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wonder hole -last player-  作者: にゃこ
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106/164

恵-1


「…来たの。」


静かに、目の前に映る光景を予期していたかのようにシャザンヌは言葉を漏らす。


「エンテを返すんだ。」

「今あなたに構ってる暇はないの。」


冷たい視線がぶつかり合う。

沈黙を破るのはシャザンヌの背後から近づく何か。溢れ出る魔力に身震いする。

魔力の弱いミンキュやミリョウですらわかる。


いや。


ミンキュとミリョウが感じたのは魔力ではない。


狂気


食われる気しかしない。

音が近づく、死が近づく。


暗闇から出てきたそれはゆうに、2mはある。

左手は漆黒の羽で覆われ、もう手とは呼べない。固い鱗に包まれた足に鋭い爪。


けれどもどうだ?


あの強靭な体は?右の手は?

どうみても鳥ではない。ヒトと獣の中間…

あの顔立ちは?わからない…


虚ろな焦点の定まらない視点。

よだれを垂れ、頬を裂く大きな口から漏れる荒い息。髪はなく、まるでいばらの冠を被ったような傷跡。

血の気のない肌には覆いきれない小さな黒い羽。そして左の目を覆うクチバシと化したまぶた。



その姿は禍々しくこの世に存在してはいけない物だと直ぐに認識できる。コロッツィオとミンキュは口を押さえた。目を背けたかった。けれどもそれは叶わない。そむければ殺される。


怖い。


「…話が違うじゃない…」


ミリョウの声は漏れ、震える手を抑える。

胸を打つ鼓動はどんどんと早まる。


頭の中でどれだけの計算をしてもあり得なかった。あの計画がこんな短期間でここまで完成度をあげるなんて信じることができなかった。


冷めた視線を放ち鼻で笑うシャザンヌ。


「さよなら。」


その言葉と同時に突風が巻き起こる。

全員が顔を庇が、吹き荒れる風はカマイタチとなり、肌を切り裂く。

それでも精一杯開かない瞳を開ける。

そしてその先に移る光景。

それは美しい青い巨大な鳥のようなものだった。冷たい空気を吐き、悲しい声で鳴くそれはシャザンヌを背に乗せるとすぐに空へと羽ばたく。


あたりには青く美しい羽が残っているだけ。


−なんだろう…


ミンキュは何故自分が羽を拾い上げたのか理解できなかった。けれども捨てたくなかった。

そっとその羽を鞄へ潜らせた。


「ごぉ…ぉ…ろ…ずぅ。」


こもった声。

それはスローモーションで流れる音に近かった。奇妙な旋律。


チェズはフウゼツへと体を譲った。


「お力借ります。」

− 頼んだよ。


それは深く息を吸い込み、大きく天に音と共に吐き出す。耳が潰れそうになる。

そんな中でもコロッツィオは自分の役割を忘れない。必死に唱える。みんなを守る魔法。


「みんな!!来るよ!!」


コロッツィオの掛け声で、戦闘体制へと入る。


かけられた魔法があと少し遅かったらどうなっていた?

とろけ落ちる魔法のベール。

そんなに脆い魔法でないことはみんな理解している。

驚いている暇などない。


魔法を唱えろ

動け拳

回り込め

後ろを取れ


ほんの一瞬

考えてる暇はない。

けれども思うがままに動けばやられる


頭がフル回転される。

各々が役割を理解し、次の行動をすぐさまにとる。


チェズにも匹敵するほどの強い魔力。

左の翼を振り切り、放たれる無数の羽は青い炎を纏い降り注がれる。

その隙にも勢いよくこちらへ化け物は迫り、振りかざされる右の拳。


あんなにも強い魔力を持つのだからまさか物理攻撃を仕掛けてくるとは予想できなかった。

物理防御の魔法を必死に唱えるコロッツィオ。どう考えても間に合わない。


「っらぁぁ!!!!」


掛け声とともに化け物の頭を殴りつけるミンキュの拳。その勢いに化け物は体がよろけ、頭を振るい少し間ができた。

それも束の間、化け物は次の攻撃を仕掛けようとする。次はミンキュめがけ、脚を振り上げる。鋭い爪は空を切り裂きカマイタチが発生する。


間はとった。


それでも無数の傷が体に現れる。

しかもなかなかに深い。血が流れ落ちる。


フウゼツが後ろから片手の鎖鎌を振り下ろす。

皮膚が固い。鎌は食い込むものの、それ以上奥へはいかない。鎌を突き刺したままその場を離れ、鎌の先につながった鎖を思い切りひっぱり手に戻す。

少しはダメージを与えられた。


投げつけられる無数の小さなナイフは化け物の右肩の辺りに突き刺さる。

けれども痛くも痒くもなさそうにしている。


「卯月!赤の針を押し込みなさい!!!」


突然のミリョウからの指示に驚くミンキュは訳もわからずに従う。

ミリョウの言う赤の針…きっとあのでかいナイフのようなもの。それ目掛け手のひらを押し付ける、固い皮膚なかなか奥へといかない。

力の限り押し込む。


突如あたりを叫び声が覆う。


右にあるゴミを払いのけようと翼をばたつかせる。急いでその場を離れるミンキュ。

ぶらぶらと動かない右腕


「な…何?」

「右腕は潰したわ。ありがとう卯月。」


けれども安心はできない。

苛立ちを隠せないでいる魔物は息を荒くしこちらを睨みつけたとおもったら、勢いよく息を吸い込む。反り返る体を勢いよく元の位置へ。

吐き出される炎の魔法はあたりを炎の世界へと変える。


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