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すれ違わない政略結婚  作者: 日和るか


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11/15


 アステルが不安だった交流会の日がとうとうやってきた。

 

 班メンバーの内訳は終学年の侯爵家の次男が一人、伯爵家長女が一人、中学年の伯爵家三男が一人、アステルと同級の初学年の侯爵家次女が一人。


(中学年に公爵令嬢がいるけど。その人が一緒じゃなくて良かったー)



 ルキアンが初学年の時には終学年にえらく暴力的で性格の悪い公爵令息がいて、彼と同じグループに入れられたそうだ。勿論ルキアンは暴行など躱すし、暴言も無視したので実害はなかった。ルキアンを虐められない鬱憤を、侯爵家や伯爵家の他メンバーで晴らそうとした、とても次期公爵とは思えない乱暴者だったらしい。

 スケープゴートになる気のないルキアンだったが、他の面々が悪意の標的にされるのも気分が悪いので、結局オリエンテーションの間、他メンバーにも防御魔法を掛けてやった。更に公爵令息が段差に躓いて転んだり、令息がままならない状況に癇癪を起こして、腹いせに側の樹を殴ったら大量の虫が頭上に降ってくるなど、ルキアンは地味な小さな攻撃を仕掛けた。魔力のない令息は魔法と言えば四大属性攻撃魔法くらいしか見た事ないので、ルキアンの嫌がらせに気が付かない。〈不運〉が続いた公爵令息は最終的に大人しくなった。



 そんな話をルキアンから聞かされたアステルは、偏見も甚だしいが、公爵家という存在に対してとんでもなく印象が悪いのである。


「あー、俺が班長のユースティ・センペンスだ」

「私が副班長のシルファ・ムンドゥメリよ」


 終学年の男女が普通に挨拶したので、「ラウル・マーレミコーです」と伯爵家三男、「フラン・ジョンメルンです」と伯爵家次女が名乗り、アステルも「アステル・コンコルディです」と続いた。

 更にユースティが「よろしくな」と先に言ってくれて、「よろしくお願いします!」とアステルたちも元気に応えた。威圧的でない班長の姿にアステルも安心した。


「しかし、まあ今年の交流会は変わってますわね」

 シルファが教師から参加者全員に渡された一枚の紙を手に苦笑する。彼女の視線につられたように、一同は手元の用紙に目を落とす。


「去年はダンスでしたよね。結局最後は決められた班も関係なく、校庭でなんとなく全員で輪になって踊りました」

 ラウルは初学年だった昨年を思い出して「だから毎年交流会はあんなものだと思ってました」と言った。


「俺たちの初学年は学院長が任意の三桁の数字を書いて、それを当てるというものだった。一つの班で一人ずつ順番に発言してどこかが当たるまで続くんだ。くだらないと思っていたけど、なかなか正解が出なくて結構盛り上がったよな」


「ええ、でも優勝商品が学院長の著書だったのよ。確か中学年の男爵家令息が当てたわ。初版で高価な物らしいけど、そんなの景品として学生がもらっても嬉しくないわよね」


 終学年二人の会話を年下の三人は「へえ」みたいな微妙な顔で聞く。ダンスもだが、その数字当ても縦割り班分けの意味があったのだろうか……と考えたのだ。


「ダンスの時は、みんなで楽しく踊ろう、で終わったから優勝なんてなかったですよね」

 ラウルの言葉に「でも参加賞だって全員に羽ペンが贈られたでしょう? あれは羽ペンみたいに軽やかに生きていけるようにって、古い時代の縁起物らしいわ」とシルファが説明した。


「……それらと比べたらなんか毛色が違いますね」とフランが小首を傾げる。


「そうなんだよ。校庭裏の森が舞台だなんて、初めてだよ」

 班長も困惑気味だ。

 指示の用紙には“森の中に隠されたゴムボールを一番多く集めた班が優勝”と書かれてあり、大きさと色が載っている。全部で二百個あるようだ。収集が同数の場合“赤の数が優先される”とまであるので、優勝チームにはそれなりの商品があるのだろうか。直置きだけでは発見が難しいとの判断か、半分の百個は見つけやすいように金色の宝箱に入れているらしい。


「教師たちが総出で岩陰や木の上に隠したと思えば、ちょっと笑える……」

「ほんとだね」

 うっかり呟いたアステルに、笑顔で相槌を打つラウルも気さくな生徒である。


「歩きやすい靴で参加って指示は、森が舞台だったからなのか。森がここ三日間生徒立ち入り禁止になっていたのが、まさかこの宝探しのためだとはね」

 ユースティは「子供じゃないんだから」と呆れていた。


「森の探索なんて外れ年ね」

 フランがアステルに話しかける。


「えーと……、今年の卒業生が初学年の時も森だったらしいですよ。内容は森の中に自生する十二種類の植物採取で、植物の絵と名前が書かれた紙を持って探したそうです。中には汚泥が生育地の植物もあったって」


 アステルがルキアンから聞いた話をすると、「へえ、詳しいんだね」とユースティが興味を示し、シルファが「嫌だわ、それ。絶対汚れるじゃない」と顔を顰める。


「あ、〈知人〉が今年卒業して。交流会の話を聞いた時、教えてくれて」

 アステルは愛想笑いをする。〈同郷〉だの〈幼馴染〉だの言って、アステルがモカマチュラル出身だと知られると、ルキアンを連想されるかもしれない。そこは慎重に言葉を選ぶ。ルキアンが考えるほど彼女は浅慮でもないのだ。



 初学年で最悪なヤツと組まされたルキアンだが、当年のオリエンテーションの内容が内容だけに、公爵令息の機嫌は最初からすこぶる悪かった。

 ルキアンの校章を見て『おい、初学年。おまえが全部やれ』と押し付けようとした。ルキアンが無視したので腹を立てて手を上げたのだが、彼の防御魔法に弾かれて自身の手が痺れた。『何をした、おまえ!』と詰め寄ったので『何も』と素っ気なく答えると、激昂して『貴様、俺を誰だと思ってる!』とお決まりの台詞を吐く。

 険悪な空気、と言うか、一方的に公爵令息が絡んでいる様子を見兼ねた、彼の同級生の侯爵令息が間に入る。

『……彼はルキアン・グラキエス一級魔法士ですよ』

『なっ! あの天才魔法少年とうわさの!』

 ようやく正体を知った公爵令息は青くなった。しかしすぐに『魔法で攻撃するのは処分対象だ!』と高らかに叫んだものの、『俺は常に防御魔法を纏っていて学院にも申告済みです。あなたが反撃されたと感じたのなら、それはあなたが悪意を持って攻撃した証左です』とルキアンは涼しい顔でばっさりだ。暴力が効かないと判り暴言に切り替えた公爵令息だが、それこそルキアンに響くはずがない。ヤツが苛ついて攻撃の標的を変えたので他メンバーも守ってやる。『おい! 返事が小さい!』と難癖をつけて怒鳴った挙句、中学年の伯爵令嬢の腕を掴もうとして、再び手に電流が走った。

『うわっ』

『役に立たないなら帰るか、せめて静かに着いてきてもらえませんか』

 冷酷に令息を一瞥する男爵家の下級生。そんな屈辱を受けた事のないヤツは、怒りで震えながらも勝手に森を出る選択はしなかった。班員を置いて離脱なんかすれば、実家に〈協調性に欠ける、責任感がない、勝手に帰った〉などと最低の評価報告が届くからだ。


 不貞腐れて着いてくるだけの班長を除く四人で協力して準優勝したのだから、棚ぼたな公爵令息には礼の一つでも言ってほしいくらいだった。__今でも腹立たしいのか眉を吊りあげ、ルキアンは随分詳しくアステルに当時を語ったのであった。



「ふーん、泥に手を突っ込むくらいなら、ゴムボールの方がマシね」

「まさか汚の中に隠したりしないだろうな」

「や、やめてよ」

 ユースティとシルファは、軽口を言い合えるくらいには親しいようだ。どうやらメンバーに恵まれたみたいだと、アステルは一安心である。


 森の中に入った五人は手前の方を探す他チームの横を抜けて奥に進む。小径を分け入り、歩きながら樹上を突いたり左右の茂みをかき分けながら進む。保護色になる緑や茶色のボールがないのが有り難い。目立つような色ばかり準備したようだが、時間内に二百個全部は見つからないのではないだろうか。ラウルが落ちていた適当な長さの枝を拾い、蛇を警戒して、先導して足元の草木を払ってくれている。


「あっ、みっけ」

 ユースティが指を差す。

 記念すべきひとつ目は、なんと苔に覆われた小岩の登頂に堂々と鎮座していた鮮やかなピンク色の球で、緑の苔に良く映えていた。



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