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 ~~~30分後~~~



「……………………」


 硝煙の匂いが辺りを包み込む頃、基地内に半熟の姿はなくなっていた。それを確認して、シトメは一つの溜め息と共に愛用の狙撃銃を下ろした。


「よし、今だ! 車を囲め!」


 静寂を切り裂くように、韮澤の指示が飛ぶ。

 その声にシトメを含む隊員たちは、パブロフの犬よろしく、武器をハンドガンに切り替えて車へと駆け寄った。


「……………………」


 フロントガラスから徐々に身体と視線を動かしていき、運転席側へと回り込む。後は、中にいるはずの人間を引きずり出すだけだ。


 だが、その瞬間――



「グッ……ハアッ……!!」

「ガハッ……ウウゥッ……!」


 運転席と助手席、それぞれから男が1人ずつ降りてきた。だが、彼等に取り囲まれて観念した色はなく、何かに苦しむような表情を浮かべていた。


「動くな!! 大人しくしてれば撃ちはしない!!」


 お決まりの言葉。しかし、それさえも男達の耳には届いていないようだった。


「クソッ……あれはワクチンじゃなかったのかよ……!」

「騙されたんだ……捨て駒にするつもりだったんだ……!!」


 何を言っている――その言葉が意味を成さないと分かってしまうほど、男達は我を失っていた。


「ちくしょう……チクショウオオオォォォッ!!」

「嫌だ……奴等みたいになるのは嫌だアアアァァッ!!!」


 響き渡る絶叫。

 だが、その直後――


『―――――――――ッ!!!』


 半熟になることもなく、男達の身体が弾け飛んだ。吹き上がり、撒き散らされる血にシトメ達は一斉に飛び退いた。


「ふう……危ねえ危ねえ」


ドッと湧いてきた汗を手の甲で拭いながら、大きく息を吐く。やっと片が付いたというのに、最後の最後でゾンビ化なんて洒落にならない。


「取り敢えず、これで落ち着け――」


 苦笑を浮かべながらの呟き。

 しかし、それが最後まで音を成すことはなかった。


(なん……だ……?)


ドクンドクンも、頭に血が上るような、全身の血管が膨張するような感覚。それは次第に強まっていき、ついには視界が赤く染まった。


(まさか……俺も感染したのか……?)


 それ以外に考えられない状況。

 しかし、何故だろうか。血には触れていないと言うのに。


「カハッ……どうして……!?」

「グウッ……何が起こったというんだ……!!」


 正常には機能しなくなってきている耳に意識を集めれば、隊員たちだけではなく、韮澤の苦鳴までが聞こえてきた。後方で指揮を執っていた彼までが感染したとなると、空気感染の可能性が高い。


(勘弁しろよ……)


 ゾンビになることへの恐怖――それ以上に、この場に居た多くの隊員がウィルスを撒き散らす半熟になることが恐かった。


(ダメだ……それだけは絶対に……!)


 生存者を救うべき者達が、逆に滅してしまうなどジョークにもならない。何とかして、ここで全てを食い止めなければならないのだ。


(だったら、いっそのこと……)


 最後の気力を振り絞り、手にしていた相棒である狙撃銃を構える。気が付けば、他の隊員も同じように銃を手にしていた。


「最後の……花火だ……!!」


 そう言うと、装填されている全ての弾丸を撃ち込んだ。

 近くの武器庫へと向けて。


「ウオオオオオオォォォッ!!!!!」


 響き渡る大咆哮。

 そして――



『―――――――――ッ!!!!!』


 全てを覆い尽くす轟音と閃光。

 それが、シトメの最後に感じた全てだった――



 ―――*―――*―――*―――



~その頃の雅也は~



「……………………!?」


 突然の閃光と爆音に、雅也は反射的に顔を上げた。すると、武器庫の辺りから派手に黒煙が立ち上っていた。


(一体、何が……)


 韮澤が指揮を執り、狙撃手も精鋭揃い。間違っても武器庫に誤射することなど有り得ないはずだが。


「雅也!!」


 そこへ、息せき切ってトニーが現れた。

 彼が無事だったことに対する安堵感はあったが、その慌てぶりから非常事態であることが伺えた。


「トニー、何があったんですか?」

「詳しくは分からん。だが、韮澤たちが感染して自爆した可能性が高い」


 どうして そんな事に――疑問には思えど、今となっては答えを導き出すことは出来ない。それよりも今は、対処作を考える方が先だ。


「どうする、雅也?」

「取り敢えず、生き残った隊員を連れて場所を移りましょう」

「いいのか?」

「ええ。どこの誰かは知りませんが、今回の騒動を引き起こした連中がいるはずです。あんなフザけたモノを作り出す輩と、今の状況でやり合うのは得策ではありません」


 浮き足立ち、感染の恐怖がある状態では満足に戦えない。ならば、基地を放棄することになっても、落ち着きを取り戻す方が良い。


「分かった。無事な隊員を集めて車で移動する。雅也は――」

「この際だから、僕は離れます。1人でやっていきますよ」

「なっ……急に何を!?」

「急ではありませんよ。ずっと考えていたことです」


 雅也にとって、どれだけ人員や物資に恵まれていようと、そこは自分の居場所にはなり得ない。それが、この1ヶ月の時を過ごして理解できた。


「雅也……」

「今まで ありがとう、トニー。久しぶりでしたよ、家族になれそうだと思えた相手は」

「……………………」

「では……また会いましょう」


 本気か慰めか――自分でも分からない言葉を掛けると、雅也は踵を返して歩き出した。いつまでも背中にトニーの視線を感じながら。



 ―――*―――*―――*―――



~同時刻 旧校舎では~



「よし……これで完成だ!」


 そう言いながら、信楽が最後の鉄杭を地面に突き立てる。その動きにつられて将吾が振り返れば、ここに来た時には考えられないような防護陣が築き上げられていた。


「マスターの《イージス Mark ⅱ》ここに完成でござるな!」

「(๑•̀ㅂ•́)و✧」

「……ホントに凄いね」


 どうやら、彼等の才能は本物らしい。

 他にも、石川が設計して三井が加工と取り付けを行った車の補強も、完璧な仕事振りだった。


「ふっふっふ、これがゾンビマスターと呼ばれる我輩の――」


 誇らしげに胸を張ろうとする信楽。

 だが――


「ま、マスター! あれは何でござるか!?」


 信楽の言葉を遮り、三井が空を指さす。

 何事かと思って視線を向けると、そこには立ち上る黒煙があった。


「何だ……!?」


 明らかに普通じゃない量の煙だ。立ち上る場所で何かがあったのは間違いないだろう。


(どうするかな……?)


 現在、学校には千葉も能美も〝彼〟も居ない。

 それぞれが所用で出掛けてしまっているのだ。


(行ってみるか?)


 距離からすると、かなり離れているようだから直接的な被害はないだろう。しかし、確認しないことには何も分からない。安全を確実なものにするためにも、情報は必要だろう。


「ちょっと様子を見てくる。後のことは頼んだぞ」

「た、頼むって……そんな無茶なッ……!?

「そのイージスがあれば大丈夫だよ! じゃあ、頼んだぞ!」


 そう言うと、将吾は駐車場まで走った。



 ―――*―――*―――*―――



  ~そして、日が暮れる頃~



「……………………」


 将吾は爆発のあった基地の外周にある植え込みから、中の様子を伺っていた。

 しかし、分かる事と言えば、一つの倉庫が派手に炎上したらしいことぐらいで、遠目から見て他には何も情報は得られなかった。


(中に入ってみるか……?)


 躊躇っていた決断。

 しかし、このまま此処でジッとしても意味はない。ならば危険は承知で入るしかないかもしれない。


 だが、その時――


『―――――――――ッ!!』


 派手なスキール音を立てながら、基地の入口に何台もの車が乱暴に停車する。そして、十数人の武装した男達が降りてきた。


(奴等は一体……)


 男達は、そのまま基地の中へと入っていく。

 しかし、その動きは住処に帰ってきたというよりは、様子を探っていると言った方が しっくり来る感じだ。


(俺と同じで様子を探りに来たのか、それとも……)


 奴等こそが、この騒ぎの理由なのか。

 それを探るためにも、将吾は身を乗り出して動向を見ようとした。


『……………………ッ』


 だが、その瞬間、背後から草を踏みしめる音が聞こえてくる。将吾は焦りながらも銃を取って振り返ろうとした。


「グハッ……!!」


 しかし、それより先に首筋を強かに打ち付けられ、将吾は その場に倒れる。

 何とか後ろへと視線を向けると、そこには小銃を持った男が立っていた。


「クッ……お前ら、一体……」

「テメェが気にする必要はねえよ……永遠にな」


 どういう意味だ……そう聞こうとする前に、将吾の意識はスイッチを切ったかのように途切れてしまった――

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