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すれ違わない政略結婚  作者: 日和るか


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9/16


「今人気の劇団の新作が面白いって評判なの! 前半が悲恋っぽくて後半はハッピーエンドに向かって大盛り上がりなんだって!」


「観劇か……」

 

 ルキアンは気乗りしない。が、アステルの希望だ。

 

(冒険ものならまだしも、恋愛ものか。退屈そうだけど)


「分かった」

「え、いいの?」

「何だよ、行きたいんだろ?」

「却下されるかと思った」

「どうしてだよ」

「ルキアン、絶対興味ないじゃん」

「おまえが喜ぶならいいんだよ。次の休みに行こうか」

「ありがとう! 楽しみにしとくね」


 アステルは「政略結婚の相手がルキアンでよかった」とにこにこする。素のままの自分を曝け出せるのは、幼い頃からの付き合いの賜物だ。


「オリエンテーションは来週だったな」

 ルキアンの問いにアステルは笑顔のまま「うん! どんな事するのかなあ」と不安もなく頷く。詳細は当日でないと分からない。


「きっとアステルは高級貴族たちのグループに放り込まれる」


「え? 男爵家、子爵家の身分で組まれるんじゃないの?」


 新入生歓迎、親睦のため、と銘打った学園のオリエンテーションは三学年混合でグループが作られる。その振り分けは当然ながら身分に応じてとなる。上級貴族の中には、あからさまに下級貴族を見下す者たちがいるからだ。


〈生徒は平等〉なんて学院理念の建前は通らず、学院側は陰で虐めがある事実を承知しているから身分を揃えるのも分かる。しかし形だけでも体裁を整えたいそんな事情の中、上級貴族たちのグループに一人、二人は下級貴族を含むのが慣例化している。


「その条件は資産家であったり、他国とのパイプの太い者であったり。……魔法士であったり。高級貴族と言えども無下に出来ない者たちだ」


「えー? 私、魔法士ったって、初級者だよ? 入学時には一級だったルキアンとは雲泥の差だよ?」


 そうなのだ。ルキアンはその魔力の多さと魔法の威力でもって、受けた試験に合格し続けたので入学した時には既に一級魔法士だったから、天才だと騒がれていた。特級魔法士になるには精度と経験と、そして教養も一定の成果が必要で、何より生活態度とか性格も見極められる。それはそうだ。性格破綻者に権威ある特級魔法士の称号は与えられない。特級の試験を受けられるのは成人になる十七歳からで、ルキアンは勿論一発合格だった。

 そんな彼と自分が同列扱いはおかしいとアステルは反論する。


「魔法を使える者自体が減少しているんだから、おかしくはないよ。田舎者の俺たちに魔力があるのは、聖魔法士と呼ばれた伝説のトランドラ・カジンの、血を引いているからなんだろうな」


 ルキアンは男爵家、アステルは子爵家と、貴族の中では身分が低い。しかし彼らが生まれたモカマチュラル地方には、かつて東の魔法島国クリランガから来た男が、とある商家の娘と結婚して住んでいた。貴族制度のないクリランガ出身なので扱いは平民だったが、とてつもない魔法使いだったという。それがルキアンの言うトランドラだ。


 彼の血を入れたい当時の王室がうわさを聞き、まだ若いトランドラと王女との結婚を画策し、彼を離婚させようとした。怒り心頭の彼が『断る! 妻と結婚したくてこの国まで来たんだ! 王城を倒壊させるぞ』と跳ね除けた逸話を持つ天才魔法士だった。彼は生涯をモカマチュラルで過ごした。アステルもルキアンも先祖を辿ればそのトランドラに行きつく。ルキアンの優秀さは先祖返りと思われる。



「やだなあ……偉い人たちに粗相したらどうしよう」


「そうだな。アステルって粗忽なとこがあるからなあ」


「心配してるの? 面白がってるの?」


「別に。ただの感想だよ。あんまり気を張らなくても大丈夫だよ……多分。余程人の道に外れた事をしなければ大丈夫だ……多分」


「多分!? やっぱり偉い人は虐めるんだ!」


「ごめん、脅すつもりはなかったんだ。とにかく大人しくしておけ」


 グループ分けで嫌な奴と一緒にならなければ問題ない。ルキアンは初学年時に終学年の公爵家嫡男と同グループに当たった。全生徒の中で最も身分が高かったこいつが陰険な奴で、身分を嵩に着ていびろうとした。魔力なしだから特にルキアンが気に食わなかったようだが、防御魔法で物理的な被害は防げるし暴言は無視した。教師も持て余すこいつのグループに下級貴族を放り込むなら、ルキアン以外では暴力に晒されただろうから、学院側の賢明な判断だったと思う。


 今はあそこまで酷い高級貴族は在学していないし、婚約者の証という名目の防具ブレスレットがアステルを危険から護る。アステル自身も防御は得意だし、虐めは心配していない。


(それより、高級貴族の息子なんかに目を付けられると厄介なんだよなあ)


 セルフィナ・イグラスが二人の関係を知っているので、そこからうわさになっていてもいいのにその気配がない。

 アステルに当時の状況をそれとなく聞いてみれば、いつもは二、三人の取り巻き、もとい友人か?を引き連れているセルフィナが、一人でアステルに会いに来たらしい。

 考えてみれば在学中にルキアンに求婚してきた時も一人で、『おや? 珍しいな』と一瞬心に過ったのを思い出した。


 きっとセルフィナは、自分が不利になる可能性のある場合は一人で行動するのだ。

 男性に自分から告白する時然り、その男性の婚約者に真偽を確かめる時然り、〈女から求愛するなんて〉とか〈自分を振った男が格下の子爵令嬢を選んだのは本当か確認〉なんて場面を、他者には見られたくなかったのだろう。

 


 ルキアンとアステルは王都の貴族のように婚約披露宴などはしない。両家で書面を交わしただけの簡単なものだ。アステルは蚊帳の外でその婚約誓約書を見ていないけれど、ルキアンは立ち会ったから内容を知っている。


 __アステル・コンコルディは卒業後、ルキアン・グラキエスと婚姻を結び、ルキアン・グラキエスはコンコルディ家に婿入りし、次期コンコルディ子爵となる。

 __ルキアン・グラキエスは次期コンコルディ子爵となった以降も魔法省に勤め、領地は子爵夫人となったアステル・コンコルディが主に治めるものとする。ただし、ルキアン・グラキエスは子爵として責務を負うため、妻に協力するものとする。

 __婚約を解消する場合は当事者二人の話し合いで決め、違約金や慰謝料などは基本発生しないものとする。解決できなかった場合は両家が介入する。



 とても単純明快な婚約誓約書だった。どちらかの家が融資をしたりとか持参金の取り決めなど、普通婚約時に羅列される条件など全く無い。まさに両家が互いに信頼しているからで、なんなら口約束でも良かったのだ。ルキアンの最大の売りである“魔法爵”に関しての扱いにも触れていない。結婚の条件にそこまで重要でなかったのである。


 ただ、本来なら特に目に止まるような資産家でも家柄でもない地方貴族両家の婚約は、片方が“魔法爵”という事で、後から外野が割り込んでこないよう、正式に役所に婚約届を提出して承認証を貰った。


 そんな表立たないひっそりとした婚約だけれど、魔法省の役員であるイグラス魔法伯爵の耳には入ってしまっていた。だから娘のセルフィナがいち早く把握してアステルに突撃して事実確認をしたのだ。

 この時斜め上な行動をしたアステルに彼女は驚いただろう。なんせアステルはセルフィナの目の前で転移魔法を使ったから、アステルが魔法士だと気が付いたはずだ。魔力のないセルフィナは敗北を悟ったのだと思う。


 セルフィナがルキアンに求婚した話は、恐らく彼女の友人たちも知らない。ルキアンは在学時から『結婚相手は魔法士と決めている』と公言していたため、不利を承知していたはずだ。だが魔法伯爵家の血筋と美貌で陥落できると考えたのかもしれない。ただ断られる覚悟もあったから人知れず行動を起こしたのだろう。


 ルキアンの想像の範疇でしかないが、プライドが高い女性だからルキアンに興味ない素振りで、今も話題にさえしていない気がする。

 


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