対峙−2
何かが衝突する音が響いた。
ジョージ達が一階の廊下を走り北の塔へ続く道に差し掛かろうとした時だった。音がしたのはちょうど真逆のキシュ達が待機していた場所。
奴らが来た。
焦るチェズの声をかき消すように地響きと爆風が2人を襲い、首根っこを突然引っ張られたかのようなものすごい勢いで体が飛ばされる。
すんでのところでチェズが魔法を放っていなければ塔の壁にぶつかり内臓が潰れていたかもしれなかった。あたりを包み込む白煙。
今まで塵一つなかったのに瓦礫が飛び散っている。細かい破壊片を吸い込んでしまい咽せる2人。
「ジョージ…走ってくだ
言葉を最後まで言い切ることはできなかった。
無数の石礫がスコールのように降り注ぐ。2人を包む風の魔法が全て切り裂かれたタイミングで石の雨は止み白煙も収まっていた。
3階と1階を繋ぐ一本の石の道は二枚の天井に大きな穴を開けている。その道の先端に立つ1つの影。
「だいぶ雰囲気変わったんじゃねーの?チェズ。」
「あなたは相変わらずですね」
ジョージは自分の目を疑った。聞こえてくる声は確かにビッツなのに瞳に映るその姿に見覚えはなかった。
全身油にまみれたヨレヨレの作業着。
首にはゴーグルがかけられている。顔は相変わらずだったが、柔らかく緩やかな首まであった髪は、10:1に分けられ左は坊主。右も耳のあたりでツーブロックで切られていた。
呆気に取られたがすぐに怒りが込み上げ、気がつけばチェズの手を振り払い飛び出していた。
大地から勢いよく伸びる岩の盾に刃が遮られる。
「ビッツに何をした!!!」
「何もしてないさ。」
少し驚いた顔を見せたかと思うと品定めをするかのような視線を送り、右の人差し指をピンっとたてた。それと同時に岩の盾から無数の鋭利な鉱石の刃が飛び出し急ぎ後退したジョージの腕や腹を裂く。飛び散る血はそれほど量は無いようでエンテがニヤニヤと笑った。
「ジョージ!!ここは私に任せてあなたは制御装置を!!!」
「させねーよ」
エンテが親指と中指を弾くと大地から透明の結晶が勢いよく生えてエンテとジョージ達を包むドーム状の巨大な結界を作り上げた。
この強固な結界から抜け出せることがどれだけ骨の折れることかチェズは理解していた。
エンテを睨み叫ぶ。
「エンテ!!今この状況がどれだけ危険かあなたわかってるんですか?!!」
「危険?笑わせんなよ。お前自分が何やろうとしてんのかわかってんのか?」
「わかっていますよ!!この命に変えても私は守ると決めたんです!!」
その言葉にエンテは笑い呟く。
「お前らしいな…」
しかし彼の呟きはチェズやジョージには聞こえていないようだ。
「お前はお前のしたいようにやれよ!俺も俺のしたいようにやるからさー!!」
「あなたのやりたいこと?!」
「そっ!俺はひさびさの自由を楽しむからよー!!」
エンテの言葉と同時に大地から無数の鉱石の刃が突き出し2人を襲う。ジョージとチェズはそれを難なく交わし、体を空高く飛びあげる。結界ギリギリのところでスピードは緩まり下降する体。そんな中チェズの声が響く。
「ジョージ!覚悟を決めてください。エンテはかなりのやり手です!」
「そんなものとっくに決めている!!」
その間も飛んでくる石礫。チェズもジョージも防戦するしかできなかった。
「俺が囮になるからお前らがあいつに攻撃しろ!」
ジョージの言葉にチェズは頷き、最高の防御魔法をジョージにかける。大地に足がついたと同時に踏み込み勢いよくエンテのほうへ飛び込むジョージ。
「お前からくるのね。」
楽しむようにエンテは石礫をジョージに向け放つ。避けている暇などない、チェズの魔法があるからと言っても無傷ではすまなかった。それでも進み続け槍を振り下ろす。
響き渡る冷たい衝突音。
硬い鉱石の刃にはヒビが入っている。
すぐさまジョージの槍を振り払おうとするも力を押しやることができない。びっつと違い鍛え抜かれた体。ある程度の筋肉があるビッツの体は耐えるのですら苦しい。
「へー。いいじゃんお前。」
余裕をかますエンテの声に憎しみが湧く。
「なら俺にすればいいだろう!!!!」
大きく見開かれたエンテの瞳は細くなり、口角が上へと上がったように見えた。
「ジョージさん!引いてください!!!」
フウゼツの声が響くと同時に体を宙に浮かせる。今度はフウゼツがエンテめがけ鎖鎌を投げつけるも岩盤の盾が鎌の刃を弾く。
「何だそれ!お前っんなもん使え
守っていた岩盤はチェズの風の魔法で勢いよく砕け、その間をさきほど弾いたはずの鎌が飛び込みエンテの腹を裂き真っ赤な血を噴き出させた。
「っつー。痛え…」
そう言ってエンテは血だらけのお腹に手を当て、片方の手で素早く印を組み回復魔法が発動された。みるみるうちに出血は止まり傷口が塞がる。
「?なぜ…?」
チェズにとって異様な光景だった。それもそのはず。エンテは大地の魔法を操り攻撃をすることを得意としていたが回復魔法や補助魔法は得意としない。本人がそういう類のものを必要としなかったせいだ。使えたとしても目の前で発動される程の高度な回復魔法など使えるはずはなかった。後退していたジョージの元へ駆け寄りチェズはジョージに尋ねる。
「君の弟は魔法が得意だったんですか?」
「?なんだこんな時に!」
「いいから!!」
「…あぁ…ビッツは俺から見てもかなりのやり手だ。」
不安は的中した。
「君の弟はエンテに加担している。」
「なっ?!」
その間にも飛んでくる石の弾丸を避けながら必死にジョージはチェズの言葉を否定した。
ビッツが加担しているなど到底信じることなどできなかった。もし仮にエンテに加担してるとすれば騙されているとしかジョージは思えなかった。ビッツは人を疑うということを知らない純粋無垢な性格だ。都合の良い嘘も見抜けない可能性は高い。けれども兄であるジョージを攻撃するような奴に加担するとは思えなかった。ドラグーンで操られていた時ですら、ジョージへの攻撃を拒み続けていたのだから。
そうなれば考えられるのは一つだけだった。
「ビッツは加担していない!服従させられている!!」
『服従』
その言葉がジョージを駆り立てる。エンテに向け槍を全力で振り下ろす。巻き起こる風は大地を削りながらエンテの方へ向かう。そのスピードは思いのほか早くエンテも急ぎ岩盤の盾を出して攻撃を回避する。
「あっぶね…」
溜息を吐き出した瞬間、壊れるはずのない盾は粉々にくずれ鬼の形相のジョージが飛び込み槍
の柄の部分でエンテの左横腹を思い切り投げ払う。大地と水平に勢いよく移動する体は強く地面に打ち付けられる。
回復をしようと口が開かれようとした瞬間、激しい痛みがエンテを襲う。
槍の穂の先端が右の手のひらを貫いていた。
エンテの小さな叫び声が漏れる。
上がる息を必死に抑えジョージがエンテに睨みつける。
「ビッツを!!!弟を返せ!!」
「そんな大事なのかよ…?」
「あたりまえだ!!」
エンテの首がうなだれた。揺れる肩。笑っているのかジョージは気に食わなかった。
「っおまっ!!!!
言葉を最後まで言い切る前にエンテが顔を上げジョージは信じられないものを見ることとなった。瞳に映るのは自信満々な余裕をかますエンテではない。いつも…いつも見ていたビッツだった。話すビッツの言葉は彼がエンテでないことをより確証するものだった。
「兄さん…ありがとう。」
「ビッツ?!!!!」
槍を抜き取ろうと引っ張るもなかなか引き取ることができない。穂の先に視線を向けると血だらけの手のひらが穂を握りしめていた。
「お前何を…?」
「ごめんなさい」
「え?」
ジョージの体を勢いよく貫く鉱石は血を撒き散らしあたりを輝かす。




