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すれ違わない政略結婚  作者: 日和るか


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4/5



 コンコルディ子爵がルキアンの元にアステルを送る時点で、アステルはルキアンの婚約者になるのが決まっていたのに、彼女はそんな事も気が付かない。

 貴族の若い未婚の男女が保護者抜きで同じ屋敷に住むなんて、婚約者以外ではあり得ない醜聞だ。


 つまりグラキエス家からコンコルディ家へ結婚を申し込んだのが、大前提にあったのである。両家は仲が良いし、『ルキアン君が婿になってくれるとは!』と子爵家は大歓迎してくれた。


 アステルには事後承諾である。『勝手に決めて!』と彼女が怒る事も想定して、その場合どう懐柔しようかと考えていたのに不要だった。


『父様が決めたのなら文句はないよ。むしろルキアンで安心した』


 一人娘の自分はいずれはどこからか婿を迎えると知っているアステルは、政略結婚の相手がルキアンである事に肯定的だったのだ。



 ずっと領地で暮らし、王都に訪れたのも数える程しかないアステルも、学院で同世代と交友する事になる。親しい異性といえばルキアンくらいだった彼女の世界が広がる。

 モカマチュラル領都の名ばかりの魔法士養成所なんて機能していなくて、アステルは二年ぶりの生徒だった。常駐の魔法士も居ないから領主お抱えの魔法士が派遣される。王都は地方からの生徒も多く、年齢も様々でアステルの交友関係は大きく変わる。

 そして、アステルは貴族学院で同世代の身分の高い男、知的な男、剣技の優れた男、美しい男、様々なタイプの魅力的な異性を知るだろう。

 貴族の結婚イコール政略結婚と思っているアステルは、学院で恋をして良い相手を見つけたかもしれないのに。幼馴染のこの令嬢は、目の前の男が自分の将来の選択肢を奪ったなんて、考えもしないのだろう。


「……なあ、アステル。これを着けてくれ」


 食事が終わるとルキアンは席を立ってアステルに近づく。座ったままのアステルは、きょとんと見上げるが、彼が手にした物を見て「まあ」と感嘆した。

 ルキアンが持っているのはブレスレット。婚約者同士がお揃いのブレスレットを着けるのが、最近の流行りだとアステルも知っていた。それは男性から女性に贈る物で、その質によって男性側の財力も見当がつくと言われており、なかなかにシビアである。


「ルキアンって流行に乗るタイプだったんだね」


「むしろおまえが流行を知っていた方が驚きなんだが」

 

 アステルは『学院に着ていく服選ぶのめんどくさい。制服ならいいのに』と、毎朝サリーに服を選んでもらうくらいおしゃれに無頓着だ。学院の制服案も何年かに一度は検討されているけれど、裕福な貴族たちの『安っぽい生地で装飾もなくて嫌』との声で実現しないのを、アステルは知らないのだろう。

 結果、華美でない服装で学年を示す色別の校章を胸元に着けるのが、変わらぬ伝統となっている。


「クラスでブレスレット着けている子がいて、見せてもらったの」


「堂々と婚約者を名乗れないなら、何かで主張しなきゃならないだろ。先輩から話を聞いて、ちょうどいいと思ったんだ。ほら、左手を出せ」


 ぶっきらぼうな態度だが、ルキアンは元々そんな男だ。アステルは立ち上がると素直に手を差し出す。白金で出来た細身のチェーンブレスレットには、加護が付与されている事にアステルは気が付く。


「……悪意を弾いて魔法・物理攻撃から護る。事故の危険回避、全て自動発動。……なんか他によく分かんない加護っぽいのが付いてる。何これ、魔道具じゃん」


 アステルは手首のブレスレットの魔力鑑定をして驚く。


 本格的に魔法士を目指すわけでもないアステルは、授業で習っていない細分化された魔法には疎い。基本の防御魔法は分かるのだろうが、追跡機能や毒無効とかを付与していると知れば『それって必要?』とドン引きしそうだから黙っておく。貧民街にうっかり足を踏み入れて危険な目に遭う事も想定してはいるけれど、学院内や招待された茶会や夜会で陰湿な扱いを受ける確率の方が高い。邪魔と思った者の排除にすぐ走る連中の名前がいくつか浮かぶ。ルキアンだってアステルが害されると真剣に危機感を持っているわけではない。あくまで()()()に、側にいられない時間が多いので〈保険〉だ。

 

「“魔法爵”が婚約者にただの装飾具を渡すわけないだろ」


「白金製ってだけでも値が張るのに。これ、絶対とんでもない値段で売れるよね」


「いや、ブレスレット本体の価格しかないよ。加護の精度を上げるためにアステル個体限定にしてるから、他の者が着けても反応しない」


「なんと! 凄い物をいただいてしまった……」


「ほら、俺のはおまえが付けてくれ」


 アステルは男性用のブレスレットを受け取る。


「……こっちはなんの加護もないね」


「俺は身を護る術を常時纏っているからな。必要ない」


「そうだった、さすがだねえ」


 小首を傾げて思案していたアステルは、そのブレスレットを握りしめると目を閉じた。ルキアンは彼女の魔力の発動を感知する。


「おまえ、加護付与なんてできないだろ」


「うん。だから気持ちを込めた。ルキアンが健康で幸せでありますようにって」


「なっ」

 意外だったのだろう。ルキアンが珍しく落ち着きなく目を泳がせた。


 そんな彼にアステルはへらりと笑い、「ごめんねえ。何も出来なくって」と言いながらルキアンの左手首にブレスレットを着ける。

 申し訳なさそうなアステルに対し、ルキアンは手首のブレスレットを目の前に翳して「悪くない」と満足気だ。


「微弱で加護もないけどアステルの魔力が込められている。互いの魔力を纏うなんて、普通の婚約者同士では出来ない。なかなか気分がいいな。……言い寄られたら婚約証拠としてこれを見せて断るように」


「ただの子爵家の娘だよ? そんな心配いらないって」


「跡取り娘の自覚を持て。学院には婿入り先を探している跡取り以外の男が、わんさかいるんだ。とにかく! 約束しろ」


「はーい」


 なんとも気の抜けた返事にルキアンは脱力する。


(ほんとに大丈夫か、こいつ。目を付けられる自覚なさすぎだろ。学院は婚活の場でもあるってのに)


 残念な事に、ルキアンの不安は、的中するのである。





 魔法士試験の結果は貴族間で毎回話題になる。どこの家門も引き入れたいからだ。合格者が若くて未婚となれば、婚姻による結びつきを望まれるものだ。

 魔法士養成所でアステルの同期のソルニウムなどは、既に貴族からそういった話が舞い込んでいて、びびっている。青田買いというわけだ。魔法省に入れない程度の魔法士でも血筋に魔力持ちを取り入れたいのは、ここ数代魔力持ちが現れない貴族こそ必死なのだ。


「君がコンコルディ子爵家のアステル嬢だね。初級魔法士合格おめでとう」


(え? 誰?)


 二度目の挑戦で初級魔法士となったアステルに、知らない令息が話しかけてきた。綺麗な金髪は手入れが行き届いており、線の細い中性的な美少年である。周りの席の女生徒たちから「やっぱり素敵ね!」などとひそひそ声が聞こえるので、有名な男かもしれない。校章布は緑。中級生でアステルより一学年、上である。


「ありがとうございます」

 おっとりとした所作は淑やかに見えるからと領地で特訓させられたので、アステルは静かに礼を述べた。ルキアン曰く“猫被りの見本そのもの”だそうで、失礼極まりなく、遺憾の意。

 

 食堂で級友の令嬢たちと、ランチ後のケーキと紅茶を頂いていたところへの声掛けである。


「だが正式に魔法士になるわけじゃないんだろう? 君は子爵領を継ぐと聞いたが」


「ええ、領地経営に活かせるかと思っただけです」


「その(こころざし)たるや、立派だな」


「恐縮です」


(だからあんた誰よ。上から目線で! いい加減名乗りなさいっての!)

 

 皆が皆、自分を知っているなんて思い上がりだ。笑顔で応じつつ、心の中で毒づく。アステルは意地でも立ち上がってやらない。


「ああ、俺はタレス・ブシュジン、中級生だ」

 ようやく彼は気が付いたらしく、やっと名乗った。


「はあ……」


 アステルの微妙な反応に、右隣に座っていた友人のジュリネスが、「フルネロン領の伯爵家の次男よ」と小声で伝える。ちゃんと名前と顔が一致しているのが偉いとアステルは感心するが、女性人気がある令息というので、知名度の高い男だったらしい。



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