第五十九話 キバの悪魔
「楽しんでいただいてますかな? お客人」
その声に振り返ると巨大なキノコが僕の真後ろに立っていた。
(……いつの間に!?)
真後ろに立たれたにも関わらず、巨大キノコの気配をまったく感じとることができなかったのだ。
セイバスさんから立派な執事になれるよう修行をつけてもらっている僕は、ある程度、周りの気配を察知することができる。気配察知は、お嬢様やお客様が扉の前に立ったとき、すみやかに扉を開き、お迎えすることができるよう執事として必要な能力なのだ。
完璧に察知できるわけではないが、遮蔽物のない場所であれば、さすがに気がつく自信があった。思わず僕は身を固くする。
その僕の警戒心を察したのだろう。
巨大キノコは、頭を下げてから僕の隣に座った。
「驚かせてしまったようで申し訳ない」
「……いえ、とんでもありません」
あっさりと頭を下げた巨大キノコに僕は好感を持った。
どことなく歴戦の戦士を感じさせる風格を持つ巨大キノコだが、その身体をみて納得する。身体のあちこちに古傷があり、赤黒い傘の一部分は欠けていたのだ。顔を中心として、全身にシワが刻まれていることから、かなりの高齢に見える。
巨大キノコが現れてから、広場にいたキノコらも姿勢を正し、僕たちに注目していた。僕の目の前に立っているキノコ(小)だけが、巨大キノコを見上げながら、コンペイトウでいっぱいになった口を、もにゅもにゅと動かしている。
その巨大キノコは真剣な顔つきをしながら、僕に向かってもう一度頭を下げる。
「お客人。このたびは我が孫娘シュリーを助けてくださったこと誠に感謝いたします」
目の前の巨大キノコが頭を下げると同時に、広場に集まっていたキノコたちも、「きゅきゅきゅー」と一斉に鳴き、頭を下げる。
(助けた? この僕が?)
「ちょっ、ちょっと待って下さい」
僕はキノコ(小)との出会いを説明した。チョトツが木をなぎ倒したのは、僕が驚かせてしまったからで、間接的に僕にも責任がある。助けたとは到底言えないのだ。
「しかし、放置されておったら、ほかの魔物に襲われ、孫娘は帰って来れなかったかもしれませぬ。それに本人が助けられたと言っております」
その言葉に、シュリーと呼ばれたキノコ(小)を見る。キノコ(小)改め、シュリーは僕に向かって頭を下げ、つぶやくようにこう言った。
「……感謝」
「……話せたの?」
「……苦手」
シュリーは、こくこくとお辞儀をするようにうなずきながら答えると、そのまま僕のあぐらの上に座り直して、コンペイトウを食べ始めるのだった。
巨大キノコが言うには、孫娘はシュリーカー語だと普通に話すが、標準語は苦手なのだそうだ。「きゅー、きゅー」言ってるのは鳴き声ではなく、シュリーカー語という言葉らしい。
このキノコらは、シュリーカーという種族のようだ。
巨大なキノコは、広場に集まったシュリーカーたちに向かって大きな声で宣言する。
「さあ、皆の者。村の者を救ってくれた恩人への感謝の宴の続きじゃ! 思う存分、食べようぞ」
「「きゅきゅきゅー!!」」
広場に集まっていたシュリーカー族の住人が一斉に声を上げた。恐らくこの巨大キノコは指導者的な地位にあるシュリーカーなのだろう。
広場に集まったシュリーカーらが、先ほどから飲み食いしていたのは、予想通り宴会だった。それも感謝の宴だったようだ。だったら最初に言って欲しいと思いつつ、丸焼きにされないことがわかり安堵する。
宴が再開されてから、僕の前にはキノコ料理がいくつも並べられた。キノコの炒めものにキノコの煮物など、種類は様々だ。どの料理も美味しそうな香りがするものの、さすがに手をつけにくい。最近、毒キノコ入りのスープで死にかけたのだ。もちろん、キノコのスープもご丁寧に並べられている。
お嬢様のため、毒のない食材を探すのもこういったときのためだ。お嬢様が外食や食事に招かれたときに、毒料理が出てこないようにするにはどうしたらいいか。
それは毒のある食材をなくせばいい。もしくは、それに変わる食材を広めればいいのだ。もちろんそのためには、料理だけでなく、食に対する魔族全体の意識を変える必要がある。気の遠くなるような話だが、お嬢様のためだ。
僕が置かれている状態がわかっていただけただろうか。
パッと見、使ってあるキノコは前世でも馴染み深いキノコのようだが、それ以外にどんな材料が使われているのかわからない。隠し味に、『刺激的な食材』が使われている可能性もある。
キノコは派手なキノコだけが毒キノコではない。「あたい、食べられるよ」と言わんばかりの地味なキノコのくせに、猛毒持ちということもある。
ましてやここは魔王国、魔族の国である。シュリーカーたちが、毒キノコを平気な顔して食べていても不思議ではないのだ。だからといって、「これ、毒入りですか?」などと聞けるはずもない。
何も食べないというわけにもいかず、今は場を誤魔化すために、桃、ぶどう、パイナップル、いちじくなどのフルーツを中心に食べているが、それも時間の問題だろう。
「お客人。ぜひこのキノコ料理を……」
「そうだ! まだ自己紹介をしていませんでしたね。しましょう! 自己紹介」
巨大シュリーカーの手が、キノコ料理の皿にかかった瞬間、自己紹介することを提案した。執事たるもの自己紹介を忘れてはならない。特にキノコ料理が目の前に並んだときは最優先事項である。
「申し遅れました。僕はアルクといいます」
突然の自己紹介にも関わらず、巨大シュリーカーは落ち着いた様子で、ジュロウと名乗った。ここは彼が治めるシュリーカー族の村だ。ジュロウさんは、この村の村長でもあり、この森にいるシュリーカー族の族長でもあった。シュリーカー族の村は森のあちこちに点在しており、普段は森の奥でひっそりと暮らしている。だが、信用できる相手とは少なからず交易を行っているらしい。
このシュリーカー族だが、どちらかといえば知性に目覚めた魔物に近い種族だという。魔族ほど魔力を持っておらず、必要とする魔力も少ない。普通の魔族のように食事から魔力を吸収することもないそうだ。
セイバスさんからもらった直筆の図鑑には、シュリーカー族は載っていなかった。
更にシュリーカー族は、知性に目覚めた魔物というだけあって知能が高く、「きゅー、きゅー」と鳴き声にしか聞こえないシュリーカー語という独自言語を持っている。
それに手先も器用だという。農業を得意としており、目の前のキノコは我々が丹精込めて作ったものだ、とジュロウさんは自慢気に話していた。
ジュロウさんにファンガスとは違うのかと聞くと、彼はシワだらけの眉間(的な部分)に、更に深いシワを寄せた。
「あれは本能だけで動く知性のないただのカビじゃ」
ジュロウさんは、ファンガスと同類に思われることを嫌がっていた。このことからも種族としての誇りを持っていることがわかる。ファンガスは、シュリーカー族と違い、独自言語を持つどころか話すことすらできない。ただ獣のようにうめき、叫ぶだけだそうだ。
今年二歳になったばかりのシュリーは、族長であるジュロウの孫娘で、今はジュロウとシュリーの母の三人で暮らしている。彼女の父親は、族長になるための旅に出ており、村にはいなかった。母はシュリーカー族の巫女だそうだが、怪我をして寝込んでいるという。
二歳になったばかりのシュリーが、なぜ一人で湖にいたのか不思議に思い、本人に理由を聞いてみる。すると、お母さんの怪我を治すため使えそうな薬草をこっそり探しに行った、とジュロウさんが答えた。
続けて、村の周りには薬草はないのか尋ねると、湖には村の周りにはない怪我に効く薬草がたくさんある、とジュロウさんが答えた。
族長のジュロウさんは孫娘に甘いらしく、「これから湖に行くときは爺ちゃんと一緒に行こう」とお説教にならないお説教をしていた。
確かにこの村は森深い場所にあるせいか、薬草があるようには思えない。僕の頭に乗っている花輪は、その薬草の花で作られたものらしい。
「こんな大切なものを僕がもらってもよかったのかい」
「構わん、構わん。この薬草の花は薬にはならんからの」
と、ジュロウさんが答えた。
「……なんでさっきからジュロウさんが答えているんですか」
「うちの可愛い孫娘は、標準語を話すのが苦手だしの」
「そうやってジュロウさんが口を出すから、いつまでも苦手なのでは?」
「ぐぅ。まさか、こんな子供に正論で返されるとは」
そんな話をしていると僕の足の上から、「きゅっきゅ、きゅっきゅ」と笑い声が聞こえてくる。目を落とすと、シュリーが僕達のやり取りを聞いて笑っていた。族長が困った顔をしているのが面白かったらしい。
「孫娘がそんなになつくとはのぅ」
感心した様子のジュロウさんだが、突然、目つきを鋭くして立ち上がる。その目は広場に慌てて駆け込んできたシュリーカー族(中)を見ていた。広場にいたシュリーカーらも静まり返っている。
「きゅきゅー! きゅうきゅっきゅきゅきゅー」
「なんだとっ」
広場に駆け込んできたシュリーカー族(中)が、叫ぶように声を上げた。広場にいた比較的小さいシュリーカー族の住民らは、その声に慌てた様子で散っていく。その中でも、体格のいいシュリーカーらはジュロウさんの前に整列し始めた。
「おのれ、キバの悪魔め!」
(キバの悪魔?)
「ジュロウさん。キバの悪魔って?」
「アルク殿、おもてなしの最中、申し訳ないがこの村から一刻も早く逃げてくだされ。それと誠に勝手ながら、今一度、我が孫娘を守ってくださると助かりまする」
「え? ちょっと待って下さい。どういうことですか」
ジュロウさんは僕の問いに答えず、そのまま広場から村の外へと慌てたように走っていた。その後を整列していたシュリーカー(大)やシュリーカー(中)たちが付き従う。彼らは村の戦士といったところだろう。
「ねぇ、シュリーちゃん。ジュロウさんたち、どうしたのかな?」
少し震えているシュリーの頭を撫でながら尋ねてみたが反応はない。広場を見回してみると、数人のシュリーカーが、他のシュリーカーたちを村の小高い場所にあった大きな家に行くよう促している。
「あんたも早く逃げるんだよ! シュリーちゃんのこと頼んだよ」
恰幅の良いシュリーカーが僕たちに駆け寄り、早く逃げろと急かす。シュリーはこのシュリーカーを良く知っているようだ。あとで聞いた話だが、怪我をしたシュリーの母親の代わりに食事を作っている近所のおばちゃん(?)らしい。さっきの族長の言葉を聞いていたようだ。
そのおばちゃんシュリーカーに、キバの悪魔のことを尋ねると口早に教えてくれた。
キバの悪魔と呼ばれたのは、最近このあたりに現れた大型のチョトツだ。シュリーカー族の畑に味を占めたのか、シュリーカー族の畑ばかりを狙っているらしい。更に、畑を荒らすことで村からシュリーカー族が出てくることを知ったらしく、畑にシュリーカー族をおびき寄せてから、手薄になった村を襲うこともあるそうだ。その狙いは食料庫にある作物だ。ただの動物とは思えないほどの手口である。
そのため、村には食料庫の警護のために戦士が数名残っている。先ほど大きな家に行くよう避難誘導していたのは、村に残った戦士だったらしい。
これまでもキバの悪魔を退治しようと、族長のジュロウや村の戦士たちが挑んでいるが、うまくいってないようだ。それどころか返り討ちにあい、怪我を負わされることも少なくないという。
シュリーの母親の怪我も、キバの悪魔が原因だそうだ。前回の戦いで、シュリーの母親である巫女が怪我を負ったため、今回は戦士たちの怪我を治す者がいない。今回の戦いは厳しいものになると、おばちゃんシュリーカーが言った。
そのおばちゃんシュリーカーの言葉の意味がわかったのだろう。怪我を治すものがいなければ、今度は怪我だけではすまない可能性が高い。シュリーが跳ねるようにして立ち上がり、泣きそうな目で僕の見ながらこう言った。
「……じいじ、助けて」
「うん。わかった」
僕は彼女の願いに即答する。
おばちゃんにシュリーを預け、族長たちが向かった場所を聞く。族長たちが向かったのは村のはずれにある畑らしい。
「あんた、そんな小さな身体じゃ無理だよ。死んじまうよ!」
「大丈夫ですよ。僕は執事ですから」
「なんだいシツジって。シメジの親戚かい?」
この状況でまさかのシュリーカージョークだろうか。
侮りがたしシュリーカー族。
「じゃ、行ってくるね」
「……お願い」
僕はシュリーたちと別れ、シュリーカー族の畑へと急いだ。
「ブオォォォ」
シュリーカー族が管理する畑では、族長をはじめとしたシュリーカー族の戦士と一頭の巨大チョトツ”キバの悪魔”との戦いが始まっていた。
キバの悪魔は、普通のチョトツよりも二回りも大きく、全長は8メートル近い。キバの悪魔の名にふさわしく、太くて鋭い牙が特徴だ。イノシシと違い、突き刺すことに特化したその牙は、やや湾曲しながら斜めに伸びている。長さは一メートル以上あるだろう。
敵対する相手に対し、そのキバを突きつけるように向けると、ものすごいスピードで突進してくる。その姿は、ランスを持った重騎士と言っても過言ではない。
運良くその牙に貫かれなかったとしても巨大な体躯による突進の破壊力は脅威となるだろう。
戦いが始まってから、その突進を避け損ねた者もいるが死者はまだ出ていない。木の下敷きになったシュリーもだが、身体が丈夫なこともシュリーカー族の特徴といえるだろう。
怪我をして戦線を離脱したシュリーカーは、ほかのチョトツが来ないか畑の隅で周りを警戒している。キバの悪魔のおこぼれを狙って他のチョトツがやってくることがあるからだ。
シュリーカー族の戦い方は、身体を倍加させ、素手で戦うことを主としている。族長であるジュロウも歴戦の戦士らしく、その大きさは元の二メートルほどの身体から、四メートルほどの大きさになっている。
その族長が、キバの悪魔の前に立ちふさがる。リーチの短い手足で構え、相手の動きを観察する。軽く右足を引き、拳を固く握ったその右腕は後ろへと引き絞られ、今にも放たれようとしている槍のようだ。
カウンター狙いの正拳突き。
キバの悪魔にも族長の狙いがわかっているのだろう。頭を低く構え、威嚇するように後ろ足で土をかく。鼻息も荒く、口からは大量のよだれが流れだし、畑を濡らしていた。つり上がった目の眼球は不自然に黒く、血走った瞳は異常なほど赤黒く濁っており、狂気に満ちあふれているかのようだ。
他のシュリーカー族たちは、キバの悪魔の周りを遠巻きに囲んでおり、ここから逃がさないよう牽制している。
次の瞬間、キバの悪魔の巨躯がしなるようにジュロウへと放たれた。頭を下げ、牙の先端をジュロウへと向けながら、その巨体からは考えられないほどの速度で迫る。
対するジュロウはその場から一歩も引かず、迫り来るキバの悪魔を迎え撃つ。ゆっくりと息を吸い、目前にキバの悪魔が迫ったところで息を止める。
両者が交錯する瞬間、ジュロウは半歩引いた左足を軸に、身体を時計回りにずらして突進をかわす。そして間髪入れずに引き絞った右腕で正拳突きを放つ。その鋭い拳は、キバの悪魔の側頭部を狙っていた。
キバの悪魔もジュロウが左足を半歩引いた瞬間、自らの頭を右側にひねり、牙をジュロウの腹へと突き刺そうとする。頭をひねったことで、ジュロウの正拳突きを側頭部ではなく、頭蓋骨の硬い部分で受けるための防御となる。攻撃と防御を兼ねた本能ともいえる動きだ。
キバの悪魔の牙がジュロウの胴体の一部を引き裂き、ジュロウの正拳突きが、ドゴッという鈍い音とともにキバの悪魔の頭に叩きつけられる。少しよろけたキバの悪魔だが、そのまますれ違うと、距離を開けて振り返り、ジュロウを睨む。ジュロウも裂けた身体を気にすることなく、キバの悪魔に向かって構え直しながら、溜め込んだ息をゆっくりと吐いた。
「なぜ来られた、アルク殿」
シュリーカー族の族長であるジュロウさんは、正面の敵を見据えたまま振り返らずに僕に声をかけてくる。
「可愛いお孫さんに頼まれまして」
キバの悪魔に一撃を食らわせたジュロウさんの背後から近寄り、執事魔法『執事救急箱』でお腹の傷を治しながら答える。背後から近づいたのは、ちょっとした茶目っ気だ。決して宴の席での意趣返しではない。
身体の大きさを倍加させているジュロウさんだが、その大きさは周りのシュリーカーと比べてもはるかに大きい。他のシュリーカーは大きくても三メートルほどしかない。シュリーもそうだったが、小さいときの二倍程度には大きくなれるようだ。
治療を終えたあと、そのままジュロウさんの隣に並び、キバの悪魔の姿を視界に入れる。
「ふむ。楽になったのう」
我慢していたのだろう。それなりにダメージがあったらしい。すっかり塞がった傷口を見て、ジュロウさんが笑いながら言う。
「いい腕だ。お客人は治癒師であったか」
「いえ? 執事ですけど」
「……はあ?」
「ブフォッ!?」
緊迫した戦場に、なんとも似つかわしくない声が上がる。キバの悪魔ですら大きく鼻息を鳴らし、困惑したかのように首を振っている。
「いやいや、執事が回復魔法なんて使えんじゃろ」
「何を言ってるんですか。お仕えする方が怪我をしたらどうするんです」
「そういう意味ではなくてだな」
ジュロウさんの常識では、執事は主人のサポートを行う事務職という認識である。その認識は間違ってはいないのだが、サポートの範囲が少々、我々とは異なるようだ。
「なぜ、執事が回復魔法を使えるんじゃ、という意味なんだが」
ジュロウさんに同調するかのように、キバの悪魔が頭を上下に振っている。うなずいているように見えるのは気のせいだろうか。
「執事だからでしょうか」
「……わし、質問を間違えたかの」
僕の答えはジュロウさんの求める答えではなかったようだ。今も苦笑したような顔を浮かべている。キバの悪魔は苦虫を潰したような顔つきだ。動物であるチョトツにも表情があるらしい。ちょっとした感動を覚える。
「ジュロウさん。チョトツって、こちらの言葉わかるんですかね」
「そんな話聞いたことないのぅ」
「こちらの戦力が増えたことを理解していないようですし、しょせんは獣ですか」
「子供ごとき戦力にならないと笑っているのかもしれんぞ」
冗談めかした口調でジュロウさんが言った。
確かに、ジュロウさんの隣に並ぶ僕とは三倍近い身長差がある。
「それは寂しいですね。ところであのチョトツ。何人前の肉が取れると思います?」
僕がなにげなくつぶやいた言葉に、族長はおろかキバの悪魔を囲んでいたシュリーカー族の面々から驚きの声が聞こえてくる。
「キバの悪魔を食う……だと」
「あ、あの、お客人。悪魔を食うと言ったのか」
「なんて恐ろしい」
「食欲の悪魔だ」
……散々な言われようである。
キバの悪魔は周りのシュリーカーの反応に、怯えたような目で僕を見る。やはり僕たちの言葉を理解しているのではないだろうか。
僕が疑いの眼差しを向けると、キバの悪魔は慌てたようにさっと目をそらしたのだった。




