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愉快な仲間

 ~場所を戻って旧校舎では~



「よし、準備 終わりっと」


 調整を終えた小銃を肩に提げながら、春喜が笑みを浮かべる。そんな彼に対し、俺も弾薬の詰め終わったハンドガンを後ろ腰に差して頷いて見せた。


 だが、次の瞬間――


「ああ、良かった。まだ出ていませんでしたか」


 何やら焦った様子の千葉が部屋に入ってきた。

 その様子から、何かがあったらしいことを察した俺は、彼に対して向き直った。


「どうかしたんですか?」

「ええ……実は、街まで様子を見に行っていた人たちからの報告なんですが、生存者がいるらしいんです」

「生存者……?」


 そう言えば、最近になって此処が安定してきたこともあり、生存者を捜索することに注力していたのだった。恐らく、今回の知らせも、その搜索に当たっていたメンバーからのものだろう。


「ううん……どうすんの、隊長?」


 丸投げ感満載で春喜が問い掛けてくる。

 正直、悩ましいところだ。生存者を救出しなければならないが、同時に物資の補給も疎かに出来ない。


(つまりは、並行してやるしかないってことか……)


 物資の補給も、生存者の救出も。


「……春喜、物資のほうはお前が仕切ってくれ。生存者のほうは俺一人で行く」

「えっ? 大丈夫なの?」

「多分な。捜索に出たメンバーも、報告してから向かっても大丈夫と踏んだから戻ってきたんだろうしな。つまり、それだけ余裕のある連中だってことさ」

「ええ、その通りです。何でも大量の罠を仕掛けてゾンビを近づけないようにしているらしいですね。まあ、そのお陰で彼等も近づけなかったようですけどね」

「……という訳だ。一人でも大丈夫だから、お前は物資のほうを頼む」

「……分かった。隊長が そう言うなら」


 千葉の説明と俺の言葉に、決して無茶をするつもりではないと理解したのか、春樹は笑顔で頷いた。そんな彼に俺も笑顔を返すと、揃って部屋を後にした。



 ―――*―――*―――*―――



  ~1時間後~



「ここか……」


 目の前の家を眺めながら呟く。

 事前に聞いていた通り、生存者が居るという家の周りはトラップだらけだった。先端を鋭く切り取ったパイプの鉄柵や、足元に張り巡らされたロープと、それに連動したライフル銃など、人間でも近づきたくない光景だ。


「まあ、大事なのは生きてるかどうかだけどな……」


 トラップを敷き詰めていたとしても、最終的に身を守れていなければ意味が無い。それを確かめるためにも、俺は後ろ腰に差した銃を抜き取りながら、家へ向かって歩き出した。


(さて……どうすっかな?)


 初手を考え、俺は腕を組んだ。

 しかし、すぐに〝あの中を進むのは無謀〟と判断した俺は、とりあえず声を掛けてみることにした。


「ああ~……そこの家の住人、生きてたら出てきてくれないか? 少しばかり話があるんだ」


 なるべく、穏やかな口調で話しかける。

 しかし、それに対する応答はなく、辺りには静寂が過ぎるだけだ。


(とは言え、これで引き返しちゃな……)


 ここまで来た意味がなくなる。

 俺は息を吸い込むと、今度は大きめの声で呼び掛けた。


「頼むから出てきてくれッ! こちらに争う意志はないッ!」


 応答があるまでは退かないという思いを乗せた言葉をぶつける。

 すると――


(……何だ、ありゃ?)


 家の二階の窓から垂れ幕らしきものが放り出された。恐らくはベッドのシーツであろうソレには、こう書かれていた。


[話がしたいならトラップを越えてこい]


 明らかな挑発。

 自身のフィールドへと誘い込む常套手段だ。つまり、感情的になってノコノコと乗り込むのは愚の骨頂でしかないのである。


(リスクは少しでも回避すべきだよな……)


 そう心の中で呟きながら、俺は乗ってきた車の助手席に手を入れた。

 取り出したのは、黒一色で彩られたアサルトライフル。その凶悪ささえ感じられるフォルムに畏敬の念を抱きながらも、俺はストックを肩に押し当てて しっかりと構えた。


『―――――――――ッ!!!』


 眼前に見えるトラップ郡に、容赦なくマガジン1個分の弾丸を撃ち込んだ。


 鉄柵が崩れ落ち、各所に仕掛けられていたトラップが銃弾の雨によって連鎖的に発動していく。その光景が どことなく楽しげに見えて、俺は気付けば笑みを浮かべていた。


「な、な、な……何をしてくれたですか~!!!」


 そこへ、絶叫と共に1人の男が家から飛び出してきた。

 ぽっちゃり系の体格に、ジーパンとネルシャツ。頭にはバンダナが巻かれていたりと、何と言うか『一昔前のソッチ系』の出で立ちだ


「ああ……総制作期間3ヶ月の大作が……我輩の力作が……」


 俺の乱射によってボロボロになったトラップ郡を前に、男は打って変わって泣きそうな声を上げる。どうやら、俺は彼の自信作をメチャクチャにしたらしい。


「マスター、しっかりするでござる! 心を折ってはならないでござるよ!!」


 新たに登場した男2。

 これまた同じようなファッションをしている。こちらの方は逆に痩せぎすな印象だが。


 そんな男2が放心状態の男1に駆け寄り、その背中を励ますように叩く。


「(*´°̥̥̥̥̥̥̥̥﹏°̥̥̥̥̥̥̥̥ )人(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」


 またまた新たに登場の男3。

 見た目は……もう語る必要もないだろう。

 律儀に自分の感情をタブレット端末に顔文字で表現している。


「そこのキミ~~!!!」


 落ち着きを取り戻したのか、それとも怒りの感情が再燃したのか、茫然自失としていた男1が俺に向かってビシッと指先を突き付けた。


「どういうつもりなのかね~! 我輩の〝イージスを〟破壊するとは!!」


 激高したまま叫ぶ男1。

 イージス――確か盾という意味だったと思う。言い得て妙な名前に、俺は再び笑みを浮かべてしまった。


「な、何を笑っておるのかね~!?」

「ぶ、不気味でござる……」

「ヾ( •́д•̀ ;)ノ」


 三者三様の反応。

 その様子から悪人じゃないと判断した俺は、ライフルを助手席に戻すと彼らに向かって軽く頭を下げた。


「いや、済まなかった。どう見ても攻略できそうになかったからさ、つい手荒な真似をしちまったんだ」

「……………………」


 素直な態度と持ち上げるような言葉に、男達は意外そうな表情を浮かべる。だが、それも一瞬のことで、男達は揃って笑みを浮かべた。


「ふっふっふ……まあ、我輩の完璧なるイージスを前にしたら、そう思うのも当然であろうけどね~」

「マスターのイージスは何百……いや、何千ものゾンビを撃退したでござるからな」

「(o´罒`o)」


 一転、自慢げに胸を張る男達。

 事実、今まで彼等を守ってきたとするならば、誇りに思うのも当然の設備だったと認めざるを得ないだろう。


「……って、和んでる場合ではないのである!」

「はっ……そうでござった!」

「Σ⊙▃⊙川」


 またまた一転、こちらを警戒するように睨みつけてくる。

 コロコロと変わる表情と態度に苦笑を浮かべながらも、俺は彼等に自分の目的を伝えた。



 ―――*―――*―――*―――



  ~20分後~



「ふむ、なるほど……近くに その様な場所があったとは」

「生存者が集まるコミュニティ……まさにゾンビ物の王道でござるな」

「(゜Д゜)(。_。)(゜Д゜)(。_。)」


 俺の説明に納得してくれたのか、男達の表情から険が取れ、辺りに漂う空気も和やかなものとなっていた。


「で、どうかな? アンタ等さえ良ければ、仲間に加わってもらいたいんだけど」


 まだ千葉の了解を得たわけではないが、イージスの製作技術を見る限り彼等が有用な人材であることは確かだ。捨て置くには勿体なさすぎる。


「マスター、どうするでござるか?」

「┃電柱┃゜艸゜)」

「うむむむむ……」


 二人に問われ、腕を組んで考える男1。

 しかし、それも長くはなく、すぐに明るい表情で顔を上げた。


「うむ、行くとしよう。3人だけで居るよりも、生存率は上がるはずだ」


 男1が迷いなく言い切る。

 それに対して異議はないのは、他の二人も頷いた。


「決まりだな。よろしく頼むぜ」


 言いながら手を差し出し、俺は一人一人と握手を交わす。


「ところで、みんなのことはなんて呼べばいい? アンタはマスターか?」

「ふふふ……確かに、その呼び名が しっくりと来るのは確かだな」

「そ、そうか。でも、何だってマスターなんだ?」

「な、何と……そなたは この方を知らぬでござるか!?」

「‼(•'╻'• ۶)۶」


 どういうことだか分からないが、彼等の反応を見る限り、何かで有名な人物らしい。


「この方こそ、某有名ゾンビゲームで世界最速クリア記録とハイスコア記録を手に入れた、唯一無二のゾンビマスターなのでござるよ!!」

「L(’ω’)┘三└(’ω’)」」

「ふっふっふ」


 大層な紹介を受け、男1が誇らしげに胸を張る。

 どれだけ凄いことなのか分からない俺は、とりあえず曖昧に頷いておいた。


「じ、じゃあ、アンタのことはマスターでいいか?」

「まあ、それでも構わないが、後に支障が出るやもしれぬ。《信楽 英輔》という名を教えておくから、好きに読んでくれたまえ」

「拙者の名前は《三井 輝政》でござる。よろしくでござるよ」

「《石川 良二》」


 独特な自己紹介を受け、俺も続けて名乗る。

 これで、少なくとも他人ではなくなったわけだ。


「さて……準備が良ければ出発したいけど、そっちの車はあるかい?」


 何気ない質問。

 だが、それを待ってましたと言わんばかりに三井が前に出てきた。


「ふっふっふ……任せるでござる!!!」


 自信満々に言い切ると、三井は家のガレージへと向かった。

 その直後、フルカスタマイズされたステップワゴンが姿を現した。


「す、すげぇ……」


 思わず感嘆の呟きが漏れる。

 パイプや鉄板を用いて補強された車は、まさに移動する要塞のようだった……ボンネットやサイドに描かれた美少女キャラさえ無ければだが。


「我々は、この〝ナノノ号〟に乗っていく。道案内を頼むよ」

「あ、ああ……分かった」


 敢えて〝ナノノ〟という言葉には触れず、俺は頷いた。下手に突っ込むと物凄く時間のかかる事になりそうだったからだ。


「よし、それでは出発と――」


 号令を掛けようとする俺。

 しかし、そこへ――


「ぐがぁぁああ…………」

「えあぁあぁああ…………」


 奴等の声が辺りに響き渡る。

 反射的に視線を巡らせると、信楽達の後ろから迫っているところだった。


(チッ……仕方ねえ!)


 伏せろ――その言葉を口にするよりも早く、俺はヒップホルスターから銃を抜き取りトリガーを連続で引き絞った。


『―――――――――ッ!!!』


 寸断なく撃ち込まれる連続射撃。

 それでも、弾丸は狙い違わずゾンビの眉間を撃ち抜いた。


「あっ……後ろ……!!」


信楽の焦ったような声。

それを聞くと同時に、俺はナイフを鞘から抜き、振り返り様に狙いを定めて投げ付けた。


『……………………ッ!!』


 若干のズレはあったが、放たれたナイフは頭部を突き刺していた。弱点を突かれたゾンビは、そのまま地面へと崩れ落ちる。


「ふう……上手くいったな」


 自然と漏れる溜め息と共に振り返る。


「……………………」


 すると、何故か全員が惚けたような顔をして俺のことを見ていた。


「おい、どうした?」


 気になって問い掛ける。

 すると、その直後――


「うおおおおっ! スゲエええっ!!」


 いきなり上げられる感嘆の声。

 それに戸惑っていると、信楽達は一斉に俺を取り囲んだ。


「凄いでござる! 感動したでござるよ!!」

「\\\└('ω')┘////」

「うむ、間違いなくキミはゾンビに対して強属性を持っているな!」


 3方から浴びせられる賛辞の言葉。

 慣れない状況に戸惑いながらも、褒められて悪い気はしなかった。


「ま、まあ、訓練すれば誰でも出来るようになるさ。さあ、そんな事より さっさと移動しようぜ」


 これ以上 褒められていると調子に乗ってしまいそうだったので、俺は切り上げて車に乗り込んだ。それでも、まだ頬は緩んだままだった。



 ―――*―――*―――*―――



  ~一時間半後~



 木造校舎が目に映える学校へと到着する。

 駐車スペースにしている校庭の一角に車を止めると、俺達は揃って外へと出た。


「ほお、これはこれは……思ったよりも立派な場所だね」

「少数派のコミュニティかと思っていたでござるが、なかなかどうして、立派ではござらんか」

「(o^∀^o)」


 どうやら、三人にも満足してもらえたらしい。


「あっ……おかえりなさい」


 そこへ、俺の姿を認めた友恵が、ライフルを肩に担ぎ直しながら声を掛けてきてくれた。俺が無事だったことに喜びを感じているのか、その表情と口調は柔らかかった。


「ああ、ただいま。あっ、そうだ。紹介するよ。さっきスカウトしてきた――」


 言いながら振り返る。


「……………………」


 だが、何故だか身を寄せ合って俺の背中に隠れようとする三人が居た。


「お、おい……何やってんだよ?」

「いや……それはでござるな……」

「( ⓞ⃘ ⺫ ⓞ⃘۶)۶ ੭ྀ」

「り、リアルな美少女は専門外なのだよ……ッ!」


 どうやら、友恵の存在が彼等を萎縮させているらしい。信楽の言う通り、本物の女性と触れ合うのが苦手なようだ。


「ははは……今は こんなだけど、頼りになる奴等だからさ」


 怪訝そうな表情を浮かべる友恵に、俺は苦笑を浮かべながらフォローする。


「分かった。貴方が言うなら信用する」


 短く頷きながら、友恵が彼等の方へと向き直る。


「私の名前は友恵。これから よろしくね」


 言いながら、笑みを浮かべて一人ずつと握手する。

 それで挨拶は済んだのか、友恵は手を振りながら持ち場へと戻っていった。


「どうだ? 上手くやれそ――」


 問い掛けながら3人の方を振り返る。

 だが、そこにいたのは茫然自失といった感じの信楽達だった。

 しかし、次の瞬間――


「うおおおおっ! 友恵タン 萌えええええ!!」


 鼓膜を突き破らんばかりの咆哮。

 どうやら、友恵の行動が彼等のテンションをMAXまで上げてしまったらしい。


「柔らかかったでござる~!!」

「あ、あれが女子の手の感触なのか……!」

「(;//́Д/̀/)'`ァ'`ァ」


 歓喜に震える三人組。

 その姿に、俺は自然と笑ってしまっていた。


(ははは……これは、少し待たないとダメだな)


 千葉に紹介するのは、もう少し後になりそうだ――

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