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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
葉越しの候

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37/45

#5



海美さんと光俊さんは本当に息が合ってて、見ていて楽しい。

最近は忙しくてやられそうだったけど、彼らの日常に触れたことで緊張がほぐれてきていた。

両手を合わせ、改めて御礼を伝える。


海美さんが片付けを始めたので、慌ててキッチンへ向かった。

「海美さん、俺がやりますよ」

「大丈夫だよ。景達と休んでな?」

「いえ。厨房の仕事もしてたので、皿洗いは得意です」

お皿を持っていくと、彼女は少し考えてから笑った。

「ありがとう。じゃ、一緒にやろ」


景さんはベランダに出て、光俊さんとなにか話している。

俺と海美さんは食器を棚に仕舞い、テーブルを拭いた。

「都築くんが手伝ってくれたからすぐに終わっちゃった」

「焼肉のタレって落とすの大変ですもんね」

「美味しいんだけどね~。……はあー、やっぱり都築くんがお嫁に来てほしいわ」

「海美さんは迎えられる側ですよね?」

相変わらずのペースに吹き出してしまう。しかし存外真剣な表情で、壁に寄りかかった。

「私じゃなくて、景の」

「……ま、またまた~」

おどけてみせたけど、本当は嬉しくて大はしゃぎしたいぐらいだ。けどそういうわけにはいかないから、口端を引き結ぶ。


海美さんは俺を気に入ってくれたみたいだけど、景さんのご両親は全く違うかもしれない。

入れてもらったお茶を飲み、笑った。


「俺、今まで恋愛と無縁の人生だったんです」

「ええ? 変ね、都築くんかっこ可愛いのに」

「いえ、駄目駄目ですよ。臆病だから」


実際焦がれ続けた景さんに会えてからも、本心を明かすのに苦労した。

記憶が曖昧だから、という理由だけではない。もっと根底的な部分に繋がりを恐れる闇が潜めいている。

だけど海美さんは、ベランダの方を眺めて腕を組んだ。

「それがちょうどいいんじゃないかな。私なんてしょっちゅう人との距離感間違えて、光俊や景に怒られるし」

「でも、それは海美さんの長所ですよ」

「なら都築くんだって、短所じゃなく長所よ」

眩しい、陽だまりのような笑顔だった。

これからの展望も録に見えないけど、優しい人達に囲まれて今日も生きている。

目まぐるしい日々の中で、傷口が少しずつ塞がっていくのを感じた。


「ありがとうございます」


改めて彼らに感謝し、両手を前で繋いだ。


「海美さん。結婚ってどうですか?」

「あら。そんなの訊いてくるってことは都築くん、結婚したい相手がいるの?」

「いるにはいるんですけど……それまで違う環境で生きていた人同士が家族になる、ってどんな感じなんだろう。って思いまして」


正直に話した。

「本当の家族とすら、ちょっとぎくしゃくしてるんです。そんな俺が、ちゃんと相手を幸せにできるのか。時々不安になっちゃって」

「そう。……大丈夫よ。一緒になったら案外何とでもなるし」

海美さんは後ろに手を回し、目を細める。

「相手のことを考えるのはもちろん大事。でも自分が幸せになれるかどうかもちゃんと考えるんだよ?」

結婚はボランティアじゃないからね、と彼女は悪戯っぽく笑った。

それが妙に説得力があって、俺も頷いて笑った。


「海美、都築くんに変なこと教えてない?」


すると、ちょうど光俊さんと景さんがベランダから戻ってきた。海美さんは不満そうに頬を膨らませ、光俊さんを見る。

「とても大事な話をしてたわ。結婚相手は選ばないと駄目って言ってたの」

それを聞いて、光俊さんだけでなく景さんの表情も強ばった。何故か分からず待ってると、景さんがため息まじりに口を開いた。


「……義兄さんは姉貴のことを心配してた。繁忙期で帰りが遅いから、寂しい想いをさせてるんじゃないかって」

「ち、ちょっと景くん!」


光俊さんは露骨に慌てた。恥ずかしいのか、わずかに頬も赤らんでいる。

申し訳ないけど、俺はちょっと安心してしまった。

同じ家に住んでいても、生活パターンが違えばそういった不安は絶対に生まれるものなのだと。


決して明るくない感情も交えながら、支え合って生きている。よく考えれば当たり前で、なんて尊い。


景さんの言葉を受け、海美さんはまばたきした。

「……心配なら私に訊けばいいのに、先に景に相談するのね」

「いや、そこはその……景くんは海美のことよく分かってるから。俺も話しやすいというか」

バツが悪そうな光俊さんの隣で、景さんは眼鏡を拭いている。若干動揺してる気がしないでもないけど、海美さんはそれを見て吹き出した。


「心配してくれてありがと。……もちろん、光俊の帰りが遅い日は寂しいよ」

「海美……ごめんな。明日からなるべく早く仕事終わらせて帰るから」


さっきまでのギスギスした空気はどこかに消え、二人は微笑みながら見つめ合った。

やっぱり仲が良い、愛し合ってる二人なんだな。

思わず拍手しそうになると、景さんに腕を掴まれた。


「惚気け始めたから帰るぞ」

「えぇ、まだ見てたいです」

「何が楽しいんだ」


渋ったものの、ほぼ引き摺られる形で玄関に連れて行かれる。諦めて上着を羽織ると、光俊さんが慌てて見送りに来た。

「ごめんごめん! つい二人だけの世界に入っちゃった」

「大丈夫ですよ。いつまでもどうぞ」

「いやいや。ほんと氷のような子なんだから……都築くん、悪いけど景くんの心を温めてあげてね」

「え? あ、はい」

突然振られて、よく分からないけど頷く。

光俊さんは困ったように笑っていた。何だかんだ、景さんのことを本当の弟のように思ってるのかもしれない。

何か良いな。


「景~、都築くん、気をつけて帰ってね」


海美さんも、光俊さんに寄りかかりながら手を振ってくれた。

二人に御礼を言い、家を後にする。閑静な夜の住宅街を抜け、思いきり腕を伸ばした。


「まだお腹いっぱいです。一週間ぶんのお肉を食べました」

「ちょっとは元気出たか?」

「ええ! 本当にありがとうございます」


お土産に持たせてもらった果物を手に、雲が出てる夜空を見上げた。

「海美さんと光俊さんを見てると、やっぱり結婚て良いなあ……って思いました」

「……そうか」

景さんは、どう思ってるんだろう。

同性同士、まだ日本じゃ結婚はできないけど。いつか結婚できる日が来たら、したいと思ってくれるだろうか。


「景……」


彼に尋ねようとした瞬間、ポケットに入れてるスマホが鳴った。着信だ。

「あっやばい」

母からだ。掛けなおそうと思ってたのに、すっかり忘れてしまっていた。

「すみません、ちょっと出てもいいですか?」

訊くと景さんは頷いた。彼には申し訳ないが、急いで通話マークをスライドする。

「もしもし、母さん? 電話しなくてごめん、本当に忙しくてさ……」

『都築! 良かった、出てくれて。あなたまで倒れてるんじゃないかって、冷や冷やしたわ』

「え? 誰か、なにかあったの?」

心臓がどくんと跳ねる。不安になって待っていると、母の重たい声が聞こえた。


『一昨日、お父さんが倒れたの。一度こっちに帰ってこられない?』




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