〓花と風-5〓
半年の月日がたった今でもグビドの様子は変わらない。いや、さらに悪くなっている。
家の中は慌ただしい。明日この家にグビドの妻がやってくるのだ。会ったことも無い知らない女。なぜか知らないところでトントン拍子に決まっていた。
女王からの命令で決まった婚儀は断れるはずもなく、兵舎を追い出され用意された家を渡され、人が住めるように準備をして。とドタバタ続きでグビドの心労は酷いものだった。
− いずれこういうことは起きるとわかっていたが、あまりにも急すぎるだろ…!!
手のひらの思い出を大切に握る。
「明日が過ぎれば…。」
次の日の朝、グビドは軍服に滅多につけることの無いマントをつけ宮殿へと向かった。
気が滅入る。
暖かい空気。程よく散らばる雲。満開に咲き乱れる花。どれもこれも気に食わない。自分の運命を恨む。馬車のカーテンを勢いよく閉じ目をつむった。
色々なことが頭をよぎる。イリナは何をしているんだろう?あの時の記憶が嫌でも繰り返される。
− 会いたい。
そうこうしている内に馬車はとまり、扉が開かれた。迎えるのは石造りの宮殿。国の催事でよく利用されるこの宮殿は神殿のようだが、何も祀ってはいない。多種族が暮らすこの国には神はいない。女王の方針のもと建設された。グビドはこの宮殿を誇りに思っていたが、今は永遠に逃れることの出来ない牢獄への禍々しい門にしか見えない。それに加えて、婚儀ということなのか、花の匂いに満たされ過ぎていて鼻がもげそうだ。
神殿ではゼティアとジョシュアがニヤニヤと迎えてくれた。
「こんなめでたい時になんて顔だ。」
「…うるさい。」
「花嫁は時期到着する。その間待合室でまっていろよ。」
「…わかった。」
不服そうに背を丸め、トボトボと歩くグビドの背を見つめ笑うゼティアとジョシュア。
そのどれもこれもがグビドを逆撫でする。
「グビド!」
ジェナシスがグビドを呼び止めた
「…なんだ?」
「僕に感謝しろよ!」
グビドはわけもわからず適当に返事を返した。
− 感謝?する訳が無い。
待合室に近づくに連れ、もげそうな香りの中からわずかに懐かしい匂いがした。すぐにわかる。
信じられない気持ちでいっぱいになった。歩調は早くなる。くそっ。マントが邪魔だ。
間違いない!そんな!
急いでドアをあける。
グビドは溢れる気持ちが今にもこぼれそうで、急いで口を防いだ。
「これは夢…なのか?」
グビドの目の前には、美しい婚礼衣装に身を包んだイリナが写っていた。
「夢じゃありませんよ。」
にこりと笑う。あぁ。その笑顔をどれだけ見たかったか。すぐにイリナを抱き寄せる。熱い気持ちが瞳から溢れる。
「会いたかった…。」
「私もです…。この日が待ち遠しかった。」
「俺の嫁…になるんだよな?」
「え?グビドも了承したと聞いていましたが…。」
くっそ…そういうことか。ジョシュアのやつ…。
まんまと嵌められた。けれど今はそれどころじゃない。
あぁ。感謝する!多いに感謝する!!
「ここにいたの…」
イザナの声で目が覚めた。
「キシュは順調に回復しているわ。」
「そうか…。」
空を闇が。大地には光が支配する。
ここは昔と何も変わらない。あの時のまんまだ。
「ここにまたこれるとは思っていなかった。」
タバコに火をつけ煙を吐く。
「そうね。あの頃が懐かしいわ。」
幾度と年を重ねても決して消えることは無い。
イリナ…
タバコの煙が天へと上り消えるのをただただ見送る。




