影は実態に–2
「ところで。何でここなんだ?ソーサーの地に用があるんだろ?」
行き先がサマーティーの家に疑問を抱くジョージに対して、横で支えてくれていたコロッツィオが答えをくれた。
「なんかね、調べないといけないことがあるんだって。」
「調べる?」
「調べる…というよりも、ヒトを呼んでいるのです…ボク土地感無いんで、ここくらいしか呼びつけれなくて…」
フウゼツのオドオドした返答が返ってくる。
「呼ぶって誰を?」
「すみません…。ぼ…ボクもわかってなくて…」
「?!お前どういうつもりだ?」
訳のわからないことを言い続けるフウゼツの言葉はジョージの眉間の皺を深く濃いものに変えていく。
「…まぁまぁ。こんな状態で私達の不利に転ぶような出来事には流石にならないよ。」
「それはわかるが…。」
「今は信じてもらうしか…ないです…」
そうこうしている間に、サマーティーの家が見えてきた。大きな門をくぐり、玄関までの長い道のりを小走りで向かう。扉を叩くと焦り顔のメグが出迎えてくれた。
なぜそんなにも焦っているのか誰もわからなかった。けれどもその原因は居間の扉を開ければすぐにわかった。
「あ…」
思わず漏れるミンキュの声。
そこには見慣れた仲間の姿。一瞬驚いた表情を見せたがすぐにいつもどおりだ。
「葉月??なんでここに?」
けれども葉月からはなんの返事もなかった。彼女の視線がミンキュの奥を指していることに気がつく。フウゼツを睨みつけている。
「用はなんなの?早くしてくれる?」
「久しぶりの再会じゃないか?」
「こっちは暇じゃないのよ。」
「相変わらず君は厳しいね。では早速だが異形体について話してくれるか?」
「異形体?何のこと?」
苛立つ葉月の反応を見れば、彼女が何も知らないのは明白だ。しかしミリョウの一言で事態は一変する。
「殺戮兵器・エクセリクシルのことよ。」
「ドクターミリョウ???なぜあなたが?」
「そんなのどうでもいいの!!あんた知ってるんでしょ?!仲間が犠牲になってるのよ?!あんたそれでも何でそんな平然としてられるの?!」
その言葉に葉月は困惑した。
「…どういうこと…?仲間って…」
「やっぱ…弥生…?」
小さく震えるミンキュの声にミリョウの首が縦に動く。
「弥生?!」
困惑した葉月の顔は段々と強張りだす。
震える唇。そうだ。おかしいではないか。なぜ自分はもっと探れなかった…。
「今弥生は病棟に居るはず…いや…確かに長すぎる……」
必死になって掴みかかる葉月の腕を掴むミンキュはすがるように問いかける。
「他には?!他に病棟に居る子は?!」
「霜…月…。」
絡まった糸が解ける。
あの場にいたのは間違いなく、弥生と霜月だったのだ。
絶望が襲いかかり、体の力が抜けて腕はだらりと垂れ下がる。仲間の変わり果てた姿が頭に浮かぶ。「あり得ない」その言葉が頭で繰り返される。
それは葉月も同じだ。
「…探ってはいた…。でもガードが硬くて情報が入らなかった…。まさか…皇子直属にまで手が…」
力の抜けた葉月の声にフウゼツの疑問が投げかけられる。
「君はなぜ気づけなかったんだ?」
「…部下にやらせていた…」
「なぜお前がいかない?」
「…主人に火の粉をかけられない。」
「主人?」
その場の空気が怒りで支配される。
きっと葉月もこうなることはわかっていただろう。けれどもどうしても譲れないことをミンキュだけはわかっていた。ミンキュが葉月と同じ立場ならどんなことがあっても、同じことをしていただろう。
「…。事態はかなり悪い方向へ進んでいる。君にはそれを止めてほしい。」
「それは…できない…」
まさかの返答に驚きと苛立ちがフウゼツから溢れる。場が緊張する。けれども葉月は返答を変えることはなかった。
「この状況で何を言っているのかわかっているのか?」
「先ほども言った通り。私が動けば皇子の身が危険にさらされる…それだけでは
「何を言っているのか分かっているのか?!」
フウゼツの怒鳴り声が響き沈黙する葉月。
「君はこの状況が
「やめて!!!」
ミンキュの声がフウゼツを遮る。
誰もが緊張した。それはミンキュも同じだ。怖かった。けれども言わずにはいられなかった。
「それ以上いうのはやめて…!!あたしが…あたしが代わりに行く。」
刺すような冷たいフウゼツの眼差しはミンキュをとらえる。
「卯月…」
「葉月は皇子の眼と耳だから動いてバレたら皇子が殺される…。それだけは絶対ダメだから…だから!!!」
「君が行っても、あの子の代わりは務まらない…」
「私も行くわ。」
なんの迷いもない真っ直ぐとしたミリョウの声。
「確かに卯月だけでは葉月並の働きはできないわ。けれどもあたしがいれば有利になる。研究施設の情報については知ってるし、進入してもバレないようにもできるわ。あっちには一応仲間もいるし。」
ミリョウの説得にフウゼツも了承せざるを得なかった。それしか方法がないのだろうと納得したのだ。
「…それでは貴方達には異形体の製造状況を調べてもらいます。状況によっては異形体とその製造ラインの破壊を頼みます。」
「報告はどうするの?」
「引き続き、ソーサーの通信を利用しましょう。」
少し横に逸らしたミンキュの瞳にはコロツィオとジョージの困惑する表情が見える。
「みんなはキシュさん達のところへ急いで!」
「わかった…」
煮えきらないコロツィオの返事。
「気にすることないのよ。そもそもこの問題は私達レルエナの問題なんだし。」
柔らかく落ち着いた声を聞いても心配そうなコロツィオ。ついつい声が漏れる。
「たった2人だけなんて危険すぎる…もし…捕まったらミンキュもミリョウさんも化け物に…」
「2人だからいいんだよ。大人数で行けば行くほど捕まるリスクが高くなる。これ以上は言わなくてもわかるよね?」
ミンキュの真っ直ぐな言葉。
言いたくないだろう言葉。
その言葉は正論であると同時に守りたい気持ちが滲んでいる。
悔しい気持ちのコロッツィオ。それはジョージも同じだ。
「悪いな…。」
「いいの。ジョージが来ちゃったら余計こんがらがるしね。」
「そうだな…。」
「ごめん…あたしも出来る限りのことはする…」
「あたしは直接皇子を守れない…だからシュナは皇子をよろしくね。」
「言われなくても。」
2人は顔を合わせ、拳と拳を軽くぶつけ合う。
「先ほども言ったが、何かあればこちらでも何とかしてみる…」
その表情は暗かった。
いつもならこう言うときは自信満々に言ってくれるはずなのにとミンキュは今の帝国の情勢に不安を覚えた。
「そんなにも国はあの女に?」
「あぁ…。国王もあの女の口車に乗せられてる…今の帝国を動かしているのはあの女だよ…」
もう一刻の猶予などない。
たくさんのタスクが同時進行で行われる。
「ちょっと聞いていいか?」
間髪入れずジョージの声が響く。
「レルエナにシャリティアの男が現れたりしていないか?」
「シャリティア??」
いきなりの質問に困惑する葉月。
それもそうだろう。シャリティアなどレルエナには腐るほどいる。かと言う葉月もシャリティアだ。
「最近なんだ!!本当に…」
必死な問いかけにみんなが困惑する。
けれどもジョージがここまでなる理由は大体想像がつく。
「ジョージ。まさか…」
「ビッツが見たこともない化け物に連れて行かれた…この傷もそれが原因だ…」
「それがどうしたんだ?」
フウゼツの呆れた声。
何も知らないのだから仕方がなかった。コロッツィオが説明する。初めは軽く聞いていたフウゼツが「精神深部を傷つけられた」の言葉を聞いてから険しくなった。
「その子が連れて行かれたのはいつになる?」
「昨日の朝だ…」
「なんてことだ…あぁ…」
シャザンヌに連れて行かれたことはほぼ確定だった。けれどもそれが何に繋がるかはジョージも考えてはいなかった。そこにきてフウゼツの焦り。ジョージの心は平然を失い、フウゼツの肩を掴む。
「何かわかるのか?!!ビッツはどうなるんだ!!!」
「エンテの依代にされる…」
「依…代?」
「体を持たない者が体を持つには借りるしかないだろ?体を。」
「!!どう言うことだ?!ビッツはどうなる?!」
「…それはエンテによる…」
「?どう言うことだ?」
「共存することもできれば、完全に洗脳し服従させることもできる…エンテがどうでるかはわからない…それよりもエンテがすぐに行動できる事が問題だ…」
急に移された視線に驚く皐月。
「シャリティアの青年はすぐに現れるだろう…その時は私に連絡をくれるか?」
「それくらいなら…。」
「私達は次の行動を急がねばならない。すぐにトゥルナのもとへ向かう。」
「トゥルナの居場所って…」
「さっきからも言ってる通り、ソーサーの地だ。」
事態は慌ただしくなる。
急ぎ、ミンキュとミリョウは葉月と共にレルエナへ、フウゼツ、ジョージ、コロッツィオはシャザンヌよりも先にマクリア・メソンへ行かなくてはいけなくなった。
去り際にミンキュから預かった言葉は意外なものであった。
「キシュさんのためにも必ず戻ってくるから!!」
彼女には帰る場所がないのだから戻ってくるのは当然だ。けれどもキシュのために戻ると言った。その気持ちはジョージとコロッツィオはわかる気がする。いつのまにか大切な存在になっていたのだ。不思議とキシュの魅力に捕まっている。
「では我々も向かうぞ。」
「まて、どうやて行くんだ?ソーサーの国の行き方なんて俺ら知らないぞ。」
「それはソーサーに頼むさ。」
フウゼツがその言葉と共に突如現れる3人の男。その容姿からしてすぐにソーサーの民だと分かった。
「向かいに参りました。」
「では行くぞ。」
言われるがまま、コロッツィオとジョージはソーサーの手を握ると、地面に魔法陣が現れ一瞬にして景色が一変した。空間の歪みに耐えられず2人は瞳を瞑り、次に目を開けた時は見慣れない景色が広がっていた。
そう。ソーサーの地へと辿り着いたのだ。




