〓異変-1.5〓
異変のミリョウ視点のお話です。
卯月達と別れ、1人揺られる列車。
熱く湿気を多く含んだこの地は懐かしい。
昔父とともによく来た。父も学者だった。遺伝子学の権威。その父がとても仲良くしていたのが今から向かうロット博士。彼は父とは違い生物学の博士だ。父とロット博士は共にこの地を愛していた。この地は生物が多様で未だに新種を発見できる土地であった。
かというミリョウも父達に連れられて良く山へ登り、たくさんのことを学んだ。
今の自分があるのはあの時間のおかげだろう。
少しワクワクした思いを胸に電車の扉を降り、博士の家へと向かう。博士の家は山を入って少し歩いたところだ。小さいが小綺麗な家。地下には研究施設がある。夢の詰まった宝箱のような家だ。だからなのか足取りはついつい早くなってしまう。
目の前に現れたのは昔と変わらない家。
けれども様子がおかしい。いや。おかしくは無い。
いつも通りだった。
けれども違和感が拭えない。
嫌な汗が肌から湧き出る。
少し震える手で扉をノックするも、なんの返事も帰っては来ない。
「博士?博士??」
ノックする音は大きくなる。
「おじさま?!!ロットおじさま!!!」
扉のノブを回すも開かない。
心臓の鼓動は大きく波打つ。
「…すみません。」
全体重をかけ体当たりをすると脆くも崩れる木の扉。広がるのは昔となんら変わりのない綺麗に片付けられ食べ屋が広がる。
博士は良く外出している。
もしかしてただの留守なのだろうか…。ふと安心してリビングを見回し鳥かごに目が止まった。
− 違和感。
− そうだ…思い出した。
博士の家は鳥達の囀りが美しかった。
それは家の前からも響いていたのだ。
− 違和感は静けさ…
目の前に映るのは空っぽの餌場にやせ細った鳥の死骸。
− 何日?!何日経過している?!
時は自動でめくられている。止められた時はどこにある?ありとあらゆる場所を探しても特定を助けるものはない。博士らしいと言えばそうだ。
ミリョウは記憶を頼りに地下のラボへと向かった。鍵を探し出し、下へと続く階段の扉を勢いよく開けた瞬間込み上げる異臭。
咄嗟に鼻を押さえた。
震える足を動かし、進んだ先に広がるのは考えたくもない光景。機能していなかった涙腺が突然スイッチを入れられ、自分で止めることができない。
「おじ…さま…」
ドロドロに溶けた体には蛆が湧き、ヒトとしての面影はほとんどなかった。
流石にその場にいられず、すぐさま上へと戻り扉を勢いよく閉じたところで身体中の力が抜けた。止まらない涙。想い出の波は容赦なくミリョウに襲いかかる。声をこらえて泣くしかできなかった。
– なんで、おじさまが…あれは…
ロット博士の無残な死体が頭によぎると同時に疑問がミリョウを襲う。
おかしいのだ。
ヒトは死ねば体液が溢れ出るが肉は残ったままのはず。それなのに博士の体は違った。溶けていた。
それに体だけではない。骨も溶けていた。
ミリョウは急いで地下室へと向かう。
扉の先には変わらぬ惨状。けれどもう泣かない。動揺しない。ミリョウの頭は冷静さを取り戻していた。ロット博士と思われる死体はたしかに肉が溶けていた。しかし骨は違った。溶けているのではない。溶けた体が骨に変わろうとしていたのだ。
理解が追いつかない。
けれども目の前に横たわる博士の骨は確実に成長しようとした痕跡があるのだ。
冷静さを取り戻さなくても分かりきっている。
博士は帝国に殺された。
原因は協力要請の拒絶。
流石のミリョウの心も折れた。博士の死は数ヶ月…ミリョウが帝国から抜け出した後だ。
自分が悠長に構えていたせいで命は奪われ続けている。そもそもこんなにも早く、そしてこんなにも暴力的にことが運ぶなどと誰が想像できたであろうか?だれも出来やしない。
「これからどうしたら…」
博士の体をできるだけ寄せ集め、袋へと詰めた。どうしても博士を土に還したかった。ミリョウは数時間かけ、ようやく博士の体を袋に詰め、庭に埋めた。疲れ果てたミリョウはポッカリと空いた青い空をボンヤリと見上げた。雲も何もない清々しい空だ。
虚無が心を襲い、何もする気にはなれなくなった時、微かに聞こえた音。その音はミリョウの心を打つ。
音は段々と大きくなって行く、目を細めて見つめる先には1つの影。
音とともに近づき、徐々に大きくなるとそれがなんなのかミリョウにはハッキリとわかった。
「帝…国」
帝国の小型飛空挺は明らかに山へ向かっている。
「伝えなきゃ…」




