それぞれの場所へ-2
部屋の奥に立っていた長身の男性。
黒く艶のある黒い短い髪。眠そうに垂れているのに力強いオレンジの瞳。セーヘンドと同様黒づくめのポリアン軍服に身を包んでいる。その低い声は男らしくそして優しい温もりを感じられた。
「誤解を招くような言い方はやめろ。勘違いされるであろう。」
「けれどもあながち間違いではないでしょ??」
ゆっくりと男の元に歩くセーヘンドの顔はニヤリと笑っておちょくっている様子。そして冗談を気にもせず真面目に受け答えする男性。そのやりとりは少し長く続き、何が何だかわからない状態にポカーンと眺めることしかできないマリーたち。
「セーヘンド。若をおちょくるな。」
そこに又しても新たな声。
少し青みがかった髪を七三にきっちりわけ、若と呼ばれる男性よりも長身で年も一回り上に見える男性が2人の間に現れる。
「若もいちいちセーヘンドの相手をなさらなくて良いのですよ。」
「…わかっている…サルヴィ。」
「本当に、真面目なんですから…」
改めて3人はマリーに視線を向ける。
若と呼ばれる男性がマリーに近づく。盾になろうとするジョージとミンキュ。
「ありがとぅ…でも…大丈夫だよ〜」
2人に感謝を伝えると同時に謝るマリーの表情は真剣そのものであった。口調がいつも通りになっている。
冷静になっている証拠だ。
2人はマリーに道を譲った。
マリーと男の距離は縮まり、手と手を伸ばせば触れ合えるまでの距離となっている。
そして突然男はマリーの前で膝まつく。
マリー達は突然の出来事に驚くが男の発言はさらにみんなを驚かせるものであった。
「迎えに参りました。」
「???!!」
あまりの事態に全員言葉が出ない。
ポカーンとしている。
「紹介が遅れました。私はクュオ・ドゥ・ロウファン」
「ロウファン??まさか…」
マリー以外の全員が驚く。その名前に聞き覚えがあったからだ。ロウファンはポリアン帝国で唯一無二の名前。
「そのまさかです。このお方はポリアン帝国の皇子であられる。」
「ポリアンの皇子さまぁ??…が…なんで…ここに〜??」
真っ当な疑問に答えたのはクュオ。
「ポリアンで起こっている反乱…それを終わらせる為に貴方を迎えにきたのです。」
「へぇぇ???」
質問をする度にわけのわからない返答が返ってきて、みんな突っ込むのに必死だった。
「ポリアンは確かに今反乱が起きて危機的状況にあるのは知っているが、それとマリーがどう関係するんだ?!」
流石に冷静なジョージも事態を飲み込めず声を荒げてしまう。クュオはただ淡々とその疑問に答える。
「このお方…マリー様が正当な血筋の持ち主であるからです。」
「え?」
場が静まり返った。
マリーの頭は情報処理に追われる。
簡単な言葉なはずなのに理解ができないでいる。
それはみんなも一緒。
小さな手をとり、真っ直ぐなクュオの眼差しは真っ直ぐとマリーを見つめる。
「貴女様はポリアン王家の正統なる継承者です。」
少しの沈黙の後に、みんなの驚きの声が響く。
流石の冷静なジョージも声を出すほどだ。
当の本人は驚いてアワアワしている。
ミンキュにはようやくポリアンがマリーの暗殺を無月に依頼してきた意味がわかった。
あわてふためくマリーを他所に1人警戒を強めた。
「マリーさん生け捕りにするの?!あんた達ポリアンがマリーさんの命を狙ってるのは知ってるんだから!!」
ミンキュの言葉はマリーを冷静にさせるには充分だった。慌てて、3人を睨みつける。
サルヴィは困った顔で答えてくれた。
「…まさか…その逆ですよ。」
「えぇ?」
「私たちはあなたを生かすために迎えにきました。」
「どう言うことぉ…?」
「なぜポリアンに反乱が起こっていると思う?」
唐突に出てきたクュオの言葉に何も言葉が出なかった。少しの間が空いてクュオの口が開く。
「奴隷制度の撤廃だ。ポリアンのソリティアに対する奴隷制度は前国王によって撤廃されようとしていたが、王の死によって実現に至らなかった…」
クュオは話すのを止めた。
マリーの頭は真っ白になる。
王の死
力が抜ける、声に力が入らない。
けれども聞かずにはいられなかった。
「…死んでるの?…私のお父さん…」
精一杯の質問を口にしただけで、その場に崩れ落ちるマリー。大声を上げて泣くでもなく、ただただ突然突き立てられた事実を受け止められないでいた。けれども悲しみは関係なくマリーを襲う。
幼い頃から探し求めていた物はもうこの世には存在しない。事実を受け止めた瞬間から、涙は止めようとしても溢れてくる。両方の手で拭っても拭っても拭いきれない。
マリーの前が突然暗くなった。
クュオの顔が同じ位置にある。
「残念ながら…18年前に亡くなられています。」
「18…年前?」
「えぇ…あなたが御生れになった年に、国王の家族は皆亡くなっています。もちろん貴方も」
「え?」
「現国王…父上の発表では、前国王とその家族は死亡したとありました。」
「けれど貴方は生きている」
その言葉が何を意味するのかその場にいた全員がうっすらと理解できた。
「…父上は前国王のご家族を暗殺された。けれどもその際、どうやら貴方を取り逃がしたようです。」
「ポリアンの現国王と前国王は兄弟同士のはずじゃ…」
「よくあることでしょ?殺してまで権力を取りたがることくらい。それに元からあの方々は意見があってなかったし。」
権力にあまり関心のないドラグーンでは考えられない事態であった。ジョージは呆れてセーヘンドの言葉を聞いた。
「まぁ…レルエナでもそういう類のことはよく起きてるよ。…でポリアンはマリーさんの暗殺をレルエナに依頼したってこと?…けどなんで今更?」
「父上は18年間ずっと探していた。けれども見つけることができなかったのです。貴方はソリティア達に隠し守られていた。」
マリーの脳裏にはキシュとサマーティーが村にやってきた時のことが思い出されていた。
ーあの時…?
「貴方を見つけ、貴方の力を見たときから私達は貴方を守ってきました。」
「?」
「ポリアンからの刺客は全て私達が排除してたんですよ。」
全員が衝撃を受けた。
今までの旅の間、まさか自分たちが守られているとは思ってもいなかった。
「全然気がつかなかったぁ…」
「本当ですよ。ほら。」
セーヘンドは自信満々にロッドを一振りした。
すると現れた複数人の頭巾を被った兵士達。その兵士の服にミンキュは見覚えがある。葉月の部隊だ。
けれども違和感が拭えない。
どう考えてもおかしい。
常人の二倍の大きさまでに膨れ上がった手は黒い毛に覆われ、もはや皮膚の色は見えなかった。
「ちょっといい?」
声を出したのはミリョウだった。
ミリョウは怖気付くことなく、まっすぐに1人の兵士に近づき顔全体を覆う頭巾を勢いよく剥いだ。
ミリョウの瞳孔は大きく開かれる。
反応のないミリョウに嫌な予感がしてみんなが駆け寄る。そして兵士を見た途端。口を塞ぎ、自分の眼に映る事実を受け止めることに必死になった。
目の前のこれはヒトなのか??
顔全体を覆う黒い毛。頭の周りだけその毛は刈り取られ、痛々しい皮膚を縫った後。耳はもはや獣のものだ。ミンキュの声が震える。
「葉月の部隊…?じゃない。」
「あなた達…こいつらとやりあったの?」
「あぁ。かなり手強い奴らだった。」
「とうとうやったのか…あの外道…」
誰にも聞こえない小さな声とは裏腹にミリョウの顔は怒りに包まれていた。兵士に頭巾をかぶせる。
「今後貴方を襲う敵は私達でも対処が難しい。それに貴方は今ポリアンに向かってくださっている。私たちは貴方をポリアンへ迎え入れたいと思っています。」
「たしかに追っ手についてはそうかもしれないな。けどそれとポリアンに連れて行くことは筋が通らない。お前達何を企んでる?」
ジョージの鋭い問いに静かに答えるクュオ。
「さっきも言いましたが反乱を止めるためです。」
すかさずマリーが答える。
「あたしソリティアを奴隷にしてる国なんて絶対やだ!!それを止めようとしてる反乱を止める道具?!そんなの絶対やだよ!!」
「勘違いなさるな。」
「勘違い…?だって貴方達…」
「えぇ。私は現国王の息子です。息子だからといって父のいいなりというわけではないのです。」
「それって…」
「私は父を倒して反乱を止めるつもりです。」




