苦い後味
~20分後~
「ここか……」
男に聞いた住所を頼りに車を走らせること20分――俺達は一軒の家の前に立っていた。話によると、ここは男が住んでいた家らしい。
「んじゃ、入ろうか」
「ああ、そうだな」
春喜の言葉に頷くと、俺は男から預かった鍵で玄関のドアを開けた。
家の中へと土足のまま上がり込む。
すると――
「あぁああぁぁ…………!!」
「えあぁあぁああ…………!!」
「ぐがぁぁああ…………!!」
廊下の奥から三体のゾンビが姿を現した。
『―――――――――ッ!!!』
即座に銃で撃ち抜き片付ける。
長居するつもりはないのだ。迅速さを優先して派手な音を上げるのも構わなかった。
「……行くぞ」
短く指示を出すと、そのまま目の前にある階段を上って二階へと上がる。そして、男から指示されていた娘の部屋のドアを開けた。
「……………………」
室内に人気はなかった。
だが、確実に存在していたであろう《痕跡》は残っていた。
床だけではなく、壁にまで飛び散った血飛沫の痕。それを見ただけで、ここで何があったのかは容易に想像がついた。
「……酷い」
ポツリと友恵が呟く。
確かに、それ以外の言葉が思い付かない惨状だった。
「目当ての物を探そう。長居したくはない」
率直な気持ちを言葉にすると、俺は室内を見渡した。
と、その時――
「なあ、これはどうかな?」
言いながら将吾が拾い上げたのは、血溜まりがあったであろう場所の中心に落ちていたネックレスだった。小さいながらも何かの鉱石がヘッドに埋め込まれており、ささやかな輝きを放っていた。
「そうだな……これが良い」
直感でしかない。しかし、これ以上の物はないと思えた。
「行こう……」
呟くように言うと、俺は踵を返した。
後は、男が納得するのを願うだけだ。
―――*―――*―――*―――
~20分後~
倉庫前に車を止め、揃って降りる。
そして、みんなに外で待つよう指示を出すと、俺は一人で倉庫の中へと入った。
「やあ、お帰り。思ったよりも早かったね」
まるで友人を出迎えるような口調。
それを受けながら、俺は男の方へと歩み寄った。
「コイツでいいかい?」
問いつつ、部屋で見つけたネックレスを差し出す。
「お、おお……これを見つけてきてくれたのか……」
すると。何やら感極まった様子の男。
どうやら、思い出の品らしい。
「これは、あの子の誕生石を使ったものでね。とても気に入ってくれてたんだ」
懐かしむような遠い目。
今、彼の胸にどのような思い出が想起されているのか分からないが、とても暖かな記憶であることだけは穏やかな表情で理解できた。
「ほら、母さん。見てごらん、あの子のネックレスだよ」
言いながら、男がゾンビに近付く。
その動きに、微塵も警戒心は含まれていなかった。
「バカ、待てッ――!!」
慌てて止める。
しかし、その行動が意味を成すことはなかった。
「あぁああぁぁッ…………!!」
俺の制止よりも、男の動きとゾンビの動きが早かった。
かつて夫だった男の首筋に、ゾンビは躊躇いもなく食らいついたのだ。
「ハ……ハハハ……そうだったな。すっかり、忘れていたよ……」
血を噴き出しながらも、男は苦笑を浮かべる。
その姿を見ながらも、俺は後ろ腰から銃を抜き取った。
「ま、待ってくれ……!」
しかし、その動きは当の男に止められた。
「このままで……いい。死ぬまで……待ってくれ……」
「……………………」
「私が死んだら……始末を……妻と一緒に……」
それだけを伝えると、男は事切れた。
何とも言えない幕切れに、俺は苦い思いを抱きながらトリガーに指を掛けた。
『―――――――――ッ!!!』
一瞬で狙いを定め、一瞬で撃ち抜く。
少しでも早く、目の前の光景を視界から消したかった。
「隊長、大丈夫かいッ!?」
銃声を聞きつけてか、春喜たちが飛び込んでくる。
そんな彼等に視線を向けると、俺は曖昧に首を振った。何を言葉にしたらいいのか分からなかったからだ。
「隊長……」
春喜たちも、俺の態度と傍らの惨状で理解したのか、何かを言うことはしなかった。
「武器を回収して戻るぞ……長居する場所じゃない」
言いながら、俺は武器と弾薬が置かれた場所へと向かった。今はただ、一分一秒でも早く此処から離れたかった――
―――*―――*―――*―――
~数時間後~
「よぉし! 明日の取り付けの準備を始めるぞ!」
俺達の持ち帰ったソーラーパネルを、技師の男が先頭に立って運んでいく。武器の調達を成功させた俺達は、そのままの流れでパネルも手に入れてきたのだ。
「いやぁ、皆さん お疲れ様でした。お陰で此処の開発も大きく前進しますよ」
満面の笑みを浮かべて千葉が歩み寄ってくる。その表情には満足感と共に、俺達に対する信頼感も含まれていた。
「気にしないで下さい。穀潰しになりたくなかっただけですから」
「ははは……そこは気にしなくて結構ですが、頼りになる方が来て下さったのは嬉しい限りです」
「そう思ってもらえるなら、良かったですよ」
千葉の言葉に笑みを返しながらも、俺の心は晴れてはいなかった。
武器を手に入れ、動力の確保も出来た。ここに留まるつもりなら、それは素直に喜んでいい事実だ。その上、自分たちの存在意義も認めてもらえたなら、手応えとしては最上と言える。
しかし――
(華菜、雅也、トニー……)
脳裏を過る彼等の顔。
会うことさえ難しい――いや、生きているかどうかも分からないのが偽らざる現状だ。こうして想ったところで、安否が知れるはずもない。
それでも、俺は願い 望んだ。
再び、彼等に会えることを――




