臨時共闘
~10分後~
懐中電灯で足元を照らしながら歩を進める。
だが、その歩みは意外な声によって止められた。
「うけけけ~、肉肉食べ食べ~」
最早、今となっては聞き慣れた半熟の声。
だが、今だけは聞きたくなかったものだった。
「どうするんだ?」
「……倒そう。奴に背を向けるのは得策じゃない」
重火器の使用が出来ない状態で半熟と対したくはない。
しかし、気付かれていないという保証もなく、奴に背を向ける危険を冒すわけにもいかない。ならば、倒すしかないのだ。
「分かった……油断するなよ」
「ああ、分かってるさ」
軽い笑みと口調で返すと、俺は先に立って歩き出した。
そして、突き当たりに辿り着いた時――
「うけけけけ~?」
ライトに照らされて半熟が姿を現した。
「……行くぞッ!」
気合を込めると、俺はバットを握り締めて突っ込んだ。
「これでも食らいなッ!!」
そう叫びながら、バットをフルスイングする。
しかし、その一撃は空を切ってしまった。
「右だ、避けろ!!」
能美の言葉と同時に、右側から放たれる殺気に気付く。
俺は咄嗟に前転して、半熟の一撃を躱した。
「そのまま伏せてろッ!」
言うが早いか、能美が一気に踏み込んで渾身の斬撃を放つ。
『―――――――――ッ!!』
能美の一撃が半熟の腕を斬り落とす。
痛みがあるのか反射的にか、半熟が声を上げながら仰け反った。
「今だッ……!!」
一瞬の隙に生まれたチャンス。
俺は即座に立ち上がると、体勢を崩している半熟の頭に狙いを定めてバットを思い切り振り下ろした。
『―――――――――ッ!!』
腕に伝わる鈍い感触。
同時に、半熟が頭を変形させて崩れ落ちた。
「ふう……何とかなったな」
「ああ、危なかったがな」
能美の言葉に俺は頷いた。やはり、肉弾戦を挑む相手ではないようだ。
「しかし、これだと抜けるのは大変そうだな」
「…………だな」
能美の言葉に俺は頷いた。
ゾンビ化から数時間の半熟が居たということは、少し前に此処を通ろうとした人間と、そいつらを変異させたゾンビが居るという事だ。
つまり、これから先も戦闘は避けられないということなのである。
(それでも行くしかない……)
改めて覚悟を決めると、俺は能美を伴って歩き出した。
―――*―――*―――*―――
~1時間後~
「ん? あれは……」
幾度かの戦闘を潜り抜けて1時間ほど、能美が何かに気付く。
俺も反射的に前方へと視線を向けると、そこには上階へと向かうものであろう階段があった。
「これはゴールってやつか?」
「多分……な」
湧き上がる喜びを意識しながらも、俺たちは気を引き締めながら階段を上っていった。
「おっ、ここは――」
「駅の地下通路……だな」
急に開けた視界に映ったのは、どこにでもあるような下りと上りのホームを繋ぐ地下通路。壁沿いに多くのポスターが設置されており、色気のない空間を彩っている。
詰まるところ、ここは目的地である駅ビルの地下という事だ。難関をクリアしたのである。
「よし……それじゃ、必要な物を調達しますか」
言いながら、俺は駅ビルの中へと走った。
まず、燃料を入れるポリタンクや、持ち運ぶための台車などが必要だからだ。
―――*―――*―――*―――
~30分後~
「はあっ、はあっ……あそこか」
交差点の一角――そこに目当てのガソリンスタンドがあった。
後は、あそこで燃料を調達して、みんなのところへ戻るだけだ。
だが、その時――
「よお、そこの兄ちゃん達!」
いきなり背後から声を掛けられる。
この世界で身に付いた癖か、俺と能美は同時に銃を構えながら振り向いた。
銃口の先――そこに居たのは、どことなく軽い感じのする男だった。
茶色に染められた短髪。
耳に光るピアス。
犬系の人懐っこい笑みを浮かべてはいるが、その瞳には ある種の鋭さが見て取れた。
「おいおい、そんな物騒なものを向けないでくれよ。これでも気が小さいんだ。下手したらチビっちまう」
そんな感じなど微塵も抱かせない態度。
なので、俺達は銃を降ろしたりはしなかった。
「あらあら、強情なのね」
「……仲間に周りを囲ませてるような奴に心は開けないんでな」
言いながら、視線だけを動かして辺りを探る。
すると、俺と能美を取り囲むように立つ武装した連中が視界に映った。
「ただの用心さ。本当に撃つ気はないよ……今の所はね」
つまり、俺達に反抗の意思があれば、すぐにでも鉛玉をプレゼントするということか。まあ、実際として いきなりの銃撃をしてこないところからも、何かしらの交渉を行おうとしているのは理解できた。
「それで……何の用だ?」
「なに、ちょいと協力して欲しくてね」
「協力だと?」
「ああ。どうせ、アンタ等の目的も燃料だろ? だったら、協力した方が早く終わるじゃんか?」
「別に、アンタ等の手を借りるまでもないさ」
「それは状況を知らないから言えるのさ」
「……どういう意味だ?」
「行けば分かるさ」
そう言われては、どうしようもない。
俺は能美に対して頷いてみせると、警戒は解かないまでも連中と共にガソリンスタンドまで歩いた。
「マジかよ……」
目の前の光景に、そんな呟きが漏れる。
スタンドに群がるゾンビ。何が目当てなのか知らないが、無視できない数が給油所付近をウロついていた。
「どうやら、奥の休憩所に生存者がいるらしくてね。その人達を狙ってるみたいよ」
「確かに、面倒な状況だな」
「でしょ? だから、協力して欲しいってわけ」
そういうことならば、話は理解できる。
何より面倒なのは、場所がガソリンスタンドであるということだ。そこらの路上であれば撃ちまくって終了だが、火気厳禁のスタンド内では無理な相談だ。つまり、掛かる労力が半端ないのだ。
「さてさて……どうする?」
問われ、考える。しかし、現状として取れる選択肢は一つだけだった。
俺は能美に向かって確認するような視線を向けると、彼も納得していたのか迷うことなく頷いてくれた。
「……分かった。ここは協力しよう」
「オッケー。頼むぜ――っと、一応 自己紹介しとくね。俺の名前は《相川 春喜》って言うんだ。よろしくな」
「ああ、俺達は――」
流れで軽く自己紹介をする。
まあ、これくらいの時間ならば消費しても問題はないが。
「んじゃ、分担を決めようぜ。と言っても、燃料を取りに行くか、ゾンビを近付けないかのどっちかだけどね」
「燃料を双方から一人ずつ。残りでゾンビの相手をすればいい」
結構な数のゾンビを相手にしなければならないのだ。燃料を手に入れるだけに何人も人員を割くわけにはいかない。
「了解しました、隊長ッ。ついでに、作戦も考えては頂けませんでしょうかでありますッ!」
フザけた奴だ……まあ、それが不快でないから構わないが。
「まずはゾンビの誘導。それが成功したら、半数に分けて燃料の入手……で、どうだ?」
「イエッサー!」
「……大丈夫だろうな」
戯けた春喜の返事に能美が思わず呟く。
俺も言葉は返さなかったが、苦笑で同意を示した――




