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学校からの脱出

~そして時は移り夜となり

将吾side~



「……………………」

「はははっ……馬鹿じゃねえの!」

「うるせえな、テメェだって――」


 外なら聞こえてくる陽気な声。

 それがアルコールによって与えられていることを将吾は確信していた。


「よし……行くか」


 気合いを込めて立ち上がる。

 チャンスは一度だが、失敗する気にはならなかった。


(まずは呼び寄せないとな……)


 心の中で呟きながら、軽く拳を振り上げる。


『―――――――――ッ!!』


 ドアを連続で叩きつける。

 響き渡った音は男達の耳にも届いたのか、外から聞こえてきていた大きな声が止んだ。


「何だ! うるせえぞ!」

「用がある……って言うか用を足したいんだよ!」

「ああん? そんなもん、中でやっちまえよ!」

「出来るわけないだろ! 俺は お前達と違って上品なんだよ!」


 わざと煽るような言葉を選ぶ。

 すると、それに乗せられた男達が、扉越しでも分かるぐらいにイライラしながら歩み寄ってきた。


「うるせえ奴だな! そこでやっちまえって言ってんだろ!」

「そうだよ、テメェに便所なんて持ったいねえ」


 好き勝手なことを口にしながら、男達がドアを開ける。

 もし、この時点で奴等に冷静な思考力があったなら、すぐにでも将吾から距離を取っただろう。既に戦闘態勢を取っている男には近付くべきではないのだから。


「馬鹿がッ……!!」


 吐き捨てるように言いながら、将吾が一瞬で男達との間合いを詰める。


「グアッ……!!」


 強烈なアッパーを食らい、そのまま後ろへと吹き飛んでいく。現役と呼んでも差し支えないボクサーの一撃は、容易く意識を奪ったようだ。


「なッ……ちょっと待……!」

「待つわけないだろ!!」

「…………!!」


 鋭いフックを顎に食らい、男が声もなく意識を失う。

 倒れる2人と、久しぶりに訪れた静寂。

 それらを感じることで、将吾は自分の自由を確認した。


(……っと、浸ってる場合じゃないな)


 ボーッとしていては折角 掴んだ自由も逃してしまう。

 将吾は見張り役だった男をドアに寄り掛からせ、もう1人を倉庫の中に押し込んだ。これで、傍目からは見張りも【将吾も】寝ていると思われるだろう。


「よし……さっさと行くかな」


 僅かに勝利の笑みを浮かべると、将吾は手近なドアから外へと飛び出した――



 ―――*―――*―――*―――



「……上手くいったみたいだね」


 屋上から体育館を眺めつつ、華菜は一人で呟いた。別に心配していたわけではないが、何となく気になって見にきたのだ。

 と、その時、背後でドアの開く音がした。

 何気なく振り返れば、そこには今となっては見慣れた顔があった。


「華菜……ここに居たのね」

「小百合……」

「もう夕食の時間よ。今回こそ食べてもらうからね」


 確固たる思いを感じさせる口調。

 そんな彼女に僅かな笑みを浮かべると、華菜は口を開いた。


「……いいよ、久しぶりにお腹も減ってるし」


 すべては今の華菜とは関係の無いこと。

 それでも、何故か気分が良かった。


「えっ……ほ、ホントに?」

「うん、ほら行こうよ」


 そう言うと、華菜は小百合の横を通りドアを潜る。

 この足取りの軽さが、続いて欲しいと思いながら――



 ―――*―――*―――*―――



~そして、少しの時が流れ~



「はあっ……はあっ……!」


 必死に走り続けること十数分。

 学校から十分に距離を開けたところで、将吾は足を止めた。高架下のガードレールに腰掛け、乱れた息を整える。


「ゾンビは……いないよな?」


 誰に言うともなく呟きながら、あたりを見回す将吾。すると、視界の端に一台の車が映った。

 ずっと放置されていたものなら動かないのは明らかだが、どこかでガソリンを調達できれば かなり移動が楽になる。


(と言うか、寝床も必要だしな……)


 もう夜も深い。そういった事も考えておかなければならないだろう。


(ドアが開いてれば楽なんだけど……)


 そんなことを思いながら、車へと歩み寄る。

 だが、その瞬間――


「……動かないでください」


 そんな言葉と共に、背中が硬い感触を伝えてくる。見てすらいないのに恐怖を抱かせる冷たさは、それが銃であることを物語っていた。

 しかも、相手は銃を突き付けていると理解させた後、身を離して構え直したのだ。その動きが、さらに将吾から反撃の機を奪っていた。


 銃を背中に突き付けていると、それだけで有利だと感じてしまいそうだが、実際は賢いやり方じゃない。何故なら、僅かに横移動するだけで射角から逃れることが出来るためだ。

 確実に相手の動きを封じたい場合は、少し離れて しっかりと構えて狙いをつけた方が良いのである。そうしていれば、相手が反撃しようとしても すぐに撃つことが出来るからだ。


(どうするかな……)


 予想外の展開に、将吾は焦りの表情を浮かべる。如何に運動能力に長けた彼でも、丸腰で銃を持った相手には敵わない。


「こんな所を武器も持たずにウロウロと……何をしているんです?」


 発せられる問い掛け。

 それに対し、将吾は どのように答えるかを迷っていた。もし、今までの経緯を正直に話した結果、この男が学校を襲撃したら華菜にも被害が及ぶかもしれないからだ。


「答えられませんか? でも、そうやって無言を貫くほど、僕はアナタを怪しみますよ?」


 確かに、その通りだ。

 このような状況下で、逃げていることに対する単純な理由がない人間など、将吾でも信じたりはしない。


「ふふふ……さて、そんな怪しい人は どうしてやりましょうかね?」


 どことなく楽しげな口調。

 それを聞きながら、将吾は密かに溜め息を吐いた――

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