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2ー2


夜になると宗斐と岑が帰ってきた。

雲は午後のほとんどを寝過ごしたなんてバレないように平然を装っていたが、岑はその顔を見るなりずいっと顔を近づけると


「寝てたな」


と端的に言った。


「はは。まさか。

阿舜に読み聞かせをしてたよ」


雲は一切視線を逸らすことなく答えたが、岑はあきれた様子で首を横に振った。

阿舜は先に夕飯を食べてしまい眠たそうだったが、岑を見ると嬉しそうに駆け寄った。


「ツェン!ツェン!」


必死にはるか上の岑を見上げて手を伸ばす。

岑はそれを片手で軽々と抱き上げるとそのままぐるりと3周回る。

すると舜はケラケラと笑った。


「やっぱり君は岑の方が好きなんだな。

いつも一緒にいてあげてるのは私なのに」


不満気な雲の言葉に岑はどこか誇らしげに視線をよこす。

それが気に食わなくて雲は強めにその足を蹴ってやった。

しかし、岑はびくともせずに舜を腕の中に抱え直す。


「さぁ、舜。

岑兄ちゃんと絵本を読もう。

俺は君を賢い男にすると約束したからな」


岑が舜を連れて出ていったので部屋には雲と宗斐だけが残された。


「本当に寝てたのか?」


「うん。」


片眉を上げて問う宗斐に雲は今度は素直に答える。

宗斐は窓際の小卓に座ると置いてあった酒を杯に注ぐ。

そしてそれを雲に差し出した。

雲もそちらに近づき椅子に腰を下ろすと渡された杯を一気にあおる。

それが空になれば宗斐はまた注ぐ。

しかし自分の杯には注ごうとしない。

宗斐は下戸だから二人で酒を囲むといつもこうなった。


「そうだ。

そろそろ柳基は梅が咲くんじゃないか?」


「ああ、もう咲いてるよ。

今年も見事なものだ。

……綺麗で名産ではあるんだが、人が多い」


宗斐は少し嫌そうに言う。

雲は口の端を悪戯っぽく引き上げる。


「美しいものを楽しめないのは心に余裕がない証拠だ。

20そこらでもうその境地に至るとは。

老斐閣下の苦労には涙がでる」


不遜なその態度に宗斐は顔を顰める。


「そりゃあ私はあなたの分の苦労を預かっているからね。

逆にあなたはもう少し心を窮屈にした方がいい」


宗斐は苦言を呈しているが、実際のところ雲が自由であればあるほど満足そうにしている。

雲もそれを知っているので気にせず杯を進めた。

ふと角の棚の上に飾られた椿に視線をやる。

徐に立ち上がるとその薄紅色の花弁を一枚取った。

そしてそれを宗斐の頭に置く。


「……酔ったのか」

「いや、ただ思い出して」


赤茶の髪に置かれた薄紅はそれと調和して馴染んでいる。

――違うな。

わけもわからず花びらを頭に置かれ正面から見つめられた宗斐は困惑していた。


「やはり白くないと駄目らしい。

宗斐さん、今度一緒に花見をしよう」


唐突な提案に宗斐は呆気に取られたが、その言葉の意味を理解し眉を寄せる。


「本当に酔っていないのか?」


「うん」


雲が笑顔で答えると宗斐は頭が痛そうにこめかみを触ったのち頷いた。


「どうせ柳基に行くなら新しい霊廟も見に行くか?

郡都の街中に蒼土の廟が立ったんだ」


宗斐はちょうどいいと提案したが、雲は静かに首を振る。


「それはまだいい。

私はまだ、愛する蒼土を返してもらってはいないから」


雲ははにかむように笑う。


「あなたが言ったんだ。

待っててくれって」




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