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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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107/164

恵-2


− なんだろう…


ミンキュの中で疑念が湧き始める。

頭の中のこんがらがった糸を1つに戻せそうで戻せない。


− 知ってる?知ってるよね…?あれ?


思い出しそうになればなるほど体が動かなくなる。


「卯月!!今はダメよ!!」


考えに耽るミンキュをミリョウの一喝が目を覚めさせる。


− ねぇ?なんでそんなに苦しい顔をしてるの?ドクター


けれども答えを導こうとすればするほど死が近づく。

思考を止めるスイッチを必死に探す。


ミリョウとミンキュの攻撃によって物理攻撃の要となる右腕を潰せたが、全く事態は好転しない。問題なのは魔法攻撃なのだ。

威力が強く、四大元素魔法全てに長けている。

唯一の救いは回復魔法が使えなさそうなところ…


魔法に対して魔法はあまり意味がない。

魔法を使うものは耐性が強い。

きっとこの化け物もそうだ。


チェズの魔力は期待できない…コロッツィオは的確にミンキュとフウゼツに攻撃力を上げる補助魔法を唱える。けれどもそれだけでは勝てない。相手のスピードが早すぎる。補助魔法と回復魔法の往復を繰り返しは魔力の回復する隙すら与えてくれない。


- こんな時、時空魔法が使えたら…


コロッツィオを悔しい気持ちが襲う。

時空魔法発動に関する魔術書は皆無。いつどのように使えるようになるのかわからないのだ。マリーは突然できていた。


考えたくもないことがコロッツィオの頭を占領してゆく。


− 自分のできること…


防御魔法

攻撃力増加魔法

回復魔法


それでも繰り出される化け物の魔法。

高度魔法なはずなのに演唱スピードが狂ったほどに早い。



– やってる。どれもこれもやってる

− どれもこれもやれるだけやってるけど…


ロッドを握る手に力が入り汗が滲み始め、今までの努力もいっしょに溢れ出るようだった。それがどれほどに恐ろしいことか分かっている。スルスルと掴もうとしても掴めない。焦る気持ちだけが募る。


「…りなさいよ…」


小さな声で何度も何度もつぶやく。

けれど現実は何も変わらない。


限界はすぐに訪れる。

膨れ上がった風船が弾けるのに時間はそうかからない。


「止まりなさいって言ってんでしょっ!!!!!!」


振り下ろされるロッドは虚しく土を飛び散らす。ここまで苛立ち、我を見失うことはあっただろうか?恥ずかしい気持ちもあった。

けれどもどうしようもなかったのだ。

長い間抱えた苦しみも重なり、一人で抑えるのはコロッツィオには難しかった。

ぽたぽたと落ちる涙を見つめる。

役に立たない駒などいなくなればいい。

そう思っていた時、フウゼツの声で我に帰った。


急いで前を向く。

そこには想像していたものと異なる光景が広がっていたのだ。



−止まっている。



動きの止まった化け物がコロッツィオの目に飛び込んできた。


自分に絡みついていた何かが一気に緩む。

そう思った瞬間

化け物の手がピクリと動いた。

そしてあっという間に束縛が取れた。


力が抜けコロッツィオの腰が地につきそうになるのをフウゼツが支える。


「君は時空魔法を使えるのか?」


その喋り方はチェズだ。


「…わからない。けど出来たと思う…」


− …出来ている。静止魔法だ…。けれどもまだ安定していない。それにコロッツィオの魔力はだいぶと減っている…


「私の魔力を渡します!!」

「え?」


フウゼツの力強い手がコロッツィオを再び大地に立ちあがらせた。ロッドを支える手に重なる大きな手のひら。

不思議な感覚に包まれる。

嫌な気持ちはなかった。

暖かい空気が自分を取り巻くようだった。


「いいですか?強く念じ、集中してください。」


そう言って、離れて行く指先


−…止める…


睨みつける先の化け物はピタリと動かない。

それと同時に勢いよく力が吸い上げられるのがわかる。けれども弱音は吐いてはいられない。やるしかないのだ。


与えられた時間を無駄にしないよう、ミリョウは必死に魔道を探す。


魔道は魔力の通り道。

ここに傷を与えれば、魔力の弱体化を測ることができるのだ。けれどもこの魔道は人種によって異なる。

自分の知る魔道が当てはまるとは思えたが、それがこの変形したヒトのどこに当たるのかさっぱりわからなかった。魔法を得意とする全種族そして、代表的な鳥類。自分の知る限りの魔道という魔道を狙いナイフを投げ込む。


ミンキュを呼ぶ掛け声。二人の息はいつのまにかぴったり。

鉛のように重い腕、ねっとりと絡まる脚。

何もかもが嫌になりそうな気持ちからミンキュは逃げ去りたかった。

けれども本能は許さない。

できる限りの力を振り絞る。


どれだけのナイフを打ち込んだかわからないくらいの時だ。


化け物が突如悲鳴をあげた。


耳に響く低音。


心が緩む。

終わった。

安堵が包んだ。


誰もがそう思った。


けれども心の安らぎは一瞬にして消え去る。


そう。

突然。


なにが起こったのか理解できなかった。

気がつけば全員が耳を塞いでいる。


低音に美しい高音が重なる。

化け物の方に目をやると左肩に金色にまばゆく光る何かが座り込んでいた。


長く美しい丸みのある金の耳。

身長はヒトと同じくらい、それと同じくらいの長さはあるだろう金の美しい髪。

白は見えない。見えるのは美しい翠の宝石のようなきらめきを放つ瞳。


静かにそれは立ち上がり、でかい化け物の頬に両の手を添え、くちづけをする。


「きやぁ!!」


コロッツィオが杖を離した。

いや。

弾かれたのだ。手が震えている。

恐怖に心を掴まれそうになった。


「…これは…」


チェズの静かな声は怒りに満ちている。

ミリョウの顔は悔しさに満たされてる。


再び響く高音は耳を塞がなければ潰れてしまうほど煩かった。化け物とそれは紫の光に包まれたかと思った瞬間その場から消えていた。

緊張の糸が切れ、荒い息が場を包む。

誰もなにも喋らなかった。


怖かった。


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