあ、こういうところは直した方が良さそうですが)
がっつき過ぎて喉に詰まらせた将吾へ水を差し出しながら、雅也は苦笑を浮かべたーー。
―――*―――*―――*―――
~場所は移って、とあるスーパー~
「……………………」
「……………………」
何とも言えない状況に、俺とトニーは言葉を失っていた。
「ハッハハハ! 面白えことになったな、おい!」
陽気に笑う長髪の男。
ドレッドヘアに着崩したファンキーな服装と、街で見掛けたら間違いなく道を開けたくなるような風貌だ。
「……………………」
それに対し、奴の連れである もう一人の男は、終始 無言を貫いていた。
(……ったく、面倒な状況だな)
そんなことを心の中で呟きながら、俺は改めて辺りを見回した。
まず、俺が長髪の男に銃を突き付けていた。物資調達のために訪れたスーパーで、いきなり奴に襲われたからだ。
そして、そんな俺に無言の男が銃を突き付けていた。長髪の男の仲間なのだろう。その動きに躊躇いはなかった。
だから、今度はトニーが無言の男に銃を突き付けた。結果、俺達は互いに互いの命を握ることになったのだ。
「……で? これから どうするんだ? 何かプランがあるなら聞きてえんだがな」
こんな状態であるにも拘わらず、長髪の男が不敵な笑みを崩さずに言う。その態度は俺達を舐めているからに他ならないため、俺も食ったような口調で言い放った。
「お前らが銃を下ろして、ここから出ていくってのは?」
「ハッハハ、それも悪くねえ。まあ、食い物を手に入れてからの話だがな」
つまり、引く気はないということだ。
ならば、この状況を崩すわけにはいかない。
「いっそのこと、1 2の3で撃ち合うか?」
「何を馬鹿げたことを……」
苦々しくトニーが否定する。
だが、男の態度は変わらなかった。
「そうでもしねえと片が付かねえだろ?」
「だからと言ってだな……」
「それぐらいの英断は必要だぜ?」
「……それでテメェが助かると思うなよ?」
気楽で傲慢な物言いが気に入らず、思わず顎の辺りに突き付けていた銃に力を込める。僅かに鳴った金属音が、男の口を閉ざさせた。
だが、その時――
「くけけけ~ッ!! 肉肉ニク~ッ!!」
「肉肉食べ~ッ!!」
店の奥から、最も会いたくない奴が現れた。こんな状況下で出てくるとは、本当に空気の読めない奴等だ。
「ボス……!!」
トニーが焦った声色で俺を呼ぶ。
奴等が現れた以上、こんなことをしている場合ではないからだ。
「……さて、ボスさんよ。どうする?」
「……………………」
男に問われ、俺は一瞬で判断を下す。
「そんなの――」
言いながら、俺は半熟を睨み付ける。
そして――
「――決まってんだろ!!」
男に突き付けていた銃口を外し、半熟に向かって連続でトリガーを引き絞る。それを合図に、トニーも男達も一斉に半熟との戦闘を開始した。
「ハッハハハ! さらに面白くなったじゃねえか!!」
男が円を描くように移動しながら発砲する。しかし、正確に狙っていない銃撃は半熟へと届くことは無かった。
その間に、半熟が飛び退いてしまう。
個々に別方向へと向かったため、思わず狙いがブレてしまった。
「チッ……余計なことを……」
自然と愚痴が漏れる。
半熟の相手は これがあるから嫌なのだ。
「ボス!!」
トニーの声を受け、反射的に視線を向ける。彼が狙っていたのは、隅の方へと移動した半熟だった。
(まあ、奴等を気遣う義理もねえな……)
もう一体の半熟を相手に奮闘している奴等を横目で見ながら、俺は心の中で呟いた。本来なら共闘すべきなのかもしれないが、信用できるかどうかも分からないのだ。その判断は後回しでも構わないだろう。
「気を引くのは俺がやる。その間に仕留めてくれ」
純粋な兵士としての練度はトニーの方が上だ。しかし、身の軽さなら俺に分がある。撹乱と陽動なら俺の方が適任なのだ。
「無茶するなよ、ボス」
「無茶を通すのもボスの役目だよ」
どこかで聞いたことのあるセリフを吐きながら、俺は半熟に向かって駆け出した。
「くけけけけ~?」
俺の姿を認め、濁った目を向けてくる半熟。
「おら、こっちだよ!!」
撃ち抜くというより、気を引くための銃撃。その効果はあったのか、半熟が俺に向かって腰を落とした。
(外すなよ……!!)
狙い半分、感覚半分でトリガーを引く。
『―――――――――ッ!!』
腕を貫く暴力的な衝撃。
放った銃弾の内、2発が半熟に命中。
1発が足を撃ち抜き、もう1発が胸に当たったため、派手に床へと倒れ込んだ。
「トニー!!」
この好機を逃すまいと、すかさずトニーに指示を飛ばす。名前を呼ぶだけで理解できたのか、トニーは手にしていた小銃で半熟の頭を撃ち抜いた。
「上手くいったな、ボス」
「ああ、楽勝だったぜ」
内心に残る焦りを見せず、笑顔で言い切る。しかし、トニーにはお見通しだったのか、そんな俺を見て苦笑を浮かべていた。
「……で? アイツらは?」
トニーに問い掛けながらも辺りを見渡す。
「クッ……この腐りかけ野郎が……!!」
「……………………!!」
隙を見せたのか、作らされてしまったのか、長髪の男が半熟に組み付かれていた。それを救出しようと もう1人が銃を構えるが、近過ぎて撃てないらしい。
「どうする、ボス?」
小銃を肩に担ぎながら、トニーが焦りもなく問い掛けてくる。彼にしても、敵対していた人間にまで情を向けるほど甘くはないのだ。
(それにしても、どうするかね?)
奴等を助ける義理もない――だが、無闇にゾンビを増やすこともない。そう判断した俺は、銃口を半熟に向けた。
「余計な緊張は排して、しっかりと狙うんだ」
「大丈夫。教えは覚えてるさ……」
そう言いながらも、俺は1度だけ深呼吸をして緊張を和らげた。
『―――――――――ッ!!』
狙いを定めて放った銃弾は、見事に半熟の足を撃ち抜いた。感覚がないとは言え、人間の体を成しているのは変わりない。半熟は衝撃に膝を着く。
「ハッ、いい加減に離れやがれ!!」
組み付いていた半熟を蹴り飛ばす男。そこへ、俺が止めの一撃を撃ち込んでやった。
「おいおい……頼んじゃいねえぜ、ボスさんよ」
「危なっかしくて見てられねえんだよ」
「ハッ……言ってくれるね」
物怖じも遠慮もない言葉が、逆に場の空気を和ませる。
だが、その直後――
『……………………ッ!!』
ゾロゾロと多くの足音が俺達の方へと近付いてきた。
「公平! 大丈夫か!?」
「何だ、テメェ等! 公平と健治に何しやがった!!」
続々と集まる武装した男達。ほとんどが今風の服装をしており、奴等のお仲間であることが伺えた。
「落ち着けよ。ソイツ等は敵じゃねえ」
「……………………」
公平と呼ばれた長髪の男が、いきり立つ周りの男達を制止する。それだけで大人しくなったところを見ると、奴がグループのリーダー格らしい。
「悪いな、ウチの連中は血の気が多くてよ」
「躾が出来てるなら文句はねえよ。無駄に撃たなくて済むからな」
「ハッ……またまた言ってくれるね」
どうでもいい会話のやり取り。
しかし、相手の人と成りを見極めるには必要なことだ。
「さて……結局、話は最初に戻るわけだけどよ。この場は、どう収めようか?」
確かに、それが考えなければならない第一議題だ。そこを解決しなければ、何も進展しないのだから。
「……物資は山分け。その後はお互いに干渉しないってのは どうだ?」
「んん……ま、妥当なとこか」
さすがに、それ以上を望むことは争いの種になると理解しているのだろう。公平は思わせぶりな態度は取ったものの迷わず頷いた。
「んじゃ、ショッピングと洒落込むか」
そう言うと、公平は笑顔を浮かべながら仲間と共に歩き出した。その後ろ姿を眺めながら、俺はトニーに苦笑を浮かべた――




