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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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もう一つの戦い-2

準備は着々と進められた。

いや。早急に進められた。


3日後にエクセリクシを使いクロノアを襲撃することが決まったのだ。シャザンヌはその日のうちにどこかへ行くらしい。具体的な時間は誰も知らなかったが、夜中には確実にいないことはわかっている。


シャザンヌにしか製造することのできないホルモン剤を全て廃棄し、製造機自体も破壊するチャンスが来た。

問題はただ一つ。

製造場所の鍵。

間違えればすぐに警報が鳴り響く。これだけは避けたかったがカールのおかげで解決した。


「っっっんもう!!本当に苦労したんだから!」


ハンカチを握りしめ大粒の涙を流すカールの姿からとても苦労したことがわかる。


「これ見てよ!!」


そう言って着ていた白衣を脱ぎ、スクラブの裾をめくり上げ覗くのは鞭でつけられた無数の真っ赤なミミズ腫れ。流石の量にその場に居たみんなが生唾を飲んだ。


「あの子…あんなに優しそうな顔して…とんだ夜の女王さまよぉぉ!!あたしはそんな趣味なんかないのぉぉ!!!」


大泣きをしながらミリョウへ抱きつくカールに流石のイティラも辞めろとは言えずにいた。


「けどそのおかげで色々わかったじゃない!」


カールが体を張ってくれたおかげで重大な情報が手に入った。


ジゼルは認証者。しかも暗証番号までも必要ということが判明した。しかしその事実さえわかればこちらのもの。即座にカールはジゼルの写真を撮影し虹彩情報は手に入っている。これさえあればあとは印刷さえすれば虹彩認証は突破できる。そして暗証番号の方は警戒心ゼロのジゼル本人が声をあげて読み上げてくれたおかげで手に入った。


カールの功績はそれだけではない。クロノア襲撃の夜、研究所で慰労会という名のパーティーを開くことまで了承させた。


「ジゼルと一緒にいることを条件に了承させたんだからね…もうやだ…ほんっっとうに…」

「シャル…」

「ミリョウちゃんにも悪いけど頑張ってもらうわよ?!」

「?…どういうこと??」

「あたしとジゼルが一緒にいると…ほら?あの変態シュナがヤキモチするらしくて…だから…」

「カール!!おまえまさか!」


イティラの腕がカールの胸ぐらを掴み凄い勢いで睨みつける。


「やだ〜!!イッティー痛い痛い〜!!だって仕方ないじゃない〜!!それにシュナはどっちにしてもマークしなきゃだし〜!」

「そ!そ…そ…それならミンキュにやらせればいいだろ!」

「えぇ?あたし?????」

「イッティー落ち着いて!!あなた動転しすぎ!!!」

「そうよ!イティラ落ち着きなさいよ。カールの判断は間違ってないじゃない?私がシュナの相手をするのなんてなんの問題もないわ…」

「ミリョウちゃん…」

「そうよ…なーーんの問題もないんだから…」

「ど…ドクター顔が…」

「きゃ〜!!ミリョウちゃん般若ー!!」

「とにかくあと3日後よ。みんな覚悟はできてる??」


ミリョウの声にみんなが首を縦に振った。

着々と準備は進められた。

カールとミリョウがジゼルとシュナを監視している間、ミンキュが研究室へ潜入しミンキュが製造機を破壊する。イティラはその間に薬品保存庫にてホルモン剤を破棄するのだ。

ミンキュは雑用係。イティラはそもそも群れるのが嫌いなので軽く挨拶をした後はフリーだ。


予定の1日前。研究所はどよめきたった。

王達がエクセリクシを視察に来たのだ。その場にはもちろんシュアトルもいる。シュナとジゼルが王達にラボの説明をし各所を練り歩く。各プロジェクトの責任者達も呼ばれ激昂された。しかしそこで事件が起きたのだ。


シュアトル皇子の乱心


その場にいたカール、イティラも何が起きたのか全く理解できなかった。それもそのはず。無月を利用した特化エクセリクシ<ドゥルガー>の開発はシュアトルの許可が降りたと思っていたのだから。しかし事実は異なり、皇子は今の今まで何も知らなかったのだ。


シュナを殴りつける理性を失ったシュアトル皇子をすぐにティアトル皇子が押さえ込むも、殴り続ける皇子に麻酔薬を打つジゼル。

叫ぶシュアトル皇子を牢獄へ連れて行くよう指示する王はその後も平然と会話を進める。その場にいたシュナ、ジゼル、国王、ティアトル皇子以外はこの狂った現状を理解することができなかった。


そしてその12時間後にドゥルガー投下実験は開始された。

投下されたのはコード5と11。

実験は成功し、投下されたクロノアの都市部はものの数分で機能停止となった。

成功の報告とともに帰還するドゥルガー。

主要研究員達の歓喜の声が聞こえる中、何も知らずにいた末端研究員達は自分たちが踏み入れてはいけない道へ足をつけていることを知った。そのほとんどは現実を直視できないのか共に歓喜の声をあげている。嘆いているものはほんの数人。

しかし嘆いている暇などなかった。嘆けば目をつけられることは賢いものであればすぐに理解できる。

その日の研究棟は夜の慰労会が開かれる前からお祭り騒ぎでもはや何も機能していなかった。


ミリョウ、ミンキュ、イティラはカールの部屋へ集まっていた。重たい空気が包む。仲間たちを使った実験が行われ皇子の危機に何もすることができないミンキュの焦りは酷いものだった。葉月と神無月は皇子の手足で特に繋がりが強かった。流石のシュナも手を出せず、そうこうしている隙に逃げ出したようだ。葉月と連絡がつかなかった理由も合点がいく。

しかし現在状況は変わり、葉月、神無月の捜索は本格的になっていて、いつ捕まってもおかしくない状況だ。そこへ来て捕らえられたシュアトル。葉月と神無月を誘き出すには恰好の餌だ。救えるのは自分しかいないと今にも飛び出そうとするミンキュをミリョウが必死に止めた。


「離して!!今この状況で皇子を助けれるのはあたしぐらいなんだよ!」

「落ち着いて!!気持ちはわかるけどあんたが行ったら折角のチャンスが水の泡よ!!」

「けど!!!!」

「お願いよ!!!ミンキュ!!ここで潰せばこれ以上犠牲者を出さなくて済むの!!」


膝をつき、頭を下げるミリョウ。

目上の者に対する懇願の姿。


「この通り…お願い…」



「ドクターやめてよ…」

「これしかあたしにはできない…だからお願いよ…」


沈黙が包み込み、とうとうミンキュが折れた。

エクソリクシにされる前にその手段を潰せばいいと言われたから。きっと神無月と葉月のことだ。何があってもシュアトル皇子を救うに決まっている。皇子は2人に託し、自分は神無月と葉月を守る。そう決心した。


「それじゃ計画を実行に移しましょう。」


ミリョウとカールはパーティが始まったらすぐにジゼルとシュナと合流し酒を飲ませて潰す。イティラはパーティの最中は関係者へ挨拶をして周り、ミンキュはイティラ特性の度数の強い酒を配りまくり、みんなが酔っ払った頃合いにラボへ潜入して製造機を破壊。


お互いの役割を確認しあい4人は夜のパーティーに向け散り散りに別れた。


1人廊下を歩くミリョウの肩が叩かれた。振り向くとニヤニヤと笑うシュナがいた。

嫌悪を感情の底に押し沈めるために自分のできるかぎりの笑顔を振りまき軽い挨拶を交わした。


「僕の部屋へ来なさい。いいものを見せてやるよ。」

「あ…でも今日のパーティーの準備が…

「そんなもの他の奴に任せればいいじゃないか。」


強引に掴まれる腕に思わず声が漏れる。

そんなことお構いなしに肩にまで手を回し、ミリョウを強引に連れて行く。まだ流れに逆らってはいけなかった。ミリョウは流れに身を任せ、シュナの研究室へと向かった。向かい入れられた部屋はきちんと整理整頓された部屋。まるで自分の研究室を見ているかのようだった。


「あの…見せたいものって…

「あぁ私の考えたものだよ。君は今回投下されたエクソリクシを知らないだろ?」

「はい。ほんの数分で国を壊滅させるなんて信じられないです。」

「あれは私の傑作だよ。私は前々から我らヒトの体には魔物の遺伝子が含まれていると睨んでいた。その遺伝子を叩き起こせればよりヒトを強化できると思っていたんだ。それが今ようやく実現されたんだ。」

「素晴らしいですわ。」

「ほらこれだよ。美しいだろ?」


ニタニタと笑いながら数枚の写真を見せてきた。そこに映るのはロバルトで見たあの美しいドゥルガ・コード11だった。そしてもう一枚は二足歩行する狼の魔物のようなエクソリクシ。狼と異なるのは顔だろう。大量の毛で覆われていてもヒトの面影が残っている。ドゥルガ・コード5。

2体ともに共通しているのは虚な瞳だ。


「本当に美しいですわ…コード11は芸術品ですわね」

「あぁ。やはり純血ルラは最高だよ。」


軽やかに語られるシュナ独自の人種主義説。どれもこれも馬鹿げていて耳を塞いでしまいたい気分だ。きっと今までであればその場を去っていただろう。けれども今の自分にはどうする事もできなかった。ただただ言葉を頭に入れまいと相槌を打つしかできなかった。


「けれども失敗作の中にも、見方を変えれば光るものもある。そう…まさに君のように…」


気がつけばシュナの指がミリョウの髪を撫で、口に含んでいるようだった。

身体中から噴き上げる冷たい汗を隠すために小さな声を上げた。


「どうしたのだ?そのような声をあげて」

「あ…いえ…すみません。」

「まさかこういうことが初めてというわけでもあるまい…」


髪から離れた唇はだんだんと顔に近づいてくる。ヘドロに顔がつく方がまだマシかもしれない。それほど耐えられないものだった。しかしミンキュも耐えたのだ。自分も耐えなければ示しはつかない。


見つめられる瞳。

気分が悪くなり全ての穴がキュッと強く閉じられる。耳元で囁かれる甘い言葉はまるで床を這いずり回るゴキブリの歩く音の様だ。


突如鳴り響くコール音に初めは無視を決め込んでいたが、止まることのない様子に苛立ちを隠せないシュナ。出る様に勧めるも拒み、続きをしようとするが、コール音が止む気配はなかった。

渋々応じたシュナは通話先の言葉に目の色を変え表情を強張らせた。こんな顔ミリョウも滅多に見ることはなかった。


会話の節々から概ね内容は予想ができる。

シャザンヌが出立するのだろう。

国王家に対しても生意気な態度を取るシュナがあそこまで慌てふためくのだから。

しかもそれは予定よりも早かった様だ。

急なスケジュール変更で少し苛立ちが見えた。


通話が終わるや否やシュナは溜息をつき、この続きは今夜だという言葉を投げ捨て、早々に部屋を出て行ってしまった。


ミリョウにとっては耐えたかいがあった。

シャザンヌの出発を知ることもできたし、何より体をシュナから守れた。一息つき乱れた服を正し研究室を後にした。


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