三つ巴の争奪戦
~翌日・能美side~
「クッ……これは少しマズイな」
誰に言うともなく能美は呟いた。
その真意は――
『―――――――――ッ!!!』
この飛び交う銃弾にあった。
ここは街の中心部にあるショッピングモール。生存者の捜索を任されていた能美達が、その途中で偶然に見つけた場所だ。
しかも、中は潤沢な物資で溢れていた。
誰も来なかったのか、それとも此処を見つける前に周囲の人間がゾンビになってしまったのかは分からないが、ほとんど手付かずだったのだ。
その行幸を喜んだ能美たちだったが、その感情は すぐに打ち砕かれた。突如として現れた闖入者によって。
相手も物資を求めていたらしく、顔を合わせるなり撃ち合いとなった。
武装の質は互角であり、今まで膠着状態が続いている。
「能美、どうするッ?」
牽制射撃を行いながら、将吾が問い掛けてくる。
それに対して能美は僅かに考えてから口を開いた。
「……ここは退くぞ」
「いいのか?」
「ああ、どれだけ物資があろうとも人命には代えられん。怪我人が出る前に撤退だ」
迷いのない口調と表情。
それを受けて、将吾も軽く笑みを浮かべた。
「分かった。みんなに順次 外へ出るように伝えてくる」
そう言うと、将吾は伝令に走った。
その後ろ姿を見送ってから、メンバーが安全に逃げられるように、能美は牽制射撃を行った。
―――*―――*―――*―――
~~~2時間後・井川の拠点~~~
「――なるほど。そのような事がね」
図書室の陽の当たる席。
そこに腰掛けながら、井川は小百合からの報告を受けていた。
「ええ。武装も人数も同程度……あのままだと全滅まで殺し合うことになるから、物資は惜しかったけど戻ってきたわ」
「まあ、妥当な判断だね。無駄に戦うこともない」
サラリと言う井川。
しかし、それが人命を大事にしての言葉ではないことを小百合は理解していた。
井川が小百合の判断に納得したのは、彼女達が戻らなければ情報が得られなかったからだ。何も知らないまま戻らない小百合たちを探すべく捜索隊を派遣でもすれば、さらなる被害へと繋がっていたかもしれない。
その結果として手駒が減るのを防げたから、井川は納得したのである。人の命ですら数字としてしか見られない井川らしい考えである。
「しかし、それだけの物資を放っておくのも惜しいな……やはり手に入れるべきか」
強奪と呼べる方法で各所から物資を補給してきた井川達だが、それでも人員が増えるに従って不足がちになってしまっていた。
それは、後に自分の政権下で傀儡となる人間を欲した井川が、従うと誓った人間を受け入れてきというのが大きな要因だ。そこに小百合は疑義を抱いていたが、それでも餓死者を出したいとは思っていない。なので、井川の次の言葉を待った。
「小百合君、伝令を頼む。モールを確保せよ……とね」
予想通りの言葉に、小百合は心の中で溜め息を吐きながらも頷いた――
―――*―――*―――*―――
~~~同時刻、別の場所では――雅也side~~~
「空薬莢の散らばったショッピングモール?」
部下からの報告を受け、韮澤が怪訝そうな表情を浮かべる。
同じ思いを抱いた雅也も、人から見たら同じような表情を浮かべていることだろう。
「はっ! 怪我人 及び ゾンビの姿は見当たりませんでしたが、明らかな戦闘の痕跡がありました!」
「ふむ……雅也くん、どう思う?」
話を振られ、雅也は少しだけ頭を捻った。
「……恐らく、物資の奪い合いでしょうね。しかし、武力が拮抗していたため、お互いに諦めたのだと思います」
「なるほど……」
「しかし、それだけの物資を目の前にしながら引き上げたということは、拠点に更なる人員と武器があることは確かですね」
「つまり、双方を補充してから再び挑むと?」
「その可能性は高いでしょう」
この状況下において、潤沢な物資を諦める人間などいない。そうした点からも、導き出されて当然の答えだった。
「ならば、下手に藪を突っつくこともないか……しかし、このままでは我等の物資も……」
頭を悩ませる韮澤。
そんな彼に代わり、雅也が決定打となる一言を放つ。
「行くべきでしょう。もう辺りで物資の補給が出来そうな場所はないんです。遠慮をしていては、すぐに底をつきますよ」
「う、うむ……しかし、民間人との戦闘ともなったら……」
「説得はしますよ。でも、それに応じないのであれば、我々に迎合する可能性も低い。結局は争い合うべき相手に過ぎません」
「……………………」
冷淡な、しかし 的を射た言葉に韮澤が黙る。彼にしても分かっているのだ。雅也の言葉こそが自分たちの取るべき行動を指し示していることを。
「分かった。では、早速 派遣隊を編成しよう」
納得したように頷くと、韮澤は傍らに控えていた部下に各部隊長へ人員の編成をするように伝えさせた。これで、あと数十分もすれば事は済むだろう。
「僕の出番は終わりですね……」
誰に言うともなく呟くと、雅也は その場を後にした――
―――*―――*―――*―――
~~~同時刻、学校――主人公side~~~
「――報告は以上だ」
「そのような事が……」
「俺の読みでは、また来るだろうな」
「ああ、俺も同意見だ」
能美の言葉に俺も頷く。
武力が拮抗していたのに引き下がった理由は、更なる武装の補充を図ってから再突入するためだ。それも、大して時間も空けずに それは行われることだろう。
「そうなると、行くのは危険ですかね……」
千葉が頭を悩ませる。
だが、そこへ能美が口を開いた。
「しかし、周辺に物資を補給できる場所もなくなってきた。自給の手段を拡充できるまでは、危険でも手を伸ばさないわけにはいかない」
「だな。少なくとも食料は手に入れてこないと」
「勝機はありますか?」
「どうかな……でも、やるだけやってみるさ」
確かな勝機はないし、確かな安全もない。
しかし、逃げるわけにもいかない。ならば、進むだけだ。
「それで、誰を連れていく?」
「そうだな……俺と能美、将吾、千夏で行くか」
「たった4人ですか? それは、さすがに……」
「いや、そうでもありませんよ。とりあえず、当面の物資さえ補給できれば他の場所も探せますからね。今は、それで満足すべきです」
「随分と殊勝な考えじゃないか?」
「お前が指揮して苦戦するような相手だからな。真っ向から撃ち合ったら、間違いなく死者が出る。そんな賭けに出る必要もない」
「なるほどな」
「物資より人命……賢く行こうぜ」
「ふふふ……貴方らしいですね」
そうだろうか。自分ではらしくないと思っているのだが。
「では、他のメンツには俺が伝えておく。お前は武器の用意を頼んだ」
「ああ、分かった。30分後に正門でな」
それだけを言うと、能美は将吾達を探しに、俺は武器庫へと向かった。これからのことを思い、少しだけ不思議な高揚感に包まれながら――




