1ヶ月後
多くの人間が様々な思いを抱く中――
それぞれが必死に生き抜いていく――
そして気が付けば、多くの時を費やしていた――
―――*―――*―――*―――
~~~1ヶ月後~~~
「ふう……これで終わりだな」
ゾンビ退治に使用した銃器の手入れが終わり、俺は伸びをしながら呟いた。
「おう、隊長さん。今日も ご苦労さんだったな」
「いつもありがとうね。でも、あんまり無理しないでね」
身体を解しながら学校のグラウンドを歩いていると、其処彼処から声を掛けられる。その口調と表情には親しみが込められており、お世辞や皮肉の類ではない事が理解できた。
(まあ、認めて貰えんのは嬉しいよな)
そんな事を考える。
と、その時――
「お~っす、隊長! 随分と人気者じゃな~い?」
後ろから春喜が抱きついてきた。相変わらずテンションの高い奴である。
「ありがとよ。お前の《お陰》で仕事が多いもんでな」
少しばかりの嫌味を込めた言葉。
それと言うのも、俺が隊長と呼ばれる原因が春喜にあるからだ。
春喜は出会った頃から俺の事を隊長と呼んでいた。
理由は、それっぽいイメージだからだそうだ。
それ以降、周りの人間にまで浸透してしまった。
それだけならば問題はない。嫌味も言う気はない。
しかし、ニックネームと同じ“肩書き”を与えられるとなれば話は別だ。
俺達が この旧校舎に拠点を移してから1ヶ月――その間に仲間が随分と増えた。それは俺達が見付けた生存者だったり、自力で辿り着いた人々だったりしたが、今では100人近い人間が共同生活を送っている。
そうなった時、内政の全体を取り纏める千葉とは別に、物資調達やゾンビ対策――所謂、対外問題を仕切る人間が必要だという事になった。
その時、何故か俺が任命される事になったのだ。
確かに対外任務に就く事の多かった俺だが、それだけではなく、春喜が付けた渾名にも理由があると俺は思っている。
「また それを言う~。呼び名なんて関係ないって。隊長が信頼されてるから任されたんだって」
「……まあ、いいけどな。引き受けちまったんだし」
信頼されての地位なら、ゴチャゴチャと文句を言うのは失礼だ。全ての期待に応えられるとは思わないが、出来るところまでは全力を尽くすべきだろう。
そんな風に気持ちを新たにして春喜と共に歩き始める。
「フンッ……相変わらず生温い奴等だな」
だが、そこへ不機嫌さを隠しもしない口調で男が罵声を浴びせてきた。面倒な人間の登場に、俺と春喜は揃って溜め息を吐きつつ、ソイツの方へと視線を向けた。
デップリと突き出した腹。
脂ぎった顔に陰険そうな目が特徴的な男だ。
歳の頃は四十過ぎだと聞いたが、それにしてはエネルギッシュな印象を受けるのだけが良いところかもしれない
こいつの名前は都築 俊太郎。一週間ほど前に、このグループへと参加した新参者だ。
都築は元々、別の場所で十数人のグループを率いていたリーダーだった。しかし、食料や武器が尽きかけ、此処へと避難しに来たのである。
そんな顛末で参加したというのに、この男は下らない虚栄心を捨て切れないでいた。自らの年齢と、グループを率いていたという実績から、自分が群れのリーダーになるなどと言い出したのだ。
当然のことながら、その案は一蹴に伏された。メンバーが千葉に寄せる信頼感は強いものがあったため、それは当然のことだった。
だが、そんなことで諦める都築ではなかった。
今度は、俺を解任して自分を対外任務のリーダーにしろと要求したのだ。恐らく、新参者として誰かの下に付いたりするのが我慢できないのだろう。
しかし、これまた却下されてしまう。その判断に都築を始め奴の手下共は千葉に詰め寄ったが、急な役職変更は混乱の元となるとして受け入れられることはなかった。
以来、都築は何くれとなく俺に絡むのである。
大人で知的な千葉よりは俺の方が攻撃しやすいのだろう。
(迷惑な話だがな……)
そんなことを心の中で呟きながら、俺は都築に向かって口を開いた。
「都築さん、何か文句でもあるのかい?」
「ああ、大有りだな。あんだけ物資が減ってるのに放ってあるんだ。《隊長さん》に文句の一つも言いたくなるぜ」
隊長さんを強調しての嫌味。
それに対して「テメェ等が手伝わねえからだろ」という言葉が喉まで出かかったが、何とか飲み込むことに成功した。
実の話、都築たちのグループは物資調達などを度々 ボイコットしていた。命を任せられないリーダーの下では働けないなどと言って。
その真意は、俺から対外部隊の隊長の地位を奪うことだ。無理矢理にでも《粗》を植え付けることが出来れば、それだけ不信任案も出しやすくなるのだから。
それ故、俺は都築に対して乱暴な手段を取れずにいた。
別段、肩書きなどに執着はないが、やっと落ち着きを得られたというのに、こんな男のために手放すのは癪だからだ。
「すぐにでも行きますよ……まあ、どこかの穀潰しが手伝ってくれてれば、そこまで少なくならなくて済んだんですがね」
多少ではなく、思い切りの嫌味。
しかし、都筑の顔色が変わることは無かった。
「ふんっ……我々は周辺の哨戒任務で忙しいんだよ。手抜きな誰かとは違うんだ」
よく言う。
周辺の安全は友恵を始めとする狙撃 兼 監視役のメンバーが確認している。その範囲内をウロついて哨戒などと、イイ大人が口に出来るのは驚きだ。
「だったら、その流れで手伝ってくださいよ。哨戒任務に出る根性があるなら楽勝でしょう?」
「残念だったな。帰ったばかりで疲れてるんだよ。行くんなら、お前達だけで行きな」
クズが――そんな言葉が心の中に過ぎるが、顔にも態度にも出さない。そんなことをすれば、奴に突け入る隙を与えてしまうだけだからだ。
「隊長、もうイイよ。俺達だけで行こうぜ」
いい加減、痺れを切らしたのか春喜が割り込む。
俺としても彼の言葉には同意するところなので、迷うことなく頷いて その場を後にした。
「しっかり働けよッ!」
そんな都築の言葉を背に受けながら。
―――*―――*―――*―――
~~~数分後~~~
「ああ、ムカつくッ!!」
物資調達用の武器を用意しながら、春喜が吠える。
どうやら、先程の都築の態度に耐えかねていたらしい。
「相手にするなよ。突っ掛かれば思う壷だぞ」
「分かってるけどさぁ……」
苛立ちを滲ませた口調。
まあ、理屈で感情を抑え込むのは難しいため突然の反応だろう。
(まあ、気持ちはわかるけどな……)
そんなことを思いながら、俺は苦笑を浮かべた――




