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モンスター再び

  ~~~1時間後~~~



「ここか……」


 呟きながら辺りを見渡す。

 すると、気になるものが視界に収まった。


「あれは……軍用トラックか?」


 搬入口付近に数台の軍用トラックが止まっていた。

 気になったので荷台を確認してみたが、中に武器の類はなく、積まれていたのは何に使うのか分からない計器類だけだった。


「まさか……」


 俺の中に大学での出来事が蘇る。

 あそこで行われていた実験と、その結果であるモンスターのことが。

 しかし、引き返すわけには行かない。

 俺は気合を入れ直すと、手持ちの武器を確認した。


 まずは、いつも使っているハンドガンだ。

 口径は9ミリ。それ故に威力は心許ないが、反動は抑え目で安定感がある。

 そして、コイツは少し口径の大きいマグナム銃だ。威力はハンドガンと比べるまでもないが、如何せん反動が強い。銃の扱いには慣れてきた俺だが、それでも正確に撃つことは難しい。


 最後は、この日本刀だ。

 能美や千夏の所有物ではなく、春樹が物資調達の際に入った家で見つけてきたものだ。近接武器なので外すことはないが、扱いに慣れていないので能美達に比べると威力は落ちる。


 本当は もっと贅沢に持ってきたかったのだが、そうすると武器庫に立ち寄らなければならない。和道の件から武器庫に出入りする人間をチェックするようにしたので、一人で向かうためには出来なかったのだ。

 結果、以前から持ち出していた武器を集めるだけに留まった。まあ、それでも これだけ持ってこれたのは喜ぶべきことだが。


「さて、行くか……」


 気合を入れ直すと、俺は工場内へと足を向けた。


 搬入口から中へと入る。

 恐らくは生産物や工員で溢れ返っていたであろう空間は、不気味な程に静まり返っていた。


「おかしいな……」


 いきなり何かを仕掛けてくるとは思っていなかったが、あまりに人の気配がしなさすぎる。まるで、無人の建物を捜索しているようだ。


「まさか、ここに向かわせたこと自体が罠か?」


 そんな考えが頭を過ぎる。

 だが、その直後ーー


「グオオオオォォォッ!!!」


 謎の咆哮が大気を揺らした。

 その強い恐怖を誘発する響きに、俺は自然と武器を構えていた。


「向こうの方からか?」


 聴力を頼りに当たりをつける。

 結果、俺は倉庫に続くと思われるドアを開けた。


 その先には――


「都築……」


 俺が倒すべき敵がいた。

 だが、俺の目は奴よりも違う存在に向けられていた。


 都築の背後に立ち、ガッシリと奴を掴み上げる化け物。

 肥大化したボディビルダーを思わせる体躯は軽く2メートルを超えており、その容姿に違わぬ怪力で軽々と都築を片手で持ち上げている。身体の節々から植物の蔦のようなものが生えており、それが触手のようにユラユラと揺れている。

 その姿を見て直感的に理解する。間違いなく、あの大学で戦ったモンスターと同類の存在だと。


「た、助けて――」


 何かを言おうとする都築。

 だがーー


『―――――――――ッ!!』


 何とも言えない音を響かせ、都築の身体が力任せに引き裂かれた。


 吹き出す血、飛び散る臓物――その光景に、俺は思わず思考を停止させてしまった。


 あまりに現実離れした光景。

 そんなものは、この世界になってから腐るほど見てきたが、それでも目の前の惨状は許容量を超えていた。


「グオオオオォォォッ!!」


 だが、再び響き渡った咆哮に我へと帰る。

 今は恐怖に支配されている場合ではない。

 沙苗の無事を確認するためにも、この化け物を何とかしないといけないのだ。


(でも、勝てるか……?)


 何がどうなって あの姿になったのか分からないが、隆々も盛り上がった筋肉は相当に硬そうだ。銃弾ですら一撃では決定的なダメージを通せそうにない。


(それでも、やるしかない……!)


 自分を鼓舞すると、俺は目の前のモンスターに対して武器を構えた。


「まずは先制攻撃だ!」


 先手必勝――俺は手にしてハンドガンを構えると、外しようがない大きな胴体を狙って連続で撃ち込んだ。


『―――――――――ッ!!』


 響き渡る銃声。

 だが、驚くことに銃弾は弾かれて地に落ちた。


「マジかよ……」


 規格外の硬度。

 俺は思わず驚きに身を固めてしまった。

 油断と見て取ったのか、モンスターが巨大な拳を振り上げる。


『―――――――――ッ!!』


 寸でのところで回避する。

 直後、派手な打撃音と共に地面が拳の形に歪んだ。

 まるで隕石でも落下したかのような衝撃。

 俺は背筋が寒くなるのを感じた。


「一撃も食らえないってわけだ……」


 掠っただけでも致命傷だ。

 まともに食らうなど論外。

 全攻撃を回避しつつ倒さねばならない。


「上等だってんだよ!!」


 自らを鼓舞するように叫ぶと、俺はレッグ・ホルスターからマグナムを引き抜く。そして、今度は正確に狙いを定めると、モンスターの眉間を撃ち抜いた。


「グッ……ガアアァッ……!」

「よっしゃ!」


 ダメージを与えた手応え。

 奴が無敵ではないという事実に、自然と歓喜の声が上がる。

 しかし、それが隙となった。

 僅かに停滞した俺の動きを見逃さず、モンスターが蹴りを放ってきたのだ。


「やべぇ……!」


 焦りながらも近くにあったコンテナの陰に隠れる。


『―――――――――ッ!!』


 だが、そんなことは関係がないとばかりに、コンテナごと身体が吹き飛ばされる。そのまま床の上を数メートルも転がり、やっと動きを止めた。


「クッ……調子に乗ったぜ……」


 フラフラとする足を叱り付けて立ち上がる。

 そして、震えそうになる手を無理矢理に抑え込むと、マグナムを構えて連続でトリガーを引いた。


『―――――――――ッ!!』


 重々しい銃声。

 それは頼もしいものだったが、ダメージのせいか全弾が眉間から外れてしまった。


(クソっ……しっかりしろ!)


 自分で自分を叱責する。

 だが、その直後――


「グアアァァッ……!!」


 モンスターが苦鳴を上げる。

 何事かと視線を向けると、関節部から生えている蔦が千切れており、そこから激しく出血していた。


「そこが弱点か……?」


 あれほどのダメージと出血。

 もしかしたら、あれは蔦に見えて奴の剥き出しになった〝血管〟なのかもしれない。


「だったら、一本残らず割いてやるよ!」


 言いながら、マグナムの弾を装填して蔦が密集している腕の関節部である肘を狙う。勝利への道筋が見えたことで気力が回復したのか、今度は外さなかった。


「グアアァァツ……!!」


 強烈な銃弾を撃ち込まれ、モンスターが後ずさる。

 激しく血を吹き出す腕は、文字通り薄皮一枚で繋がっている状態だった。


「スッキリしてやるよ!」


 叫ぶと同時に腰から日本刀を抜き取る。

 そして、一気に間合いを詰めると渾身の一振で腕を切り落とした。


「グオオオオォォォッ……!!」


 膝から崩れ落ちるモンスター。

 好機と見た俺は、そのまま奴の肩口に足を掛けて身長差を無くすと、至近距離から全弾を眉間に撃ち込んだ。


『―――――――――ッ!!』


 鼓膜を破壊するような轟音。

 同時に感じる確かな手応え。

 俺は素早く地を蹴って距離を取ると、リロードしつつ再び銃を構えた。


「はあっ………はあっ……!」


 俺の荒い呼吸が辺りに響く。

 だが、その直後――


「グオオアアァァッ……!!」


 断末魔の咆哮を上げて、モンスターが崩れ落ちる。

 勝利を確信させる光景に、俺は天井を仰ぎながら長い溜め息を吐いた。


「勘弁しろよな、まったく……」


 そう呟いて、俺は武器を仕舞う。出来ることなら、しばらくは触りたくなかった。


「それにしても、ここでもか……」


 軍用トラックに積まれていた計器類、そして この化け物――それらが意味するのは、あの大学で行われていた実験が此処でも行われていたという事だ。

 その事を都築達が知っていたかどうかは分からない……いや、わざわざ こんな所を選んだということは知っていたのだろうし、このモンスターのことも理解していたのかもしれない。

 だが、俺の始末をさせる前に自分達が殺られてしまったというところだろう。あんなモンスター、普通の人間が扱えるはずなどないのに。


「……っと、それよりも今は沙苗を捜さねえと」


 最重要事項は彼女の無事の確保だ。

 それ以外のことに意識を向けるべきではない。


「待ってろよ……」


 誰に言うでもなく呟くと、俺は別の場所を探すため走り出した――

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