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第百十二話 十氏族

 深い森の中、エルフの国と呼ばれる森には彼らが住む集落がいくつもある。ただ集落といってもその規模は小さな町くらいはあった。


 その町に匹敵する集落のひとつグリバルト。ここはニーナさんの故郷だ。

 ニーナさんと警備隊のエルフたちに案内され、町の入り口までやってきた。警備隊がついてきたのは護衛兼監視だろう。


 今、僕たちは町に入る手続きを行うため、詰め所にいる。詰め所といっても簡素なテーブルが置いてあるくらいだ。また面白いことに町は塀で囲われていなかった。これも迷いの結界に絶大な信頼があるからだろう。


 その迷いの結界だがディーナさんが教えてくれたとおり、ここにくる途中に張ってあった。歩いているとき、グニョンとした肌に粘りつくような魔力を感じたのだ。


 さて手続きを待つ間、目の前に広がるグリバルトの町を見ながら僕は愕然がくぜんとしていた。


 町はソサウィーの木が立ち並ぶ中に作られており、突然、森の中に町が現れたように見える。森の入り口にもあったソサウィーの木はニーナさんのいったとおり、さらに高い樹高じゅこうを誇っており、見上げても木の一番上はよく見えない。そんな木々と調和した町は魔王国では見られない美しさと神秘性を感じることができた。


 ニーナさんによるとグリバルトには千人ほどのエルフが住んでいるという。どこの種族も日常というのはあまり変わらないようだ。道端で立ち話をする女性。走り回る子供たち。威勢のいい男たちの声。どこにでもある風景だ。そんな町は活気にあふれていた。歩いているエルフたちの顔には笑顔が浮かんでいる。住民の笑顔は統治がいい証拠だ。


「で、なぜアルクくんはこの世の終わりみたいに残念そうな顔をしてるのかしら」

「――どうしてですか?」

「はい?」

「どうして……どうして! エルフさんたちは木の上で生活していないんですかっ!」


 魂を込めて僕は叫ぶ。

 その声に近くを歩いていたエルフの男が身体をビクッとさせ、僕を避けるようにそそくさと通り過ぎていった。よく見ればチラチラとこちらの様子を伺う視線をあちこちから感じる。よほど魔族を見るのが珍しいのだろう。


「変なお兄ちゃんがいるー」と僕を指差す小さな女の子。

「見ちゃいけません」とたしなめる母親の声。


 うん。やはり魔族を見るのが珍しいようだ。エルフからすれば黒髪の魔族はかなり変わって見えるだろう。


「なんですか? ヨヨさん。そのあわれみ深い目は」

「頑張って生きるのよ」


 意味がよくわからない。


 それはともかく話を戻そう。

 エルフというのは木の上に家を建て、木の上で生活する。僕はそう思っていた。事実、僕を狙ってきた警備隊の一人はそこが自分の場所だといわんばかりに枝の上に立っていたではないか。


 しかし、町の中にある木々を見上げても物見台があるくらいで住宅や店などはすべて地面の上に建てられていた。そしてエルフたちは地面を踏みしめ、歩き、走り、談笑している。

 確かに木々の成長を妨げないよう建てられた建築様式は見事というほかない。調和がとれるよう木造と石造りをうまく組み合わせている。

 また屋根や壁に枝が当たらないよう手が加えられていた。木々を傷つけないよう枝などの向きを誘導する方法も確立されているようだ。陽の光が地面まで当たるよう枝振りも調整されている。


 だからこそだ。

 ここまで木々を大切に思うエルフたちは木の上で生活すべきではないだろうか。いや、生活しなくてはならない。地面を芋虫のようにうのではなく、鳥やちょうのようにすごしてこそエルフである。


「それなのに……どうして」

「どうしてっていわれても――木の上とか危ないでしょ?」


 ニーナさんの口から出た思いもよらない答えに、雷が身体を貫いたような衝撃を受けた。あまりの衝撃に僕は地面へとひざをついてしまったくらいだ。そして手をついた地面に違和感を覚えた僕はあることに気づく。なんと町の玄関口ともいえるこの場所から町を走る大通りには石畳が敷かれていたのだ。これも衝撃的な事実だった。自然を愛するエルフが地面を舗装するとは許しがたい暴挙である。


「急に四つんいになってどうしたさね」

「くっ。ニーナさんの言葉は木々を愛し、自然と調和するエルフの口から出た言葉とは思えません」

「何いってるのよ。木から落ちたら大変なことになるでしょ」


 ニーナさんはあきれたような顔をして僕にいった。

 しかし、僕はその言葉に反論する。


「エルフは木から落ちません!」

「あほか! 落ちるわ!」


 間髪入れずに返ってきた答えは警備隊の一人から発せられた。

 彼は弓で僕を狙ってきたエルフの男で名前をエストという。ウッドストライクという一族の出身でニーナさんよりも年下だそうだ。弓の腕前は若手の中でも優れているそうだが、短気な性格らしい。

 ただ話を聞くと短気なのは彼だけじゃないとニーナさんが教えてくれた。なんでも彼の氏族ウッドストライクには少々荒っぽい連中がそろっているそうだ。また彼ら一族はエルフの中でも弓の実力で一二いちにを争うほどの武闘派らしい。


 そんな彼に僕は感情のこもっていない目を向ける。


「……なんだ、その目は?」

「あー、痛い。頭に矢が突き刺さったような痛みがする」

「刺さってなどいない! 怪しい術で防いだではないか。それに俺は謝らんぞ」

「ウッドストライクの息子よ。前にもいったはずだ。己の我を貫くのもいいが、時と場を見誤ると痛い目にあうよ」


 ディーナさんは諭すようにいうが、その目は笑っていない。少なくても非があるのはエルフの男だといっている。それに以前からディーナさんにいわれていることらしい。それでも治っていないのだからよほど我が強いのだろう。


「まあまあ。ディーナさん。彼が謝りたくない気持ちもわかります。彼の任務は森の警備ですから」

「そのとおりだ!」

「あの時もいいましたが、個人の感情ごときで警告もろくにせず射殺そうとしたくらいです。それが原因で魔族対エルフの新たな種族間戦争になったとしても彼は本望でしょう。もちろんほかの隊員も彼を止めなかったのですからエルフとしての総意でしょうね」

「ぐっ」


 ほかの四人の隊員たちはぶんぶんと首を振っているが僕は見てみぬふりをする。

 これが個人的な旅の途中、何かしらの原因で戦いになったのならいざ知らず、エルフの国の警備隊として僕を狙ったのだ。彼らの背中には国という看板が下がっていることを忘れてもらっては困る。


「アルクくんも時と場を見誤っていることをやんわり指摘しない!」

「はあ。やれやれさね」


 ニーナさんが盛大につっこみ、ディーナさんはため息をついた。念のためいっておくがディーナさんとの約束は、「初対面の者をあまりからかうな」だ。今や彼とは初対面ではないし、僕は正論を言ってるだけにすぎない。だからセーフ。圧倒的セーフである。


「知ったような口をきくな。魔族の子供め」

「あまりアルクんを子供だと思わないほうがいいわよ」

「妖精殿まで子供の肩を持つのですか」

「あら。その子供にご自慢の矢が通用しなかったのはどこの誰かしら。もしかしてアルクんじゃなくて私を狙ったのかな」

「そ、そんなことは」


 おーおー。ヨヨさんも意地が悪い。


「そういえばこの子ってディーナ様の『豪雨』に耐えたのよね」


 警備隊にいるエルフの女性がつぶやいた。

 その言葉にエストを始め、ほかのエルフが僕に振り返った。


 この『豪雨』という降水用語は思ったとおり指導のランクだった。上位から豪雨、大雨、長雨、小雨、にわか雨に分かれている。ランクが上がるごとに十パーセントずつ数値が下がるそうだ。

 この数値だがディーナさんの指導から脱落しなかった者の割合だ。合格率ともいう値だった。ちなみに一番ランクの低いにわか雨でも合格率五十パーセントらしい。ということは豪雨に挑戦して合格がもらえるのは十パーセントだ。

 にわか雨のランクで半数が脱落するのだから、ディーナさんの指導がどれほど苛烈かわかるだろう。ちなみにニーナさんは、『長雨』をクリアしているそうだ。


 僕は生存率十パーセントの指導『豪雨』を乗り切った。道理で『死ぬ気になればなんでもできる』が常だったセイバスさんとの執事修行時代を思い出すわけだ。

 ところで『豪雨』を受けた残りの九十パーセントって生きてますよね? 死んだら不合格ってことないですよね? だが残念ながら口に出して聞くことはできなかった。世の中には知らないほうがいいこともある。


「さあ、これで手続きは終わりだよ」


 そういって詰め所にいた中年エルフから一枚の木札を渡される。

 この木札はエルフの国に滞在してもよいという印になるそうだ。これさえあればどのエルフの集落にも入れるとのこと。

 また長方形の木札には首から下げられるようヒモがついており、模様が彫られていた。図柄は一本の木を中心にして四隅それぞれに何かの葉っぱが彫られている。


「その木は世界樹を示しているの。周りの四枚の葉っぱは世界樹の葉を模したもの。葉の枚数でどこの氏族が木札を発行したのかわかるようになっているわ。四枚の葉はツリーフォードの証ね。私たちの一族がアルクくんを保証しますという意味になるわ」

「それはありがたいのですが、結局ニーナさんは町を統治するようないいとこのお嬢様だったんですね」


 初めてツリーフォードの名前を聞いたとき、彼女は貴族ではないようなことをいっていた。だが大きな氏族の一員だったわけだ。


「確かに一族の代表である族長とは何度も面識があるけれど、遠い親戚みたいなものよ。それに偉いのは一族のごく一部だけで私が何かをしたわけじゃないわ。それよりツリーフォードの名を背負っていると周りから厳しい目で見られることが多いから大変なのよ」


 そういって片目をつぶってにこりと笑う。

 こういうところが彼女のいいところだ。偉いのは一族であって自分ではないとはっきり断言できるのだから。


「だからむやみにケンカを売ったり、暴れたりしないこと。いいわね」


 おっと。早速、くぎを打たれてしまったようだ。


「やだなぁ。僕がいつもケンカ売ったり暴れたりしてるみたいじゃないですか」

「私、そういうアルクくんしか見ていないのだけど?」


 あれ? そうだったっけ?

 ニーナさんと知り合ってから、悪徳商人フトックの店を潰して、ハーブ園でクレベリにキレて、ついさっきエルフの国の警備隊とおたわむれしたくらいだ。

 うん、たまたまタイミングが悪かっただけだな。


「はっはっは」

「アルクん。ごまかしてもダメよ」

「ヨヨさん。そこは否定してください」

「まあ、ここで何かしでかしたら私も黙ってはいないから」


 そういって聞いたことのない呪文を唱えるニーナさん。すると彼女の周りに六つの魔法陣が現れ、その中に三十センチほどの精霊がポンポンと姿を現した。見た目は子供で着ている服や髪の色は様々だ。侯爵家にいる中位精霊たちと雰囲気が似ている。色でいえば、赤、青、緑、黄、白、黒だ。


 恐らく今のは精霊召喚の魔法なのだろう。

 その中の一人、薄い青色のワンピースを着た小さな女の子がおずおずと近づいてくる。そして緊張気味にディーナさんの前に来ると、膝を折って頭を下げた。きっとこの女の子は水の精霊に属するのだろう。ディーナさんは笑みを浮かべながら軽くうなずき、挨拶を返す。

 その光景はまるでランチを食べに行った先の店で社長に鉢合わせた受付嬢のようだ。いやぁ、実に気まずい。


「ふっふっふ。アルクくんの魔力には負けるけど私にはこの子たちがいるわ。火、水、風、土、光、闇の中位精霊たちよ!」

「おおぉ!」

「中位精霊を六体同時召喚だと!」

「初めて見た!」


 そういって感嘆の声をあげたのは、僕に矢を射った男エストを始めとする警備隊の隊員たち。なぜかニーナさんと六体の精霊を見て驚き、彼女を尊敬のまなざしで見る。

 だが、そんな彼らにニーナさんはぴしゃりといった。


「あなたたちも任務が大事なのはわかるけど、いきなり矢を放つとか言語道断よ。それにアルクくんはツリーフォード一族のお客様。そして私の友だちってこと忘れないで。森の同胞に精霊の力を向けたくはないわ」

「!?」


 ニーナさんの言葉はありがたいのだが、そこまでして僕の肩を持って大丈夫なのだろうか。だが、エストを除く四人はそんなニーナさんに恐縮しているようだ。彼らなりに反省しているのだろう。

 また、仏頂面でうなずくエストも意地を張っているだけで同族との争いまでは望んでないように見える。


 そんな彼女らを尻目に僕は呼び出された精霊たちに声をかけた。


 精霊たちによるとエルフの場合、三体同時召喚できれば精霊魔法の使い手として一人前だという。ただしこれは精霊と関係の深いエルフだからこそ複数同時召喚できるのであって、他種族の精霊使いの場合は難しいとのこと。またこの六体はいつもニーナさんの召喚に応じる専属的な精霊だと胸を張る。そして口々にニーナさんの優秀さを褒めるのだった。

 ただいくら彼女が優秀だといっても特別というわけではないらしい。ほかにも六体同時召喚できる召喚師は何人かいるそうだ。


 あとこの森には数多くの精霊が住んでおり、精霊ネットワークとも呼ぶべき情報網が形成されていると教えてくれた。精霊の扱いがひどいエルフのうわさはこれにより瞬く間に広がるそうだ。ちなみにそういったうわさを一番早くネットワークに流すのは火の精霊だという。さすがは火の精霊。炎上させるのがお得意のようだ。もちろん炎上したエルフは精霊の協力が得られなくなり、精霊魔法が使えなくなる。エルフにとってなんとも恐ろしい情報網であった。


「なるほどねぇ。あっ、申し遅れました。僕はティリアお嬢様の執事アルクといいます。今度ぜひお嬢様に会いに魔王国まで遊びに来てください」

「ちょ、ちょっと! アルクくん! 何しれっと私の精霊たちを勧誘しているのよ! それにコンペイトウまで配って! あなたたち(精霊たち)もうれしそうに受け取らない!」


 警備隊と話をしていたニーナさんが僕と精霊の会話に気がついた。


「せっかくニーナさんの精霊さんに会えたんですから自己紹介とお話しくらいしてもいいじゃないですか」


 コンペイトウが入ったビンを大事そうに抱えた精霊は賛同するようにうなずいた。


「もう買収されてる!」

「買収とか何いってるんですか。コンペイトウはお近づきの印ですよ。それに精霊たち(この子たち)がニーナさんを裏切るはずありません」


 精霊たちはコンペイトウをポリポリ食べながら何度もうなずく。

 だが黒いローブを羽織った闇の精霊の男の子がニヤリと笑った。何かを企んでいるような笑みだったが、多分彼に他意はない。何歳かわからないけど、ニヤリとしたい年頃なのだろう。彼はコンペイトウを口にいれようとするたび、変なポーズをとっている。そのたびに隣にいる白いワンピースの女の子から迷惑そうな目を向けられていた。多分、あの女の子は光の精霊だ。

 ちなみに火、土、闇の精霊が男の子、水、風、光は女の子っぽい格好をしている。


「それはわかってるけどさぁ。アレ以来ずいぶんと精霊には優しわね」


 アレ以来とはハーブ園でクレベリたちに会ったときのことをいっているのだろう。あのときからお嬢様の周りには必ず数体の精霊が一緒にいる。


「全世界の生きとし生けるものに愛されるお嬢様には今現在、精霊のお友達が何人もいるんですよ。お嬢様のお友達に優しくするのは当然じゃないですか」

「アルクんはやっぱりお嬢様が中心なのね」とヨヨさん。

「当たり前です」

「アルクくんらしいさね。ところでアルクくんや。そろそろ行こうかね。連中も待っておるさね」

「あっ。そうでしたね」


 六体の中位精霊たちはコンペイトウを握りしめ帰っていった。一斉に手を振る姿が可愛らしい。機会があればぜひともお嬢様に紹介したいところだ。


 エストたち警備隊ともここでお別れだ。

 すでにエストは姿を消していた。さっさと森の警備へ戻ったのだろう。実にすばらしい態度である。まさに僕の期待どおりだ。


 ほかの隊員たちは僕に頭を下げて謝罪した。自己紹介がてらその四人の名前と氏族を聞いておく。もちろん彼ら四人を許し、不問にした。こちらからも森を騒がせたことに対し謝罪する。その後、僕と隊員四人は笑顔で握手してから別れた。


「そろそろ我々も行くとするさね」


 ニーナさんとディーナさんに案内され、向かう先はエルフの巫女が住んでいるという建物だ。そこには『精霊の間』と呼ばれる部屋があり、ここで各氏族の長老や代表者が集まって会議をするらしい。


 今、その精霊の間には各氏族の代表が集まっており、僕たちを待っているという。

 なんでも僕に相談があるそうだ。


 これはディーナさんが『世界樹の朝露』の交換条件として話を受けてきたもの。もともと対価を支払う予定だったし、僕にできることならいくらでも相談に乗ろうと思う。なによりディーナさんのおかげでトントン拍子に話が進んでいる。おかげで無駄な時間を過ごさずに済むのはありがたい。これならお嬢様の元へ戻れる日も近い。


 巫女が住むという建物に向かう途中、ヨヨさんに手を振る子供たちに何度もすれ違った。また指導を受けたと思われる老若男女のエルフが何人もディーナさんに挨拶しにきた。二人ともニーナさんの故郷グリバルトではずいぶんと人気のようだ。特にディーナさんはエルフたちから絶大な尊敬をされていることがわかる。


 また話しかけられることはなかったが僕を観察する視線を何度も感じた。ひきこもり集団のエルフから見ればよほどほかの種族が珍しいのだろう。実際、いまだにエルフ以外の種族を見かけていない。

 余談ではあるが、いつの日か子供をさらう妖精の話(チェンジリング)をエルフの子供たちに聞かせてあげようと心のメモに書いておいた。



「巫女の家に着いたさね」


 巫女が住むという建物は木造でお屋敷と呼べるほど立派なものだった。門の前には衛兵と思われるエルフが二人立っている。二人はディーナさんの姿を見るやいなや敬礼で迎えた。それはもう条件反射なのではと思うほどの反応だった。

 その一人にディーナさんが声かけると、建物の中へ案内されることになった。僕たちは衛兵にいわれるがまま、ついていく。


「そういえばエルフの氏族っていくつあるんです?」


 お屋敷の廊下を歩きながらニーナさんに尋ねると、彼女はひろげた両手のひらを前に突き出していった。


「代表となっているのは十氏族。会議はこの各氏族の代表十人と巫女を合わせた十一人で行われているわ。ツリーフォードもそのひとつね」

「へー。しかしまた代表となる氏族が十もあるのに、なぜ巫女の家や長老が集まる場所がここグリバルトにあるんです?」

「それは今代の巫女がツリーフォードの一族から出てるからよ。古くから巫女を輩出した一族の集落に巫女の家が作られるの」

「そうなんですか」

「アルクんは相変わらず情報収集に熱心ね」

「まあ知りたい年頃なんですよ」

「どうだか」とヨヨさんがニッと口を開いて笑った。


 ヨヨさんにも困ったものだ。

 僕の素朴で可愛らしい質問に対し邪推し過ぎである。


 (十一人か)


 氏族代表が十人と巫女が一人。そのうち巫女はツリーフォードの氏族出身者。ということはツリーフォードの一族は十一人のなかに二人いることになる。これは現エルフの国でも発言が強いとみるべきだろう。五対四で意見が分かれてもツリーフォードに有利な採決が得られる。氏族代表四人を抱き込めば思うがままだ。


 ならばここはひとつお嬢様のためにもツリーフォードの一族と懇意にしておくべきだ。同じツリーフォードに属するニーナさんもいることだし、侯爵家の影響力をエルフの国に残しておくのが得策か。

 長老たちの相談事が何かはわからないが協力しておいて損はない。うまくいけば魔王国との取引や『妖精の祝祭』との商売も円滑に進むはずだ。


 その後、十氏族の名前と特徴を教えてもらい、覚えておく。


 とりあえず方針は決まった。

 あとはどうやって関係を結ぶかだ。

 こちらからではなく相手から関係を結んで欲しいといわせるのが望ましい。もしくは弱みを握るか、だ。


「エストの出身であるウッドストライクも十氏族のひとつなんですね」


 教えてもらった十氏族の中にはウッドストライクの名前のほか、彼以外の四人が所属する氏族の名前もあった。


「ええ。そうよ。巫女を守護するため、このグリバルトには各氏族の同胞たちが派遣されているの。気づいていると思うけど、(エスト)と一緒にいたほかの四人もそれぞれ別の代表氏族から派遣された者たちよ」


 そうこう話しながら歩いていくと重厚そうな扉の前についた。門の前には目つきの鋭い衛兵らしきエルフが立っている。だがディーナさんの姿をぎょっとした顔で二度見したあと、あわてて敬礼する。それを見た彼女は軽くうなずいた。きっとこの二人もディーナさんの指導を受けたのだろう。


 (ここもか)


 いったい彼女はどれだけのエルフに指導しているのだろうか。エルフの国に対するディーナさんの影響力が恐ろしい。……ああ、そういえば魔王国も同じようなものか。魔族が信仰している神様に仕えている大神官様も彼女と同じ精霊なのだ。むしろ大神官様のほうが危ない。無差別に戦いを挑む暴力性おいても魔王様の安全という意味でも。


「さあ、中に入ろうかね」


 重厚な扉が音をたてて開くと、そこには大きな部屋が広がっていた。ここが『精霊の間』と呼ばれている場所だろう。広さは二十メートル四方ほどだろうか。部屋の中央には円卓があり、十一の席があった。それぞれの席には代表とおぼしきエルフたちが座っている。ただし、僕たちから見て正面一番奥の席だけが空席となっていた。その席の奥にはもうひとつ扉が見える。


 各代表には長老と呼ばれるような老齢のエルフの姿もあるが年齢は様々だ。ニーナさんくらいの若いエルフも見受けられる。パッと見の年齢でいうと、老齢のエルフが四人、中年一人、二十代後半が二人、見た目が若いエルフが三人だ。その若い三人は全員が女性だった。女性のエルフはもう一人いるが、こちらは年齢を感じさせる老エルフだ。


 十人の代表たちだが誰しもが整った顔立ちをしている。エルフが美形ぞろいというのは間違いではなかった。ここに来る途中、出会ったエルフも例外ではない。あの根性が曲がったエストですら顔立ちは整っているのだ。

 まあエルフ豆はないし木の上に住んでいないので感動もなにもない。そもそもお嬢様からあふれる魅力の万分の一にも満たないのだ。


 そんなエルフたちの目が僕たちへと注がれている。特に皆、興味津々といった様子で僕を見ているようだ。純粋な興味、恐れ、慈愛、不審、期待、疑惑、物珍しさ、おいしそうなどの感情が見て取れる。


 (――ちょっと待て! おいしそう!?)


 思わずその方向を二度見してしまった。

 その視線は若い女性エルフから放たれている。あの目は絶対に危ない系エルフに違いない。僕は気が付かれないようそっと目をそらす。


「待たせたね」


 そうディーナさんが伝えると一人のエルフが立ち上がり、僕たちを出迎えた。

 見た目二十代後半の男性エルフの一人だ。


「ディーナ様。ご足労おかけしました」

「気にしなさんな。ウッドストライクの若長よ」


 (こいつがエストの一族代表ね)


 ウッドストライクの若長と呼ばれた男は長い金髪の持ち主だ。今も顔にかかる髪をかきあげなら顔に柔和な笑みを浮かべている。だが僕が気になるのか、チラチラと目を向けてくる。


「あの……もしやと思いますがそちらの子供が例の?」

「ああ、そうだよ」


 戸惑い気味の男は切れ長の目で僕を見る。それはまるで動物を観察するような目だ。その目は鋭く、不躾ぶしつけな視線であったが僕はその彼に笑顔を返した。しばらく僕に視線をぶつけていた彼は長い髪をかきあげると軽く鼻を鳴らす。


「ふっ。こんな子供がですか?」


 彼は僕を見下すような態度で笑みをこぼした。

 うん。間違いなくエストと同じ一族だ。

 若長といいエストといいウッドストライクの氏族はこんなエルフばかりなのだろうか。ニーナさんは荒っぽい連中と評していたが、バカっぽい連中の間違いではないだろうか。むしろバカだと思う。


「ウッドストライク殿。その言葉はディーナ様を疑っているのですか?」


 女性エルフの中でただ一人年配の女性エルフが立ち上がり、彼の言葉をとがめた。


 老エルフがとがめるのも無理はない。

 僕を小馬鹿にするだけならまだいい。言い方はともかく僕が子供なのは間違いないからだ。

 ディーナさんが僕のことをなんと説明したかは不明だ。しかし、僕なら彼らの相談に乗れるだろうと思ったからこそここに連れてきた。彼の発言はここに僕を連れてきたディーナさんを疑い、軽んじていることにほかならない。


 ほかの代表者たちもそんなウッドストライクの若長の態度に思うところがあるのだろう。決して好意的とはいえない目を向けている。

 だがウッドストライクの若長は彼らの視線を気にすることもなく仰々(ぎょうぎょう)しい態度をとる。


「まさか! ディーナ様を疑うなんて恐れ多いことにございます」

「なんとまあ、わざとらしいものよ」

「キワンの太母よ。少し落ち着きなさい」

「しかし! ディーナ様!」


 キワンの太母と呼ばれた女性に対し、笑みを浮かべるディーナさんは手で席に座わるよう示した。渋々ながら席についた女性はまだ不満そうな顔だ。ご年配にも関わらず、今の彼女の顔は母親にとがめられた娘のようである。


 キワンとは十氏族のうちのひとつだ。

 確か警備隊の女性の一人がキワンのエルフだった。


 そのディーナさんが僕に視線を送ってくる気配を感じた。無視しようと思ったのだが反射的に目をあわせてしまった。こんなときの年配者の目は正直危険だ。

 そして彼女の目を見てそれが間違いではないことを確信する。

 今、ディーナさんの目はとても楽しげな目をしていた。とてもとても楽しげな目だ。「ほれ、何か言い返せ」と言わんばかりの目だ。「あおれ、あおれ」と目が語っている。あー、その目がうっとうしい。メガうっとうしい。


 少し前まで、「あまり初対面の者をからかうな」と僕に注意した彼女は……もういない。だが彼女はわざわざこんなことをけしかけることはしないはずだ。恐らく何か考えがあってのことだろう。


 (はいはい。わかりましたよ、と)


 なんとなく察した僕は、魔族使いが荒いんだからとこぼしながら足を進める。そしてウッドストライクの若長に目もくれず、無言で彼の横を通りすぎた。そして座っている氏族代表のエルフたちに向かって挨拶をする。


「皆様はじめまして!」


 挨拶の言葉は簡潔に。

 続いて指先をそろえたまま胸に手を当て、お辞儀は三十度ほど身体を前に倒す。彼らに最敬礼は必要ない。ひざは曲げず、背筋を伸ばす。顔を上げたあとはあごをひく。軽く開いた手を身体の横に置いて『気をつけ』の姿勢を保つ。


 幾人かのエルフから、ほうという声が漏れた。


 さぁて。彼以外の代表者たちは使えるだろうか。

 ディーナさんから、好きにお話ししてもよいと許可も出た。

 エルフの国がお嬢様の役に立てないようならそれなりの対応をとろう。もともと『世界樹の朝露』と食材以外、用はない。なんなら食材の苗や種を根こそぎ持って帰って魔王国で育てればいいのだ。


「まず始めに、こちらに着いたばかりでお見苦しい格好でございますことをお許しください」


 やや声を張り、相手の耳に届くよう滑舌よく言葉を発する。その声にイスに座るエルフたちが僕に集中し始めた。当然、顔は笑顔が基本である。


 今、僕が着ているのは執事服ではない。旅用にと奥様が用意してくださった服だ。見る者が見れば質の高い服であることがわかるはず。わからなくても構わない。その程度しか見る目がないと判断するだけのこと。


「私、魔王国通商貿易局局長ヘルムト=ミストファング侯爵家が嫡女ティリア様に仕えます執事見習いのアルクと申します。豊かで絶佳ぜっかなる森の導き手であられますエルフの皆様におかれましては、我が祖国魔王国とのよしみも深く、今後とも両種族が共に手を取り合い、友好なきずなが永久に続くことを私個人としても心より願っております」


 ここでエルフたちの様子が若干騒がしくなったがそのまま続ける。


「また今回は私的な旅にも関わらず、私の願いである『世界樹の朝露』を快く分けていただき感謝の言葉もございません。改めてお礼申し上げます」


 もう一度、彼らに一礼したあと言葉を続ける。


「さて、偉大なる水の精霊ディーナ様より『世界樹の朝露』を預かったおり、なにやら私にご相談があるとお聞きしております。エルフ族と魔族の友好が今後も夜空に登る月のごとく不変のものであるよう凡才の身ではございますが皆様方にお力添えができればと思います」


 ここまで話したあと目の前にいる代表者らを見回した。ほとんどが驚いたような顔をしているなか、キワンの太母だけがクスクスと笑っている。

 また、絶対危ない系エルフの目が矢のごとく僕に突き刺さっているが、アレは無視だ。絶対に目を合わせてはいけない。


 すると笑っていたキワンの太母が立ち上がった。


「アルク様。ご丁寧な挨拶痛み入ります。皆、アルク様の挨拶に驚いているようですわ。私は十氏族のひとつキワンの長ヘレナと申します。私どもエルフ族としましても魔族との友好は願ってもいないこと。今後ともその友好が大樹のように続くことを願っております。私的な旅とのことですが、どうか満足いくまでエルフの森にご滞在ください」


 ヘレナという老齢の女性エルフのたたずまいは品があり落ち着いている。まさに太母と呼ばれるにふさわしい態度だ。


「こちらこそご丁寧にありがとうございます。ディーナ様があなたを太母と呼ばれた意味がよくわかるようです」

「あら。恥ずかしいわ。私なんてまだまだよ。ところで失礼ですがアルク様はおいくつにございますか」

「この世界に生を受けてから十年になりました。エルフの皆様から見ればまだ新芽にも足りぬ若輩者にございます」

「あらあら。ご謙遜けんそんを。それに我々エルフのような言い回しをされますのね。どうやら私たちのことをよく学ばれたご様子。アルク様のまっすぐな目を見れば、とても充実した十年だとわかりますわ。例え芽が出ても中にはまっすぐ育たない木もあるというのに」


 ヘレナさんはちらりと僕の後ろに目をやった。僕の後ろにはウッドストライクの若長が控えている。どうやらこの太母はおとなしいだけではないようだ。言葉の中に針とか短剣を忍ばせるタイプである。

 まあ、そういうことなら。


「確かに芽吹いたからといってすべての木が天に向かって育つとも限りませんね。むしろ周りの木々に絡み、害となる木もございましょう」


 とりあえず乗っかっておいた。


 僕の後ろでディーナさんが笑いをこらえていた。肩を震わせているのが気配でわかる。


「あら。アルク様とは私、仲良くできそうですわ」

「はい。私もヘレナ様とはお話しするのが楽しいです。でも私のことは呼び捨てで結構ですよ。あくまで私的な旅ですから」

「ではアルクくんでいいかしら。私も様はいらないわ」

「わかりました。ヘレナさん」


 もう一人名乗りをあげたそうにしている女性エルフがいたが、アレはダメだ。見ない、聞かない、話さない。


「ちっ。生意気な口だけは達者だな」


 (……はあ、やれやれ)


 その声はウッドストライクの若長だ。黙っていればいいものをこのタイミングで声をかけてくるとかバカなんじゃないだろうか。この際、バカっぽいからバカに昇格決定でいいだろう。なにしろ僕とヘレナさんは彼の名前を出しているわけではない。誤解があってはいけないのだが、確かに遠回しに批判している。むしろ彼の悪口しかいってない。だからといって、「俺のことを批判してるな」と思い込みで突っかかってきたら、身に覚えがあるといってるのも同然だ。

 それにもっといい返し方があるだろう。彼の言葉は悔し紛れの一言にしか聞こえない。それすらわからないとはお粗末にも程がある。


 エルフって賢いと思っていたのに残念だ。

 やっぱり木の上に住んでないからダメなんだよ、きっと。


「いい加減にせんか。タンキール!」


 そう怒鳴ったのはヘレナさんの対面に座る白髪の老エルフだ。目つきは鋭く、張りのある声はとてもじいさんとは思えない。しかしその顔に深く刻まれたしわが彼の年齢を示していた。


「おや。あなたの老いた耳にも聞こえましたかラケシス殿。マツバメアーディスの老賢人と呼ばれることだけはある」


 十氏族のひとつマツバメアーディス。聞いた話だと、彼の一族は賢人の名にふさわしく知識やエルフの歴史に詳しい氏族だという。困ったことがあればマツバの一族に聞けといわれているらしい。


「ふん。相変わらず口の減らぬヤツじゃ。風の精霊とともにあれば耳が遠くなっても困りはせんわ」

「ですが今回の件はラケシス殿でも手に負えなかった。そろそろ後進に道を譲られてはいかがでしょうか」

「ふぉふぉ。道を譲ったせいでどこぞのねじ曲がった者のように一族を迷子にさせたくはないからのぅ」

「前に進めず行き倒れるよりマシでは?」


 やれやれ。

 それにしてもいろいろなエルフがいるものだ。この辺りは魔族となんら変わらない。ウッドストライクのタンキール氏といいヘレナさんといいラケシス氏といい、代表者同士、互いに牽制けんせいしあっている。

 後ろにいるニーナさんに振り返ってみると、彼女は、うんざりした顔をしながら額に手を当てていた。円卓の席に座る面々も同じような顔をしている。


 今もラケシス氏とタンキール氏の言葉の応酬は続く。

 僕は二人が争っているのを遮り、ラケシス氏に向かって声をかけた。


「ラケシス様。もしよろしければその件とやらをお話しいただけませんか」

「待ちたまえ。今、私がラケシス殿と話をしているのだ」


 会話に割り込まれたタンキール氏がむっとした様子で声をかけてくるが、当然、無視だ。


「ラケシス様。魔族の意見も多少は参考になるかもしれませんよ」


 あえて言葉の始めにラケシス氏の名前をつけて呼んでいるのは、タンキールには話しかけていないよと示すためだ。


「アルクくん。わしも様はやめてくれ。むずがゆい」

「これは失礼しました。ラケシスさん」


 察しが良いのか、ラケシスさんも僕の意図に気がついたようだ。わざわざ僕の名前を呼び、問いかけに乗ってきた。

 完全に無視されることになったタンキール氏に目をやると、彼は顔を真っ赤にさせていた。エルフ的な言い回しで表現するなら紅葉だろうか。まあ紅葉ほど美しいものではない。


「マツバメアーディスの老賢人と呼ばれているかたに比べれば僕の知識なんて役に立たないかもしれませんけどね」

「ふぉふぉ。アルクくんは謙虚じゃのぅ。誰かとは大違いじゃ。だがわしはディーナ様に認められたキミを信じているよ」

「おい!」

「またまたぁ。ラケシスさんもお上手ですね」

「いやいや。マツバメアーディスに誓って本当のことじゃよ。ほかの氏族も誓ってくれるじゃろ。誰かさんをのぞいてな」

「誓う? 氏族に誓われるのはどのような意味が?」

「これはじゃな。我々代表が決を取るときに使う言葉じゃな。ある議案が出たとする。そのけつるとき、自分の氏族に誓うことによって賛成、肯定、承認などの意味となる。逆に沈黙は反対の意味となるのじゃ」

「私を無視するとはどういうことだ!」

「そうなんですか。勉強になります」

「……ところでアルクくんはうるさい羽虫退治は得意かな?」

「害虫退治は『種類問わず』、お嬢様の執事をめざす僕にとって最も得意とするところです。もしかして相談事とはそちらの関係でしょうか?」

「ほう! それは今すぐにでも頼みたいところじゃが今回は違うの。相談事に関しては巫女様から直接話しがあるじゃろうて」

「それは残念です。ぜひ僕の腕前を見ていただきたかったですね」


 円卓のあちこちからクスクスと押し殺したような笑い声が聞こえ始める。どうやらほかの代表たちも気がついたようだ。遠回しに僕とラケシスさんがタンキール氏を無視しながらいじり倒していることに。


「き、貴様! 私を馬鹿にしてるのか!」

「お待ちください。今、私がラケシスさんと話をしているのです」

「ふぉふぉふぉふぉ。わしもアルクくんと話をしておるのじゃ。待っておれ」

「ぶっはっ!」


 誰かが盛大に吹いた。

 その声は確実にディーナさんだ。そんな彼女は床をたたきながら笑い転げている。それにしてもさすがに笑いすぎだ。なにか考えがあったと感じたが気のせいだったかもしれない。


「き、き、き、き――」


 ディーナさんのせいで彼はずいぶんとお怒りのようだ。その怒りの矛先は僕に向いている。顔色も紅葉どころではない。紅葉が己の赤さを恥じ、負けを認めるほどの赤っぷりである。

 それにしてもさすがは木を愛するエルフだ。さっきから、「き」しかいってない。


「何ごとですか。騒々しい!」


 突然聞こえてきた透きとおるような声にエルフの代表者たちが一斉に立ち上がり、扉のほうへと身体を向けた。タンキールですら姿勢を正し、扉に目を向けている。まだ少し顔が赤かったが、顔つきそのものは真剣だ。


 代表者たちの態度から察するに今の声は、代表者たちよりも立場が上の者だろう。そしてこの精霊の間で行われる会議には各氏族の代表ともうひとり参加する者がいる。


 それはエルフの巫女だ。

 ようやく姿を見せようとする巫女の登場に、僕も姿勢を正して待つことにした。


 (さて。ようやくご登場か。エルフの巫女はヒミカさんとくらべてどこまでお話しができるかな)



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