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謎の施設

 ~主人公side~


「さぁ~てと、どうすっかね?」


 あっけらかんとした口調で尋ねる。

 華菜たちの足取りが途絶えてしまったことは未だにショックだが、ヘコんでばかりでは俺たちの命にも関わってくる。

 すでに、再会は運に任せる他ない状況ならば、その時に備えて全てを整えることしか出来ない。


「まずは武装を補充させるべきだろう。丸腰に近い状態では誰とも戦えん」


 確かに、今の俺たちの武器と言えば、将吾の持っている小銃とマガジンが一つ。俺の持っているハンドガンとマガジンが一つ。後は能美の携えている日本刀だけだ。さすがに心許ない。


「でも、ここら辺に武器を補充できるような場所ってあるのかい?」


 首を傾げながら将吾が問う。

 そんな彼に対し、能美は少し考えてから口を開いた。


「少し遠くなるが、軍用トラックが乗り入れていた大学がある。まあ、避難所だった確証もないから、武器が置いてあるとは言い切れんがな」


 一般市民を守るための避難所――そこに武器があることは生存者の共通認識だ。しかし、自衛隊も避難所の防衛にだけ動いていたわけではない。何か別の用事でトラックが乗り入れていたなら、武器を備えてはいないだろうから無駄足になる可能性の方が高いのだ。


「……不確かだけど、そこ以外に情報もないか」

「行くんですか?」

「民家を漁るよりは確かだからな……行くしかない」


 俺の言葉に、全員が頷く。

 元より、情報も選択肢も少ない身だ。とにかく動くことしか出来ない。ならば、迷うことなく突き進むだけだ。


「じゃあ、運転は頼むな」

「ああ、任せろ」


 了承する能美に頷くと、俺たちは揃って一夜の宿として借りた家を出た。



 ―――*―――*―――*―――



  ~20分後~



「ここか?」

「ああ……あそこを見てみろ」


 言われて視線を向けると、確かに正面入口の奥から少し外れた所に軍用トラックが数台 停まっていた。


「トラックの中は?」

「空だったそうだ。だが、建物の中にまで入っていない。さすがに人手が足りなかったんでな」

「そうか……んじゃ、中のほうを調べてみるか」


 そう言うと、俺達は警戒しながらも構内に足を踏み入れた。


 講義室。

 食堂。

 事務室。

 研究室。


 一通り調べた俺達は、とりあえず正面玄関のほうへと戻ってきた。


 調査の結果、一番に気になったのが謎の死体だった。

 ほとんどが白衣を着た研究員風の人達だったが、全員が頭を撃ち抜かれて死んでいたのだ。


 噛まれた跡があったならば理解はできる。しかし、彼等にはゾンビに襲われた形跡も、ゾンビ化の兆候も見られなかった。つまり、純粋に殺されていたのだ。


「何があったんだ……?」


 俺は疑問に思いながらも、ここに武器の類がある可能性は捨てきれないと判断し、さらなる調査を開始することにした――



 ―――*―――*―――*―――



~30分後~



 俺達は長く続く地下への階段を降りていた。研究室の近くにあった地下への入り口を見付け、下層へと降りている最中なのだ。

 結果、辿り着いた先は大学構内のような明るさはなく、無機質で冷たい雰囲気で包まれた施設だった。


「ここは何だ?」

「さあな……だが、まともな場所でないことは分かる」

「そう……ですね」


 大学の地下――秘密裏に造られたというだけで、常識的で健全な研究がされていたとは思えない。


「……行こう。先に進めば分かるさ」


 そう言うと、俺は足を進めた。

 手に握る銃だけは離さないようにしながら。

 そして、辺りをキョロキョロと見回しながら歩くこと10分後――


「コイツは……スゲえな」


 思わず、そんな呟きが口から吐いて出る。

 今までの無機質なコンクリート造りのものから一転、まるでSF映画のような近未来的な通路に出た。デザイン的な良し悪しなど俺には分からないが、かなりの注力で建造されたことだけは理解できた。


「こっちは……ただの部屋か。ベッドがあるから個室かな?」

「こっちは個人用の研究室か……なるほど、右側が研究室、左側が部屋を与えられた研究員の個室というわけか」


 通路に面した部屋を覗きながら、思い思いの感想を口にする。その内容から察するに、やはり此処は研究用の施設らしい。


「とりあえず、奥まで行ってみよう」


 言いながら、通路を進んでいく。

 最早、武器云々の期待は薄まっているが、この施設の目的を知らないことには、どうにも落ち着かないのだ。


「……………………」


 通路の一番奥――頑丈な造りのドアを開けた瞬間、俺は言葉を失っていた。予想を上回る規模の設備に、呆気に取られてしまったのだ。

 何に使うか分からないが、最新鋭と思われる機材が整然と設置されている様は、まさに映画で見るような〝研究室〟だったのだ。


「スゲえな……」


 そんな言葉しか出てこない。

 だが、そこへ――


「キャアァッ…………!」


 いきなり沙苗が悲鳴を上げた。何かと思いながらも銃を抜いた俺だが、彼女の身には何も起きていなかった。


「どうした、沙苗ッ!」


 駆け寄る将吾。しかし、そんな彼には答えず、沙苗は部屋の中心にある手術台のような物を指差した。


「うわ、何だこれッ……!」


 台の上を覗き込み、同じように声を上げる将吾。気になった俺は、ゆっくりと近付いて視線を向けた。

すると――


「コイツは…………」


 そこに居たのは、見たこともないような生物だった。

何かの植物へ強引に人間の頭部を埋め込んだような容姿は、醜悪さを通り越して恐怖を感じるほどだ。こんなのが夜道で目の前に現れたら一目散に逃げることだろう。


「コイツは……何なんだ?」


 ジッと見つめながら、能美が基本的な疑問を口にする。しかし、俺達の誰もが、その疑問に対する答えを持ち合わせていなかった。


「あ、あの、このパソコン動くみたいです」


 沙苗の言葉に目を向けると、確かに生きているパソコンがあった。この生物に対する答えがあるかもしれないと思い、俺は開けるファイルを片っ端から閲覧していった。


 その結果、驚くべき情報が手に入った。


 まず、この施設は1年ほど前に完成した物らしい。

 建設の理由は単純。他国がバイオウェポンーー所謂、生物兵器を開発しているとの情報を得たらしく、遅れをとるわけにはいかないと、研究・開発のために造られたのだそうだ。


 しかし、開発中だった生物兵器は実用化される前に危険と判断され中止。ここの研究も一時的に破棄された。

 だが、ゾンビ病発生の混乱に乗じて、研究員達が国の許可も得ず実験を再開したのだそうだ。

 当初は役に立たない化け物しか造り出せなかったらしい。しかし、ウィルスが特定の植物との結びつきに安定を見せたそうだ。

その結果として生み出されたのが――


「コイツってことか……」


 言いながら、俺は後ろにある台座に視線を向けた。

 だが、そこには――


「あれ、いない……?」


 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 と、そこへ――


「下がれ、上だッ!!」


 響き渡る能美の声。

 危機感か偶然か――俺は反射的に後ろへと飛んでいた。


『―――――――――ッ!!』


 何かが地面を強く叩く音――それと同時に、俺の目の前に あの謎の生物が姿を現した。


「シャアアアァァッ!!」


 不気味な鳴き声を上げながら、化け物が こちらを睨む――いや、目が見当たらないので見てるかどうか分からないが、こちらを認識してるのは間違いなかった。


「クソッ……ゆっくり寝てろよッ!」


 言いながら、俺は銃を構えた。


『―――――――――ッ!!』


 ヒットする銃弾。しかし、傷を付けるどころか貫通までしているのに、その直後に回復してしまった。


「マジかよ……」


 驚愕の呟き。

 しかし、このまま惚けているわけにはいかない。何とかしなければ、奴に殺られるだけだからだ。


「どうすっかな……」


 焦りを押し殺しながら俺は呟いた。

 それでも、何とか頭を働かせる。

 結果、俺は沙苗の方へと向き直った。


「沙苗、アイツの相手は俺達がやるから、その間にパソコンを調べてくれないか?」

「えっ……?」

「人間、強大な力を作り出す時には、必ず何かしらの安全策を用意してるもんだ。恐らく、アイツにも同じことが言えるはずだ」


 そして、その情報を手に入れる唯一の手段は、あのパソコンなのである。


「分かりました」


 俺の意図を汲み取ったのか、沙苗は反論することなくパソコンに向かった。そんな彼女を確認してから、俺と将吾と能美は目の前の化け物を沙苗から引き離していく。

 そして、十分に距離を取ると、銃口を奴に向けてトリガーを引き絞った。同時に将吾も射撃を開始する。


『―――――――――ッ!!!』


 放たれた銃弾の全てが命中する。

 しかし、先程と同じように傷口は即座に塞がれてしまう。

 だが、それを承知で攻撃を繰り返す。

 今の俺達に必要なのは、銃弾という武力ではなく情報だからだ。


「……あっ、ありました!」


 沙苗の弾んだ声が耳に届く。


「どうすればいいんだッ!」

「火です! 火に弱いんです!」

「火って言っても……」


 辺りを見渡してみても火の気はないし、発せそうなものもない。


「その台に誘導してください! 緊急時の焼却装置があるそうです!」


 言われて化け物が寝ていた台を注視すると、確かにコントロールパネル部に仰々しい赤色のボタンがあった。恐らく、あれが焼却装置を作動させるスイッチだろう。


「将吾、お前は沙苗を守れ! 能美はスイッチを頼む!」

「お前はどうするッ?」

「上手いこと誘き寄せてやるさ!」


 言うが早いか、俺は奴に向かって突っ込む。


「キシャアアァァッ!!」


 不気味な声を上げて襲い掛かろうとしてくる。

 しかし、むざむざと殺られるつもりはない。俺は即座に踵を返すと、台の上をスライディングで抜ける。狙い通り、その後に化け物も続いた。


「能美、今だッ!!」


 俺の合図に、能美が焼却装置のスイッチを押す。

 瞬間、台の四方から強化ガラスが降りてくる。

 そして――


『―――――――――ッ!!!』


 激しく吹き荒れる炎。それは強化ガラスの中で踊り狂い、奴を跡形もなくなるほどに焼き尽くした。


「ふう……上手くいったか」


 俺は安堵に呟くと、手近の椅子に腰掛けた。

 そして、浮かんでいた手汗を拭うと、身体を包む疲労感に任せるよう ゆっくりと目を閉じた――



 ―――*―――*―――*―――



  ~1時間後~



 結局、俺達は何も得られぬまま大学を出てきた。

 しかし、目に見えないもの――情報は手にすることが出来た。


 まず、研究員達が殺されていた理由だが、あれは彼等の独走が原因らしい。研究が破棄された後は、ゾンビ病の元であるウィルスの研究を何処かからの指示によって行っていたようなのだが、密かに再開していた生物兵器の開発に熱中。結果、自分たちの研究欲を満たすためだけになってしまい、指示を出していた組織の意向を無視する事となったらしい。

 さらには、自分達ですら制御するのが難しいモンスターを作り出し始めたことで、研究員を含めた全ての処分が決定されたのだそうだ。


 まあ、ここまでは特に有用ではない情報だ。

 しかし、期待感のある情報も手にすることは出来た。


 それは、研究員の処分が2、3日前に行われたということだ。

 つまり、あれだけの研究を指示でき、必要とあれば処分も行える《組織》が存在しているということである。


 それが政府機関なのか、新たに発足された組織なのかは分からない。しかし、それだけの余力があるという事実は、助けになるかならないかはともかく、有用な情報であると言えるだろう。


(後は、俺達に どう関係してくるか……だな)


 心の中で呟くと、俺は大学に対して背を向けた――


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