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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
アウトプット

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25/45

#5



「わ。さっきまで青空だったのに、一瞬で雨降ってきましたね」

「ああ。天気予報はアテにならないな」


続けて訪れた聖地は、県民でもあまり訪れたことがないという石林地帯だ。この地最古の神を祀る拝所が点在し、珍しい植物も多く自生し、観光地として営業している。

平日で雨のせいかお客さんは俺達以外見当たらない。

ガイドの女性が丁寧にエリアの解説をしてくれ、笑顔で出発地点に送り出してくれた。

「この辺りも、昔はもっと自然で溢れてたんですけどね。ここ十数年で随分都市開発が進みましたよ」

少し寂しそうに話していたのが印象的だった。

小雨の中傘をさし、そびえ立つ岩山を見上げる。

新しくできるものがあれば、当然なくなるものもある。時代と共に変化して、神様達の居場所も消えていったのかもしれない。

そう思うとやっぱり切なくて、足元に視線を落とした。


「どうした?」


あまり喋らなかったせいか、景さんは足を止めて振り返った。


「今まで巡った場所も……特別な指定区域とかじゃなくても、ずっと守られていってほしいと思って」

「……そうだな」

景さんは少し傘を上げ、立派な石灰岩を見つめた。

「ま、とりあえずここは大丈夫だろ。二億年も前から存在してる岩山だ。二百年ちょっとしかいない俺達が心配することもない」

「あはは、長過ぎて想像もできませんね。……って」

ハッとして、ぬれるのも構わず身を乗り出す。

「二百年? 景さん、昔の時代を憶えてるんですか?」

「大体な」

やっぱり、彼の記憶は俺よりずっと明瞭で、保持してる量も多いようだ。


なら、俺の記憶が中々戻らないのはやっぱり……終わりが突然過ぎたからだろうか。


密かに考えていると、あやすように頬を撫でられた。


「無理に思い出さなくていい。お前に大事なのは、昔じゃなくて今だ」


諭すような声掛けに、笑って頷く。

整備されたコースを巡り、大きな木の前で立ち止まった。

この地では精霊が宿るとされてる、神聖な木だ。

「何故こんなにも時間を空けて生まれ変わったのか……お前は考えたことがあるか?」

「あは。一応ありますけど、全然分かりません」

笑って言うと、彼もつられて笑った。


「俺もだ。ただ、魂は次の器を見つける前に一度浄化が必要で、それに数十年から数百年かかると聞いたことがある。本当かどうかは知らんが」

「待機期間が長いですね〜」

「長過ぎだな。そりゃ記憶も失くすわけだ」


景さんはポケットに手を入れ、細い木道を進んだ。傘の端から零れる雨粒が、宝石のように彼の周りを落ちていく。


「でもそのおかげで、この平和な時代にお前と出逢えたから……待ち続けて良かった」


長い睫毛を揺らして、彼はスマホを取り出した。

「こっち来て」

「あ、写真ですか! 俺、あれ持ってきてますよ。自撮り棒」

サコッシュからコンパクトな自撮り棒を取り出し、スマホを装着する。二人とも画面に入ったことを確認し、シャッターリモコンを握った。


「景さん」

「ん?」

「俺は死んだ後の二百年より、生まれ変わってからの二十年の方が長く感じました」


画面を見つめながら、彼に話し掛ける。景さんも画面に映る俺を見ながら、耳を傾けた。


「体は動くのに、景さんを見つけられないことが歯痒くて、悔しかった。だからもう、絶対貴方を独りにはしません」


悪戯っぽく微笑むと、画面の中の彼がわずかに体を揺らした。

「撮ります!」

「……ああ」

中々良い一枚だったと思う。

スマホを外し、満足していると、不意に額に口付けされた。

「け、景さん……っ」

「こんな神聖な場所じゃなきゃ、もっとするんだけど」

神の面前だからな、と言って彼は歩き出した。


「……っ」


全身の熱が高まっていく。

内側から込み上げる願望が時々大暴れして、制御不能になりそうで怖い。


好き。

彼のことが好き過ぎて、頭がおかしくなりそう。


ため息を飲み込み、震える体を押さえながら彼の後を追った。





見たかった資料館も寄ることができ、無事に今夜泊まるホテルへ到着した。

主様の手掛かりはないけど、景さんの言う通り限定的な消去法で動くのもアリだと思った。ホテル近くの居酒屋に入り、運ばれたビールで乾杯する。

「景さん、お疲れ様です。乾杯しましょっ」

「ああ。……乾杯」

久しぶりにジョッキをあおり、沖縄料理を堪能する。店内は賑わっていて、ようやく旅行に来た、という気持ちが湧き上がってきた。

「あーっビールうまっ!! 暑くなくても、労働してなくても酒って美味しいですよね!!」

五杯目を干し、新たにオーダーしようとした。すると景さんの顔は何故か青くなり、俺からタブレットを奪った。

「飲み過ぎだ。次は水にしろ」

「ええ、大丈夫ですよ。俺こう見えてもお酒強いんです」

運転しないといけないから、そういえば彼の前で思いきり飲んだことがなかった。彼が不安がるのも無理はない。


それに普段は日本酒メインだから、全然飲み足りない。

「せっかくだし泡盛飲もうかな。景さんも飲みませんっ? ホテルまでは歩いて帰れるし、俺が支えるから大丈夫ですよ!」

「遠慮しておく」

「よーし、ハブ酒もいっちゃお!」

楽しくなってさらに追加すると、彼は呆れながらも笑って頬杖をついた。

「相変わらず酒豪だな」

「え?前はお酒なんて買えませんでしたよ」

「お前は新しい神酒を捧げるとき、古いものは全部飲んで片付けてたぞ。腹を壊さないかいつもヒヤヒヤした」

「そうでしたっけ。全然憶えてないや」

景さんはビールを飲み、目を細める。

「そういうところも全然変わらないな。可愛いやつ」

「かわっ……もう、からかわないでください」

「からかってなんかない。事実だ」

真顔で言い切られてしまい、頬を掻く。褒めてくれてるんだろうけど、男としては可愛いと言われると恥ずかしい。

羞恥心を振り落とすように、無理やり話をスライドした。

「景さんも、根本的なところはあまり変わってませんよ」

塩を振った天ぷらを頬張り、咀嚼する。ゴクンと飲み込んだ後、笑いかけた。


「落ち着いてるけど、実は誰よりも優しくて、温かい」


景さんは瞼を伏せ、手を拭いた。


「お前にだけだ」

「あははっ」


そんなことないと知っている。

だから、なんでもないように答える彼を見て吹き出してしまった。


「誰が何と思おうと、俺は知ってます。景さんは、俺の自慢の恋人です」


アルコールのせいか、そういう台詞はすらすら出てくる。景さんの頬を赤く染めたところで、お店を出た。


「はあ~! 旅って最高~!」

「冷静だと思ったけど、やっぱだいぶ酔ってるな」


景さんは隣に並びながら苦笑する。

今夜泊まるのはホテルと言ってもリゾート用のコテージがいくつも点在しており、フロントもレストランも、それぞれ建物が分離している。バスルームは部屋にもあるが、せっかくなので宿泊客が入れる入浴施設に行くことにした。

ところが、ここで予想外の人物に遭遇する。


「あれー? 王子と姫じゃん!」

「えっ、流希さん?」




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