対峙−1
魔法陣に足を踏み入れ揺れ動く景色。辿り着いたのは狭いトンネル。大人2人が歩くには少し窮屈でジョージとサマーティの背中にあった武器は流石に天井にぶつかってしまい手に持って歩くこととなった。先ほど空に輝いていたオーロラの中に迷い込んだような気がするほどこの空間は美しかった。
マクリア・メソンは中央に円柱の形をした建物にそれを東西南北囲むように4つの塔で構成されている。北にある塔が魔力の制御をするためのものとなっている。塔内部にある制御室への入り口は1階。
そしてシャザンヌは3階南にある部屋を目指しているらしい。とにかく制御装置の破壊までシャザンヌをその部屋に入れないことが目的となる。
シャザンヌはエンテと共にやってくることは明白だった。そして相手も馬鹿ではない。エンテを制御装置の警備に回すだろうことをチェズは予想した。
炎の力を持つアベドの依代シャザンヌの相手は水と氷の力を行使するトゥルナと過去にシャザンヌを封印したキシュ。そのサポートにサマーティーとマリー。
制御装置の破壊はチェズとジョージが担当することとなった。当初ジョージもシャザンヌを止めるメンバーの1人であったがすぐにジョージは拒否した。それもそうだ。エンテの依代はジョージの弟ビッツなのだから。
キシュ達もチェズにジョージを連れていくことを進言した。最終的にはトゥルナの同意もありチェズが折れる形でジョージが同行できるようになった。
チェズとトゥルナから今回の作戦を聞かされたときは記憶が戻ってすぐに姉と対峙する不安に胸が押しつぶされそうになった。嫌だと言いたかったが、そんなことを言える状況でも立場でもない。今もその気持ちはある。けれども自分1人ではないことをキシュはもう知っている。今は弱い心を1人で抱えていない。
先の見えないトンネルを走り続けると一際眩い光が見えアリナが消えた。
マクリア・メソンへの入り口だ。
アリナに続き皆が光へ飛び込む。
目を開けた先にあったのは無機質な白い壁とこの建物が海の中であることを教えてくれる強固なガラス張りの窓。
窓の外からは海にはあるはずのない草木が見える。この建物を守るための結界がはられているのがわかる。
どうやら廊下の端っこに出てきたようだ。
どこかソーサーの城を彷彿させる作りだった。
「ここがマクリア・メソン…」
「待っていたぞ。」
声の主はマクリア・メソンまでの道を作った親衛隊の隊長トトラ。
辺りを見るとトトラの他に3人のソーサー達がぐったりと息をあげ座り込んでいた。
「トトラ様。完成したんですね。」
「完成したのは本当に今さっきだよ。」
「注文通り3階に道を作ってくれたんだな。感謝する。」
チェズの言葉にトトラは膝まつき深く頭を下げる。
「身にあまるお言葉…」
「トトラ。貴方達は道に戻り私達の合図があるまで扉を閉じていてください。アリナ達は私達の補佐として後方で待機をお願いします。」
「御意。」
「それじゃ私たちも行こう。」
チェズの言葉にジョージが頷きチェズについていくが突然足を止めて後ろにいるキシュの方へ振り向き向かってきた。
どうしたのか口を開けようとした瞬間、右手を掴まれたかと思うと柔らかな唇の感触。想像を遥かに超えた行動に誰もが驚き固まった。全身真っ赤なキシュにジョージが真剣な眼差しで見つめる。
「戻ってくるからお前も必ず待っていてくれ。」
そう言って返事も聞かずにチェズの元へと駆け出していった。
この状況を全く理解できないキシュを除く3人にはジョージの気持ちが痛いほどわかる。
必ず戻ってきてくれることを願わずにはいられなかった。
「それでは貴方達はあの女が来るのを待ってくださいますか?」
「え?トゥルナさんは?」
「私は少し確認したいことがあるので、少し離れます。」
不安そうなキシュの顔ににこりとトゥルナが微笑む。
「あの女の気配を感じたらすぐ駆けつけますし同じフロアだから大丈夫です。」
不安だったが大丈夫だというのならとトゥルナを見送った。
キシュ達が待機している場所から丁度真逆に当たる扉まで1人で向かうトゥルナ。
−ここに何があるの?
コロッツィオの声がトゥルナの中に響く。
−もう一つの世界との連絡を取る手段よ。
−?
−理解しなくても大丈夫。
トゥルナの足が止まる。見たことのない扉。その隣にある赤く光るライトに指を押し当てると光は赤から緑へと変わり扉が勢いよく開かれた。驚くコロッツィオを尻目にトゥルナは部屋の中へ入ってゆく。真っ暗やみの室内にゆっくりと明かりが灯ってゆく。トゥルナがあたりを見回さないので、何があるのかコロッツィオには良くは見えない。トゥルナの視線を通して見えるのは広々とした真っ白な机。
トゥルナは机に回り込み手のひらを掲げる。すると突如浮かび上がるホログラム。
浮き上がっている文字は所々見慣れないものが含まれていて、読むことは難しかった。
宙で動く指にそって現れる画面。
しかしトゥルナはそれには一切目もくれず操作を続け、安堵の息を漏らした。
−チェズ。あちらへの通信はできそうにないわよ。アドレスが変わってるみたい。
チェズがすぐさま返答した。
−そうか。だが、私たちの端末が生きている可能性もある。確実にこちらからの接続を切ろう。
−そうね。頼むわよ。
2人が会話をしているあいだに雷のようなマークが現れてチカチカと光っていた。
2人の会話を理解することはコロッツィオにはできなかった。2人の会話は自分達と同じ言葉ではなかったから。
コロッツィオは静かに2人の会話が終わるのを待っている間も点滅する雷のマークが気になって仕方がなかった。
−トゥルナさん。これいいの?
コロッツィオの不安そうな声でトゥルナはようやく雷のマークに気がついた。
トゥルナの中で何かが引っかかった。
−そうね…
トゥルナの指が雷のマークへと運ばれようとした瞬間に感じ取れた大きな魔力。
一瞬だった。
アリナ達が必死で放った防御障壁はキシュ達を包みこみ突っ込んできた潜水艇から守っていた。しかし建物を守る結界をすり抜けガラス窓へ突っ込んできたせいでガラスの破片は勢いよく飛び散り、魔法に守られていないアリナ達に無慈悲に降り注ぎ、象牙のように白い肌に突き刺さり弾け飛ぶ花びら。
一瞬だった。
開けた扉の先に広がるのは様変わりした景色。
白く光る床にできた大きな赤い水たまりに横たわる体は反射する光に包まれる。それは美しいオブジェのようだった。
言葉を失うトゥルナの瞳には潜水艇から降りてきたシャザンヌと1人の男性が映った。




