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乱戦

  ~~~その頃の基地・華菜side~~~



「もう、そんなに心配しなくても大丈夫だって」

「でも……」


 不安気な表情の耕太を前に、華菜は苦笑を浮かべていた。


 先程、自身の所属する部隊の隊長から、大規模な物資調達任務が行われると伝えられた。それ自体は いつもの事なのだが、今回は人間との戦闘が予想されるとも言われたのだ。

 それを聞いていた耕太が、心配して傍を離れようとしないのである。人間との戦闘を前提とした任務が初めてなため、送り出す側としては落ち着かないのだろう。


「チャチャッと済ませてくるからさ、大人しく待ってなさいっての」

「……………………」


 不安を払拭するように、敢えて気楽な口調を貫く。しかし、それでも耕太の顔が晴れやかになることはなかった。


「華菜! ブリーフィングを始めるぞ!」


 隊長からの呼び出しが入る。耕太のことは気になったが、自分の役目を放棄するわけにもいかない。華菜は最後に耕太の頭を撫でてやると、そのまま野外テントまで向かった。


「よし、それではブリーフィングを始める」


 隊長の声がテント内に響き渡る。

 それを聞いて、華菜は背筋を伸ばした。


「今回の任務内容は、ショッピングモールの制圧と物資の回収だ。しかし、事前調査で人間同士の戦闘の痕跡が確認されている。遺体が無かったことから、再度、そいつ等が向かっている可能性が高い」

「……………………」

「平和的な奴等なら良いが、我々の説得に応じなければ戦闘に発展する事も有り得る。その事を念頭に置いて、今回の任務に当たってほしい」

『了解しました!!』


 変わって響き渡る大声。

 それを聞きながら、華菜は僅かな緊張感を引き連れて車へと乗り込んだ――



 ―――*―――*―――*―――



 ~~~2時間後 モール 井川side~~~



「クッ……いい加減に離せ!」


 目の前で手足を縛られて足掻く隊員。

 その姿を見ながら、井川は顎に手をやり考えるような仕草を取った。


 指導者も時として戦場に出る必要がある――そう考えてモールへの再突入に同行した井川だったが、彼の目には予想外の光景が映った。モールを確保しようとする自衛隊員の姿という考えになかった光景が。

 そこで井川は何とか1人の隊員を連れ去り、情報を引き出すことに成功した。彼等が元々は自衛隊の大規模部隊の生き残りであり、生存者を集めて組織を結成していると。


(ふう……面倒なことを……)


 珍しく、複雑そうな面持ちで井川が考え込む。

 正直、今まで井川が独裁を維持できたのは、自分以外に安全を確保することなど出来ないと思い込ませていたからだ。

 しかし、こうして別の有力な組織がいると分かってしまうと、そちらへと移りたがる者が出てくるかもしれない。その可能性を安易に否定できるほど、井川は楽観的ではなかった。

 もちろん、彼等を飲み込むという選択肢も存在する。

 しかし、〝一つのグループを指揮する元政治家〟という肩書きは、それを可能にしてくれるほど求心力の高いものではないのだ。


(ならば、やるべき事は一つか……)


 邪魔になるなら消すしかない――至極、単純にして明快な答えを導き出す。


(しかし、どのように……)


 確実な方法を思案する井川。

 と、その時――


「ぐがぁぁああ…………!!」

「えあぁあぁああ…………!!」


 外からゾンビの声が聞こえてきた。

 窓の外へと視線を向ければ、そこには結構な数のゾンビがモールを取り囲んでいるところだった。


(朝から騒ぎ続けていれば当然か……)


 銃撃戦に派手な出入り――奴等を引き寄せて当たり前だ。

 しかし、この状況は使える。


「君達に頼みたいことがある。簡単なことだが、確実に遂行して欲しい」


 背後に控えていた部下に、井川は不敵な笑みを浮かべながら指示を出した――



 ―――*―――*―――*―――



 ~~~その頃 モールの外・華菜side~~~



「チッ……もう始まっちまったのか!」


 先発隊を追いかける形で到着した華菜たちの耳に届いたのは、激しい銃撃戦の音だった。明らかに争うようなソレに、居合わせた誰もが苦々しい表情を浮かべた。


「はあっ、はあっ……た、隊長にご報告します! モール内に突然 ゾンビが侵入! 撃退のための発砲で双方に負傷者が出ました!」

「それで撃ち合いに発展か……」


 あまりに単純な切っ掛けだが、同時に十分な理由でもある。

 このような状況下であれば、例え流れ弾であっても怪我人が出れば反撃も止むを得ないからだ。


「仕方ない……ゾンビを片付けつつ、敵対する者は掃討しろ! 相手も武装しているんだ、油断するなよ!!」

「はっ! 了解しました!!」


 威勢よく返事をすると、隊員は持ち場に戻っていった。

 その後ろ姿を見送ってから、華菜もホルスターからハンドガンを取り出した。他の面々も、それぞれに準備を始める。


「あれ? 積んできた弾薬箱、これだけだったか?」

「俺が知るわけないだろ、担当じゃないんだから」

「お前達、無駄口を叩くな! 早々に準備を終わらせろ!!」

「は、はい!!」


 隊長の喝に、背筋を伸ばしながらキビキビと動く隊員たち。

 その会話の内容に首を傾げながらも、華菜は隊長と共にモール内へと向かった――



 ―――*―――*―――*―――



   ~~~主人公side~~~



「……ったく、派手にやりやがって」


 銃声を聞きながら、俺は溜息混じりに呟いた。

 当初の予定では、人知れず物資を頂いて逃げるつもりだった。しかし、モールに着いてみれば そこは激しい銃撃戦の渦中だった。

 どうやら、能美たちが交戦した相手と、第3の連中がやって来て撃ち合っているらしい。しかも、店内にはゾンビまで侵入しており、嫌な意味で混雑している。


「これはキツいな……どうする?」

「確かに面倒な状況だけど、俺達のやることに変わりはない。食料を頂いて逃げるぞ」


 危険な状況ではあるが、同時に動きやすくもある。

 これだけゴチャゴチャとしていれば、数人が物資の持ち運びをしても気にする者はいないだろう。


「能美と俺が運び出す。将吾は出口付近の安全確保。千夏は いつでも車を出せるようにしといてくれ」

『了解ッ』


 三人の声が揃う。

 それに対して笑顔で頷くと、俺は能美を伴って地下へと向かった。


「はっは~ あるじゃないのあるじゃないの」


 少しばかり はしゃいだ声を上げながら、俺は陳列された缶詰に歩み寄った。これだけの数があれば当分は食に困らはいはずだ。まあ、すべてを持ち帰れたらの話だが。


「とりあえず、出来るだけ持ち出そう」

「ああ、了解」


 能美の言葉に頷くと、俺は手近にあった買い物カゴを取った。


「ぐがぁぁああ…………!!」


 だが、その直後、物陰に倒れていたのか一体のゾンビが俺に襲い掛かってきた。


「クソッ……!!」


 反射的にホルスターへと手を伸ばして銃を抜き取る。


『―――――――――ッ!!』


 俺の放った銃弾により、ゾンビが頭を吹き飛ばして倒れる。反射的な行動にしては上出来だが、満点とは言えなかった。

 何故なら――


「おい、こっちから銃声が聞こえたぞ!!」

「地下にも入り込んでやがったか!」

「見つけ出して始末しろ!!」


 響き渡った銃声を聞き付けた連中が、地下に入り込んできた。

 それを見て、俺と能美は急いで物陰に隠れた。


「チッ……隠れやがったか」

「クソッ、どこに居やがる?」

「落ち着いて探せよ。待ち伏せしてるかもしれない」


 迫る足音。これは、早急に対処しなければ。


(でも、このままじゃ顔も出せねえな……)


 姿を確認しようと頭を出した時点で気付かれるかもしれない。それだけ、連中の足取りは慎重だ。


(そうだ、スマホで……)


 妙案を思いついた俺は、スマホを取り出してカメラを起動。そのままムービーモードへと移す。そして、気付かれないようにレンズ部分だけを物陰から出すと、辺りを撮影した。


(よし、これで確認して能美に伝えれば、一気に片付けることが出来る)


 俺は画像から奴等との距離を測り、少し離れた場所にいる能美に口の動きとジェスチャーで攻撃する場所と順番を伝える。それで理解してくれたのか、能美は大きく頷いた。


(よし……行くぞッ!!)


 気合を入れると、俺と能美は同時に物陰から飛び出した。


「なっ……!!」


 突然 飛び出してきた俺達に驚きの表情を浮かべる男。その隙を逃さず、能美が一気に間合いを詰めて峰打ちを食らわせる。


「ガハッ……!!」


 苦鳴を上げて、その場に昏倒する。

 その様子を見て奮起した俺も、手近にいた襲撃者に対して地を蹴った。


『―――――――――ッ!!』


 腕に伝わる衝撃。

 ハンドガンの銃床で男の側頭部を打ち付け、意識を刈り取ることに成功した。


「ちょっと……待っ……!」


 最後の一人が思わず口にする懇願。

 しかし、それを聞き届けるつもりもない。

 腹部へと強烈な蹴りを放つと、それで男は大人しくなった。


「ふう……これで片付いたな」

「ああ。だが、油断は禁物だ。さっさと必要分だけでも持ち出そう」

「だな。また絡まれるのも面倒だし」


 能美と一緒に頷くと、俺達は食料の回収作業に入った――

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