表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
アウトプット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/45

#3



様子を窺っていると、世喜は困ったように額を押さえた。

「直球で話すと警戒されちゃうよ、流希」

「いーや。遠慮して上手くいったことないし、ストレートに話した方が絶対良い」

流希という青年は、袖を引く世喜に強い調子で返している。


観光で来たとは思えない空気。気になるけど、こういう時は刺激せず、やり過ごすのが賢明だ。

「景さん。さりげなく逃げましょう」

声を潜めて振り返る。ところが、彼は依然として二人を睥睨していた。

( どうしたんだろう? )

尋ねようとしたものの、世喜さんは口端を上げ、景さんに握手を求めた。


「私達もこの一帯の聖地に興味があって来たんです。良ければ、少しお話できませんか?」

「お話することはありません。それより、もう片方の手を出してもらえます?」


世喜さんは姿を見せてからずっと、左手をズボンのポケットに入れていた。

それの何が問題なのか分からなかったが、景さんの次のひと言で理解できた。


「ポケットに入れてる、ボイスレコーダーかなにか……それを止めてください」

「おっと。……そうですよね。貴方なら、最初から警戒されるはずだ」


彼の言い方はなにか含みがあるように思えた。

ますます気になるが、降参したようにポケットから小さな端末を取り出し、俺達の前に翳して見せる。

それは景さんが言った通り、録音系の機械だった。

不安や怒りより、混乱が先行する。驚いて二の句が継げずにいると、端末を差し出された。


「非礼を働き申し訳ありません。こちらはお渡しします。他には持ってませんが、ご心配なら私と、流希の持ち物も全てお見せします」

「結構です。さっきの会話だけ消していただければ」


俺の代わりに、景さんが答える。ボイスレコーダーは受け取らずに、世喜さんが全てのデータを消すところを確認した。他には持ってないという言葉を信じて、無理やり気持ちを落ち着ける。


「ただの雑談だ。録音されて困るわけじゃありませんが、盗聴されたのは良い気分じゃない。目的は何ですか?」


さすがに景さんは臆さない。無表情で声のトーンも一定だが、わかる人にはわかるだろう。確実に気分を害したと。

でも元はと言えば、俺が前世の話をしたせいだ。申し訳なくていたたまれない。


しかし下手に喋ったら状況を悪化させそうな気がして、口を噤んで見守った。世喜さんは再び頭を下げ、静かに謝罪する。

「言質をとろうとしたのは事実です。ただ、悪用する気は一切ありませんでした。信じてほしいとお願いするのも烏滸がましいですが……」

すると、それまで黙っていた流希さんがこちらに振り向いた。


「そうそう、脅す為じゃないよ。逃げないでほしかっただけ!」


それ、ほとんど脅しと一緒では……!

内心ツッコんでいると、突然彼に右手を握られた。振り払えないぎりぎりの力で押さえられた為、焦りが募る。


「なっ、何ですか?」

「そんな警戒しないで。俺達友達じゃん?」

「会って十分も経ってませんて」

「そっか。じゃあ友達になろう。俺は流希るき。彼は世喜せきさん。全国のパワースポットを巡ってるんだ。よろしく!」


流希は簡単な自己紹介を始めた。話を聞いていくうちに、彼らがそっちの界隈で有名人だということが分かった。

とは言え、気を許せるか、と訊かれれば答えはノーだ。かつてないほど脳が細胞全体に危険信号を送っている。

しかし流希の勢いは止まらない。

「名前だけでも教えてよ。でないと姫って呼ぶよ?」

可愛いから、と補足される。

久しぶりにカチンときた。


「都築です」

「都築ちゃんかぁ。そっちのインテリそうなお兄さんは?」

「ちゃんて……こちらは景さん」


これで満足してくれたら嬉しかったのだが。流希は目を輝かせ、質問攻めにしてきた。

「二人はどういう関係? ここには何しに来たの?」

解放されるどころか、返答する暇さえ与えられない。

もう強引に振りほどこうかと思ったが、流希は自然に屈み、都築に耳打ちした。


「さっき、前世の話をしてたよね。君達って誰かの生まれ変わり?」

「……っ!」


録音の件といい、彼らの狙いはこれ一択らしい。

俺と景さんを、好奇心の対象として捕捉している。

しかし、冷やかしてる様子でもない。こちらの出方を窺いながら、真剣な面持ちで話を続ける。

「俺、結構耳良いんだ。もし本当に前世があるなら、詳しく聴かせてほしい」

「……なにかの聞き間違いだと思います。さっきは、その……全盛期、って言ってたんです」

「じゃあ主様って言ってたのは何? キャラづくりとか、もしくはなにかのプレイ?」

「ちっがう!」

あまりに失礼、かつ卑猥な発言に、大声で否定する。しかし直後に凄まじい殺気を感じて喉が鳴った。

流希さんも同じものを感じたらしく、小声でヒッと飛び上がる。


無表情なのに、何でこんなオーラを出せるんだろう。

気付けば景さんは人ひとり殺せそうな目つきで、俺と流希さんを睨んでいた。


拝所ここで騒ぐな」


尋常じゃない圧を感じ、流希と一緒に後ずさる。蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、互いに身を寄せた。


「「申し訳ございません……」」


二人で謝罪すると、世喜さんも深々とお辞儀した。

とにかくこの場を荒らさないよう、四人で駐車場へ戻った。

借りてきた猫のように大人しかった流希も元気を取り戻し、自身のポートフォリオらしきサイトを見せてくる。


「俺と世喜さんはパワースポットや心霊スポット、怪奇現象が起きる場所をメインに回ってるんだ。胡散臭く思うだろうど、分かりやすく言うならオカルト研究家」

「……盗聴してたのもその為ですか?」

「うん。前世とか聞いたら、話を聞かないわけにいかないからね。でもそれで脅したり、了承なく外に発信したりは死んでもしない」


流希はスマホを仕舞うと、真剣な表情で頭を下げた。

「ごめんね、都築ちゃん」

「……まずちゃん付けをやめてもらえませんか」

容姿を褒められたことはあるが、女性扱いされたことはないのでゾッとする。

とは言え、やはり軽率に前世の話を口にした自分が悪い。これは身から出た錆だ。


景さんは少し離れた位置で、誰かに電話している。もう終わりそうだけど、現状ひとりで彼らに対応するのは心細い。

と思ってると、それまで傍観していた世喜さんが手を叩いた。


「もしかして、君達は前世の主を捜してるのかい?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ