始まりの合図-3
強い魔力が弱まり消えたことを感じた。
キシュ達が倒してくれたのだと安堵した。
「ここに入ってきた奴らは全部倒したか?」
「えぇ。何とか…」
大きな溜息を吐きながら胸ポケットに入っているタバコを口に加え火をつけるけれども、口の中にたまった血が邪魔で勢いよく地面へ吐きだす。
吐き出された血がとれなのか分からないほどに辺りは真っ赤に染まっている。
小さな家は瓦礫になり美しい草花はえぐられ優しい光は土埃で霞む。
沢山の命が散った。
救えなかった。
子供、老人それに兵士も死んだ。
たった6体。
たった6体で3つの集落と一部隊が壊滅的な状態まで追いやられた。
尋常ではないスピードで1つ目の集落に入り込み迷うことなく住民を噛みちぎり食っていった。突然のことで手も足も出ないヒト達はなす術もなくただ殺された。2つ目の集落も同じだ。流石に兵士たちが駆けつけて応戦はした。
したのに壊滅だ。
実戦経験の少ない兵士たちは初めて見る化物に圧倒された。魔法も化物の勢いには勝つことができなかった。そして3つ目の集落であるこの地でようやく対戦することができた。中央部隊の精鋭達も間に合ってようやく倒せた。
「奴らの目的は私達の殲滅…」
「?何か言ったか?」
「いいえ。」
イザナの声が聞こえたと思ったが否定された。
微かに見えた皮肉な笑み。
これ以上は何も聞かないほうがいいのだろう。
「俺は外に残ってる化物の処理してくる。お前はどうする?」
「私はここに少し残るわ。」
冷静なその口調から溢れる悔しい気持ち。
1人にしてくれと語る拳。
昔から変わらない彼女の姿勢にグビドはわかったと返事してその場を去った。
グビドの足取りは重い。
体の傷もそうだが精神的にもきている。あれほどヒトの死を多く見るのは久し振りだった。溜息をつきながら外へ続く魔法陣へ向かい到着した頃には結界の周辺にキシュ達も応援に駆けつけていた。10体が暴れ4体はすでに息絶えている。
「悪いな…遅くなった」
「父さん!?大丈夫なの?!」
「あぁ。なんとかな。」
「イザナは?皆は無事なの?」
「お…おう。イザナは無事だが、中はかなりの数やられた…」
表情の険しいコロッツィオにグビドの言葉はさらにコロッツィオの心を曇らせ、力なくそうかと返事を返した。
何がなんだかわからないグビドだったが今はここにいる残りを片付けることにだけ集中するのが先なのはわかっていた。話は全てが終わってから。
襲いかかる敵達に対してこちらはかなりの人数。キシュたちに加えザルアの軍人にイコワ。数ではなんとかなるだろうが皆疲労を隠せないでいる。それもそうだ。あの大きな鳥の化け物を倒した後にこいつらの処理もやっているのだ。残りは後10体。グビドは長い爪がついたナックルを装備し戦闘の体勢をとる。
1匹がグビドめがけ走り込んでくる。
襲いかかってくる敵の動きを読み体をそらし、その勢いで繰り出される長い爪は化物の首を掻っ切る。
勢いよく吹き出す血の雨。
やはり爪での格闘はダガーと違い自分の力を余すことなく出せる。感覚もいい。
そんなグビドの姿にみんなが身を引き締めた。
物理攻撃がなかなか効かない化物に対して、攻撃魔法を得意とするイコワやチェズ達に頼りっぱなしだったサマーティとジョージは恥じた。効かないのは自分の全力をぶつけていないからだと。
手に力が入る。
重い足を手を動かす。
いや動かしたい。
自分もグビドのように!
そんな強い衝動が2人を動かす。
グビドの登場によりみんなの士気は上がり、残りの化け物もすぐに片付くことができた。
ジョージもサマーティーも全力を出し切り、火照った体を雪で冷やすように勢いよく倒れ込んだ。
荒い呼吸。
瞳に写るのは変わらない満天の星空。
「2人ともよくやった。ここ最近でいちばんの動きだ。」
嬉しいグビドからの言葉に力なく返事を返す。
「キシュもだいぶ魔法がいたについてきたな。」
「ありがとう。」
返事と共に出る重たい溜息。
キシュも相当な精神負担を負っている。
流石に連戦続きでグビドの体も余裕はなかった。
これから待ち受ける壁の高さを恐ろしく思う。




