#11
一度意識したらもう駄目だった。
どきどきして、片付けもままならない。
景さんが出てきた後は緊張もマックスになり、うるさいほど心臓が高鳴っていた。
「お待たせ」
「お、おかえりなさい。じゃあ俺も行ってきます!」
バスルームに入り、熱いシャワーを浴びる。
その間も、真剣に考えていた。
多分、色んな準備が必要なんだろう。でも知識も経験もないから、何から始めればいいのか分からない。
やっぱりあの、……売店にあったゴムを買っといた方が良かったかな。景さんなら持ってそうな気もするけど、相手任せはいけない。
まずい。緊張し過ぎて気持ち悪くなってきた。
「う~ん……!」
かつてない試練に頭を押さえる。思ったより響いてしまった為、景さんが声を掛けてきた。
「どうした?」
「あ、すみません! 何でもないです!」
慌ててシャワーを止めて振り返る。ドアは数センチだけ開いていたが、黒い棒線のまま、何も見えなかった。
「あれっ。そういえば景さん、お湯張らないで良かったんですか?」
「あぁ。シャワーだけで大丈夫だ」
そっか。昨日大浴場で入ったし、俺も充分かな。
タオルだけ手にとり、ドアを開けた。
「わっ!」
ドア越しに話してたんだから、前に景さんがいるに決まってる。なのに何も考えずにバスルームを出て、彼に激突してしまった。
危うく倒れそうだったけど、いつもの様に優しく抱きとめられる。
「あああ、すみません……! 痛くありませんでした!?」
「大丈夫だけど、出るならひと声掛けてくれ」
景さんは床に落ちたタオルを景さんは拾ってくれた。受け取ったはいいものの、またあの焦燥が復活する。
「風邪ひくぞ。早く服着ろ」
ベッドに置いていた部屋のガウンも手渡され、ひとまず頷く。
今までも散々銭湯で互いの裸は見てるけど……今日だけは感じ方が違う。
ガウンを手に持ったまま、彼の背中に声を掛けた。
「あの、景さん。思ったんですけど」
「何」
「恋人って、やっぱり……やることありますよね?」
非常に抽象的な物言いになってしまった。直球過ぎるのもどうかと思ったけど、これは悪手だったかもしれない。
景さんは振り返り、眼鏡を外した。ベッドに腰を下ろし、不思議そうに尋ねる。
「やること?」
「はい。あのぅ……夜にすることです」
俺もベッドに乗り上げる。ガウンだけは羽織ったが、下は履かないまま、彼の膝の上にいそいそと這い上がって正座した。
「……何だ?」
景さんは腕を組み、思いつかないという風に瞼を伏せる。
でも、絶対分かってると思う。ホテルに戻る途中も路上でイチャつく二人組をたくさん見たし。何なら部屋の案内の中に、そういう欲を満たすチャンネルのレンタル方法がいっぱい書いてあるし。
これまで泊まったホテルでも、アッと思ったことはあった。けど気まずくならないよう机の引き出しの中に入れて隠したりしてたのだ。
でも今回だけは、気付かないふりをするのは無理だ。胃を決して、震える声を絞り出す。
「その。エッ、エッ、……エッチなこと。です」




