#4
流希の隣に並び、彼は興味深そうに微笑む。
「前世の記憶があるという人ならこれまでも何人か会ったことがあるよ。でも神様を捜してる人達は初めて見た。……前世は神様に仕えていたのかな?」
おお。
凄まじい想像力だ。実際大正解だけど……あんなちょっとの会話を聞いただけで、よくそこまで想像を巡らせるなと感心した。
これまでの人生にそんな人いなかったから、少しばかり感動してしまっている。でも、どうしても解せない。
「前世は非科学的で、神様は非現実的です。不可視の存在を、どうしてそこまで信じるんですか?」
否。……信じられるのか。
自分や景さんのように体験した人間ならともかく、そうでない彼らが神の存在を信じるのは何故。
「“不思議なこと”は、本気で信じないと始まらないからね」
彼が出した答えは、単純明快。しかし観念を叩き割るには充分過ぎるものだった。
流希も「そーそー」と同意し、笑って頷く。
「幽霊も同じだろ? 信じてる人間にだけ、姿が見える。信じてない人間は曇ったフィルターをかけてるから自動で弾いちまうんだ。霊感なんかじゃない、認識の問題だよ」
だから、まずは存在するていで調査する。彼はそう言って距離を詰めた。
「話は戻るけど、前世の記憶がある人ってマジで貴重なんだ。真剣に取材させてほしい。もちろん、その分の報酬は払うから!」
縋るように両手を掴まれる。ものすごい熱量でお願いされ、ますます返答に困ったけど。
「旅行中なんだ」
いつの間にか戻ってきた景さんが、流希さんの手を振り解いた。ぽかんとしてる彼のフードをつまみ、世喜さんに預ける形で移動させる。
「一秒だって惜しい。……行くぞ、都築」
「あっはい!」
嬉しくもあるけど……やっぱり、この人達が特別なんだ。
宗教的に輪廻転生を信じてる人達もいるけど、多くは笑い飛ばされる。仮に信じてもらったとしても、今度は根掘り葉掘り尋問が始まる。生まれ変わりを誰かに話して良かった、と思ったことは一度もない。
でもそれでいい。来世があると思い込んでしまう方が危険なんだ。
「それじゃ、すみません。失礼します」
去り際、逡巡してからお辞儀した。景さんをお追うとしたのだが、流希はちょいちょいと手招きしてきた。
「神様を捜してるなら、俺達が今まで集めた記録を送ったげるよ。IDか使い捨てのアドレス教えたって」
「な……何でそこまでしてくれるんですか?」
「だって、詮索して嫌な思いさせたし。君らの言ってることが本当なら、俺達もその神様見つけてあげてほしいから」
流希はスマホを差し出し、こちらを見つめた。
「さっきは舞い上がって色々訊いちゃったけど……本当にごめん。普通、他人には言いたくないことだよな」
「……!」
猪突猛進な感じはあるけど、根は真面目なのかもしれない。
世喜さんも、全国の土地神を詳しく記してあるデータを送ってくれた。
「……普通気味悪がられるから、理解されることに慣れてないんです」
俺も景さんも既に負った傷口を塞ぐのに忙しくて、治そうとしてくれる人達に向き合うことが難しくなっていた。
それも、少しずつ変えていかないとだ。気付かせてくれたことに感謝しながら、瞼を下げた。
「ありがとうございます」
まさか、こんな手助けをしてもらえるとは思わなかった。スマホを大事に握り締めて、彼らに頭を下げる。
「もう少ししたら雨が降ると思うので、お気をつけて」
「おけおけ。……ね、都築って、あの景ってひとと付き合ってんの?」
なんっっ。
流希は俺にだけ聞こえる声で聞いてきたが、衝撃過ぎてまたフリーズしてしまった。
このところ、現在進行形の秘密を的確に撃ち抜いてくる人が多すぎると思う。真っ白になりながら見返すと、流希は可笑しそうに腹を押さえた。
「あはは! 図星だ」
「いっ……待って、それは違」
「しー。俺と世喜さんも、付き合ってるよ。だから別に隠さなくていいって」
あまりにサラッと言うから、とても信じられない。けど流希は声を潜めたまま、不思議そうにしてる世喜さんを見つめた。
「俺らの弱みも握っておけば安心だろ? 大丈夫、世喜さんには君らが付き合ってること隠しておくから」
「本当かなぁ……」
「ああ、命懸ける! だから、景さんに俺と世喜さんが恋人同士だってこと言っときなよ。後々なんかに使えるかもしれないし」
使えるって、それこそ脅しに?
敵に塩を送る形にしていいんだろうか。はちゃめちゃな彼にどう返したらいいか困っていると、世喜さんは車のキーをちらつかけ、流希さんに声を掛けた。
「そろそろ行くよ」
「おっけー! 都築、じゃあな」
流希は手を振って車に乗り込む。運転席にいた世喜さんは窓を開けて微笑んだ。
「またね、都築くん」
嵐のようだ。
彼らが走り去るのを見届け、景さんが乗る車に小走りで戻った。
「すみません、景さん。お待たせしました」
「こら。長話してたけど、妙なこと吹き込まれてないだろうな」
「妙なこと……? あ、流希さんと世喜さんは付き合ってるらしいです」
景さんはハンドルにぶつかりそうなほど、ガクッと前に傾いた。
「どういう流れでその話になったんだ」
「流希さんが、盗聴したお詫びに自分達の秘密を教える、って。でも俺も誰もいないと思って、前世の話をしちゃったから……すみませんでした、景さん」
思えば、これまでも危ない場面はたくさんあった。しかしあんな風に目的を持って接近されたことがない為、完全に油断していた。
申し訳なくて頭を下げると、頬をつつかれた。
「大丈夫。録音されようが素性を調べられようが、いくらでも誤魔化せる。生まれ変わりだと証明する方が百億倍難しいだろ?」
「景さん……」
「むしろ証明したら天才だ。賞金をやってもいい」
「あははっ」
暗く沈んだ心が一瞬で浮上した。
本当に、彼はすごい。俺にとってはヒーローと同じだ。
「ありがとうございます、景さん」
目元を軽く擦り、慌ててスマホを取りだす。
彼らが神様に関するデータをくれたことを伝えると、パソコンに送るように言われた。
「本当に無名の、地元の人間も知らなそうな神々まで細かく載ってる」
自称研究家は伊達じゃないな、と景さんは微笑を浮かべた。
「ええ、すごいですよね。何年かかっても集められない量……本当に有り難いです」
嬉しさのあまり隣に身を乗り出すと、彼はぴたりと指を止めた。
「景さん? どうしました?」
「これは東京に帰ってから確認する。今はここでしかできないことを優先したい」
「うーん、確かに。二泊三日ですもんね」
欲を言えばもう少し滞在したいところだ。苦笑しながら頷くと、彼は留守番を言い渡された子どものようにシートにもたれた。
「本当に時間が惜しい。今だってお預け食らってるようなもんだからな」
「お預け?」
「やることやったらのんびりするぞ」
優しく頭を撫でられる。それだけで胸の内から喜びが湧き上がった。
「はい!」




