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知らずの邂逅

 ~~~同時刻・工場 搬入口前~~~



「ふう……ここに来るのも久しぶりだな」


 目の前の工場を眺めながら、片瀬は思い出すように呟いた。

 井川にワクチンの効力を見せてから約1ヶ月。それ以来、これと言った進展がないままであった。少しの前進こそあったものの、それを成果と胸を張れるほど片瀬は自分に甘くなかった。

 現状を打破したい――その気持ちこそあれど、今の片瀬には圧倒的に情報が不足していた。一人でもウィルスの解析など出来ると思っていたが、それは甘い算段だったようだ。


「情報か……あそこならば手に入るかもしれないな」


 そう思った片瀬は、かつて所属していたグループが見つけた研究施設へと情報収集に行く旨を井川に伝えた。井川も、それがワクチンの完成に近付くためならと許可。結果、こうして2時間以上の道程を経てやって来たのだ。


「感傷に浸るのは後にしてよ。長居はしたくないんだから」


 苛立たしげに言い放つ小百合。

 今回、片瀬を守るボディガード役の1人として彼女も選ばれたのである。


 1ヶ月前まで――少なくとも【彼】と行動を共にしていた頃は銃もロクに扱えなかった小百合だったが、今では それなりの戦力として扱われるまでに戦闘経験を積んだのだ。

 しかし、そのような評価を受けることに小百合自身は何とも思っていなかった。小百合が強さを求めたのは、何よりも大切な妹を守るためなのだから。

 まあ、その妹を学校に残させれば決して裏切らないと思われての選抜なのだから、少し複雑なところだが。


「そう焦ることは無い。ここには何度か足を運んだことがある。内部の構造も把握しているから、目的の物は すぐに手に入るさ」


 とは言え、ここで行われていたのはウィルスを用いての新型モンスター開発だ。何でも、ウィルスと相性の良い植物と人間の融合を研究していたらしい。

 そのデータを片瀬も少しだけ見たことがある。多少の期待は寄せていたが、彼の目に映ったのは巨木を思わせる化け物の出来損ないだった。


(それでもウィルスの変質を成功させたのは事実。その一端でも情報が手に入れば、ワクチン完成へと研究は進むはずだ)


 当時はワクチンの開発など自分一人で可能だと思って無視していた情報だが、今では それすらも欲している。とにかく、パズルのピースになり得るモノであるならば、入手するしかないのだ。


「では、行くとしよう」


 そう言うと、片瀬は慣れた足取りで搬入口から中へと入った。


 だが、そこで――


「キャッ……な、なにこれ!?」


 地面に倒れ伏すモンスターを目の当たりにして、小百合が思わず大きな声を上げる。他に付き添っているガードの連中も、同じようにどよめいていた。


「……………………」


 だが、それに反して片瀬は黙して語らなかった。

 理由は簡単。目の前のモンスターが何者かにより倒されていたからだ。過去にデータを見た限り、頑強さと腕力だけが自慢のようなやつだったが、それでも与えられる恐怖心は相当なはず。それを克服して倒すなど、かなりの胆力がなければ出来ないことだ。


「どうやら、面倒なのが入り込んでいるようだな」


 個人か集団かは分からない。それでもコイツを倒した人間との戦闘は避けるべきだという結論は変わらなかった。


「君の言う通り、感傷に浸っている暇はなさそうだ」


 そう言うと、片瀬は目的地に足を向けようとした。


『―――――――――ッ!』


 しかし、その時、奥の部屋から何かを倒すような音が聞こえてきた。反射的に視線を向けると、そこで何者かの影が動いた。


(……敵対する意志がないなら放っておくか)


 あのモンスターを倒した人物であれば、無理に戦いを挑むのは愚行だ。相手に敵意がないのであれば、こちらも用事を済ませることに専念するだけだ。

 片瀬は目配せで小百合たちに指示を出すと、当初から目的とした部屋へと向かった。



 ―――*―――*―――*―――



 ~~~一方、その頃~~~



「ふう……危ない危ない」


 突然の侵入者に警戒心を高めていた俺だったが、去りゆく背中を見届けて安堵の溜め息を吐いた。向かう先が逆ならば、当分は顔を合わせることもないだろう。


(それにしても、あの後ろ姿……)


 どこかで見た感じのあるものだった。

 特に、白衣姿の男を護衛する女は妙に記憶を刺激してきた。まあ、他の人陰に隠れてハッキリとは見えなかったため、気のせいである可能性が高いが。


「まあいい。今は沙苗を捜さないと」


 言葉にすることで、自分に目的を再認識させる。俺は気を取り直して向上の探索を再開することにした。



 ―――*―――*―――*―――



  ~~~30分後~~~



「沙苗!!」


 先程とは違う倉庫の奥、手足を縛られて座らされている沙苗を見つけた。俺は すぐに駆け寄ると、手足に絡まるロープをナイフで切断した。


「あ、ありがとうございます……」

「いや、それより大丈夫か? 怪我はないか?」

「はい、大丈夫です。すみません、ご迷惑を……」

「気にするな、沙苗が悪いわけじゃないさ」


 本当に彼女のせいではないのだから、気にする部分ではない。


(これで一安心だな……)


 とりあえず、これで目標は達することが出来た。俺は未だ恐怖で足取りの頼りない沙苗に手を貸しながら、出口に向かって歩き出した。



 ―――*―――*―――*―――



  ~~~2時間後~~~



「沙苗!!!」


 俺に付き添われて学校の中へと入ってきた沙苗を見た瞬間、将吾が彼女に駆け寄って抱き締める。付き合いが長く深い彼だけに、それほど心配していたのだろう。


「ごめんね、将吾君。心配を掛けて……」

「気にするなよ、お前のせいじゃないさ」


 俺と同じような言葉。

 それが可笑しかったのか、沙苗は少しだけ俺の方を振り向いて笑って見せた。


(とりあえずは、任務完了か……)


 そんな事を心の中で呟く俺。

 しかし、思考は別のことに持っていかれていた。


(あの連中……何者だ?)


 工場で見掛けた謎の集団。

 荒くれ者な感じはなく、どちらかと言えば統率の取れている印象だった。


(武装も揃っていたようだし、気を付けないとな)


 ここから工場への距離を考えると、いきなり戦闘ということにはならないと思われるが、気をつけるに越したことはない。


(まあ、そんな事を考えるのも無粋か……)


 目の前で未だに無事を喜び合う将吾と早苗の姿に、俺は余計な考えを追い出して笑みを浮かべた――

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