高みへ-2
終了のベルがなる。
静かに瞳を開けると時計の針は次の数字へと移動していた。大きく伸びをするとイコワの声が響いた。
「キシュさんいい感じですね〜。では実戦訓練しましょうか。昨日出した宿題をマスターしているか確認させてもらいますね〜。」
あれから数日が経ち、キシュの魔力も安定しだし最近では実戦訓練が始まった。自分の魔法タイプがどちらかというと攻撃タイプであることが判明し、もっぱら攻撃魔法ばかりを特訓する日々。最低限の補助魔法は使えるもののコロッツィオには到底敵わない。
実戦訓練ではコロッツィオと魔法をぶつけ合う。毎日魔法暗記の宿題が出され、それがマスターされているか確認するのだ。また、演唱スピードなども試されるというなかなかハードな訓練であった。コロッツィオもレベルが上がり、扱える魔法もスピードも格段と上がっている。どれだけ覚えてもコロッツィオに傷を与えられない。それは仲間としては心強く、ありがたいことなのだが悔しくて仕方ないのも事実。
歯痒さが残る毎日である。
体を動かし、敵と戦う肉弾戦とは違い魔法戦の方が疲労度が大きく感じる。常に緊張の糸を張り詰めないといけない。重たい溜息をつかなければやっていけない。
「お疲れ様です〜。」
イコワの優しい言葉に軽く返事をする。
「キシュさん魔法暗記もなかなかですね〜!この調子で行けば申し分ない戦力になりますよ〜」
それがどこまで本当なのかわからなかったので、愛想笑いで返してしまう。
「疑ってらっしゃいますね〜。…まぁお世辞ですけどね〜。」
にこにこと微笑みながら、自分の言葉を真っ向から嘘だというイコワに驚いた。わかっていてもやはりショックではある。
「なんていうか〜…めんどくさいって気持ちが全面に出てますよね〜。訓練だからか知りませんけど〜もう少し本腰入れてもらわないと困ります〜」
ぐぅの声も出ない。
全てを見透かされている。
「仕方がないですね〜。それでは私がお相手しますので〜コロッツィオさんとキシュさんでペアーになってくれますか?私に傷をつけれればお二人の勝ちです〜。ちなみに〜私も傷付きたくないので〜本気で行きますよ〜」
突然振られたコロッツィオはやる気満々。少しの休憩を取り訓練が始まった。
先に動いたのはコロッツィオ。
全体に魔法防御の魔法を唱える。そのスピードは素晴らしい。そのあとにキシュが遅れて風魔法の演唱を始める。風魔法は四大元素魔法の中でも1番取り扱いやすい。
「自分が得意な魔法を唱えればいいってものでは無いんですよ〜。」
そう言って高速で結ばれる印から放たれるのは氷の魔法。空でぶつかり合い、砕ける氷は先ほどよりも勢いよくキシュとコロッツィオを守る魔法障壁へと降り注がれ、障壁の厚みを削る。
魔法のかけらだけでも障壁を削るだけの力があることにコロッツィオは圧倒される。
先手を取れば相性の良い魔法を返されてしまう。どうすれば良いのか?手も足も出ないとはこのことだ。後手に回ったところで、発動される魔法が先手の魔法に叶うわけもない。イコワほどの使い手だ。スピードが違いすぎる。
四大元素の魔法は取り扱いが本当に難しい。
どうしても頭脳戦となる。そして勝敗の大半を決めるのは魔力だ。
魔力が下回れば大抵の場合勝つことは難しい。
魔法がぶつかった際は大抵無力化されてしまう。最悪なのは補助要素をぶつけてしまった場合は相手の魔法威力を増長しかねない。
大抵の場合、ぶつかり合うことは稀なのだが
演唱スピードに差があればそうとも言えないのだ。演唱スピードが早ければ早いほど、相手に合わせ魔法を放つことができ、有利に進めることができる。
「考えるだけではどうにもなりませんよ〜」
容赦なく降り注がれる氷の刃。
魔法演唱スピードも威力もどう考えてもイコワの方が上。今倒れていないのはコロッツィオのお陰。これではどうあがいてもイコワに傷1つ与えることはできない。
「何やってんの?!キシュ!攻撃しなよ!」
「簡単に言わないでくれる?!コロッツィオだってこの不利な状況わかってるでしょ?」
「わかってるけど、キシュは魔法使えてしかも動けるじゃない?!なんでずっと突っ立ってんの?」
コロッツィオの言葉に驚く。
確かに突っ立ていた。
コロッツィオもマリーもいつも後ろで演唱に集中していて魔法を扱うということは突っ立ってないといけないものだと思っていた。
動けるもんなら動いてもいいものなのか?
「そ…それじゃ、あたしに魔法防御強めでかけるとかしてもらえる??」
「もちろんよ!」
コロッツィオが素早くかけてくれた魔法障壁を身にまとい、いつも通りの戦闘スタイルに加え魔法演唱を試してみる。けれども簡単に行くはずもない。動き回り、ダガーによる攻撃と合わせて演唱なんて難しすぎる。
今の演唱スピードでは間に合わない。
手に持つダガーを一旦置き、手の印を組むもこんな非効率な方法実際の敵には通用しないし、追いつくはずがない。
高度な魔法を唱えることを諦め、初級魔法で責めることに決めた。初級魔法であれば印も演唱も簡単だ。威力は愕然と下がるが、今みたいにこちらの魔法を0にはされないはずだ。
次の魔法発動はイコワが魔法を放ってすぐではいけない。ダガーでの攻撃を交わしながらイコワが魔法の演唱を始めているのが見えた。少し後でないといけない。絶妙なタイミングで演唱を始める。放たれた魔法はコロッツィオの防御魔法を崩壊させるが、自分にはそこまでダメージはない。すぐさまキシュの動きに合わせ次の魔法を演唱しようとイコワが動こうとするも動きが止まった。そしてそのタイミングで放たれるキシュの炎の魔法はイコワに直撃した。
「は〜い。今はこんなものですかね〜。」
直撃したにもかかわらず、洋服が少し焦げたレベルであって愕然とする。
「落ち込まないでくださ〜い。ちゃんと真剣に取り込まれたじゃないですか〜!」
満面の笑みで拍手をしてくれるイコワ。
その言葉は本当の言葉であることはすぐわかった。
「コロッツィオさんもなかなかでしたよ!相手の動きに合わせて停止魔法放ったのはよかったです〜!時空魔法も安定し出しましたね。」
嬉しそうなコロツィオ。
「キシュさんどうでした?」
「まず初めに動いてもいいんだ。ってのに驚いたわ。」
キシュの言葉に笑ってしまうイコワとコロッツィオ。
「当たり前じゃない。あたしは動くのが苦手だから動かないだけだよ。動いたところで何にもならないし。けどキシュは意味のある動きができるんだから、動かないと損だよ。」
「けど動きながらの魔法ってすごいしんどいんだけど…」
「そうですね。印を省略する代わりに長い演唱をする方がキシュさんにはあってるかもしれませんね〜」
印を省略できることにおどろいたが、コロッツィオは呆れていた。
「印の省略と演唱の省略は基本中の基本だよ?ってか最初にイコワさんから教えてもらったでしょ?」
笑うしかなかった。
省略をすると確かに楽になるといえばそうなのだが、印省略だと演唱内容が増えるし演唱省略だと印が増える。結局は慣れだし、初めから省略するのはどうかと思い、全く話を聞いていなかったのだ…。
「キシュさんは武器を持って戦うのだから、印省略をするのがオススメです〜って言ったんですけどね〜」
笑うイコワが怖くて顔を見ることができなかった。けれども、自分のスタイルがわかると闇雲に訓練していたのとは違い、俄然やる気が出る。言われるがまま訳分からずにやっていた自分に情けなさを覚えるがここで落ち込んでる暇もない。今はただただ自分のものにしなければいけない。
「もう一回この訓練したいです!!」
「もちろんいいですよ〜。」
にこやかに笑うイコワ。
開始の合図と共に始まる訓練。




