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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
アウトプット

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22/45

#2



「休みとれて良かったなー、名田。思うんだけど、絶対彼女と旅行だろ」

「うん。ありがと、日々野。お前のおかげだよ」

「ああ! もっと褒めていいんだぜ」

バイト先へ向かい、めでたく付き合えたことを日々野に話した。やはり相手が男性であることは言えないので、上手く誤魔化しながら珈琲を渡す。


「感謝してるよ。本当にありがとう」

「ガチめに言われるとちょっと怖いな……」


彼は照れたり青ざめたり、表情が忙しい。

珈琲を飲んでぼやーっと見ていると、今度は笑顔で指を鳴らした。


「まっ、でも良かったよ。お前そういうの疎そうだから心配だったんだ。旅行先じゃカップルでしかできないことたくさんしてこいよ」


カップルでしかできないこと?


何だろ。考えても全然思いつかず、首を傾げながら夜のバイトに向かった。

居酒屋の方では、来月のシフトを増やしてもらうよう頼んだ。店長の男性、横矢さんはキーボードを叩き、シフト表を作成する。

「おー、たくさん入ってくれて助かるよ。できれば年末シーズンも宜しく!」

「はい。しばらく生活きついんで、極力入らせていただきます」

苦笑しながら言うと、梅野さんが事務室に入ってきた。

「おお~、お金貯めないとだねえ、名田くん」

今までのやり取りを聞いてたらしく、にやにやしながら俺の頬をつつく。ジュエリーボックスは自分で選んだけど、プレゼント案は梅野さんからアドバイスを貰ったので、改めてお礼を言った。


「でも本当におめでとう! 彼女さんも喜んでたなら良かったよ!」

「なに、彼女できたの? それ詳しく」

「詳しく話せるようなことは全然……あ、ホール忙しそうだから出ます!」


色々つっこまれそうだったので、慌てて部屋から退散する。無事に避難し、仕事に集中した。

相変わらず毎日忙しいけど、間違いなく充実している。


そうさせてくれた人は、ただ一人。誰にも言えないけど、今や世界で一番自慢の恋人だ。




「景さん、おはようございます!」

「おはよう」


翌々週、早朝。都築は空港のロビーで、軽く手を振った。

ソファに座っていた景は都築を認めると、キャリーケースを引きながら歩いた。

「寝坊しなかったな。偉い」

「寝坊したら終わりますよ……」

正式に恋人となり、初めての旅行。

それだけでも最高なのだが、沖縄に行ったことがない都築は二重でワクワクしていた。

「高校の修学旅行はどこ行ったんだ?」

「北海道です。俺の次の年から沖縄になったんですけど」

隣の席に座り、二時間半のフライトを楽しむ。

「景さんは修学旅行沖縄だったんですか?」

「あぁ。でも全然記憶ないな。ほとんど初めてと言ってもいい」

「あははっ。それじゃ新鮮ですね」

那覇空港に到着した後、すぐにレンタカーを借りた。

トランクにキャリーケースを入れ、最北へ向かう。初日は景さんの運転で、海沿いの道をドライブした。


「わ~! 綺麗!」


テレビで観るのと同じコバルトブルーの海が左に広がっている。窓を開けると、気持ちのいい風が車内に吹き込んできた。

「結構かかるけど、一気に先端まで行っていいか?」

「はい、お願いします」

休憩がてら道の駅でソフトクリームを食べたりもしたが、目的の岬を目指して車を走らせた。


俺達の今回の旅行は、恋人同士のバカンス……というより、また聖域を巡るスケジュールとなっている。

それは二人で話し合って決めたことだ。できる限り主様の手がかりを見つけたい。こうしてまた彼といられるのも、主様のおかげだから。


三時間近く走り、目的の岬に辿り着いた。駐車場に車が一台あったが、人はどこにも見かけなかった。

「静かで……空気の澄んだ場所ですね、景さん」

「ああ」

海の近くだから激しい波音が聞こえるが、それ以外は時が止まったように、静寂に包まれている。


「俺は主が南下するとは思ってない」


岬の脇にある、この地の龍神様を祀る龍神宮へ向かう。生い茂った草を掻き分けながら、細い道を下った。

「最南と最北にはそれぞれ強力な龍神が多い。そんな落ち着かない場所に身を置くとは思えないんだ。主は弱いからな」

「景さん。滅多なことを言ったら駄目ですよ……!」

確かに雨降らしの成功率は低かったから、否定はしないけど。


「でも、そう思ってたならどうして東北へ主様を捜しに行ったんですか? 今回だって……」

「“いない”という確信を得る為だ」


景さんは顎を引き、前方を示す。見ると、それまでの景色とはまるで違う、石灰岩に挟まれた小道へ出た。

ここはもう神様の拝所だ。深く一礼してから先へ進む。

この辺りで古くから信仰された龍神様なのだろう。

東北のお堂に訪れたときと同じく、体の内から湧き上がるものを感じた。


「すごい。けどやっぱり、主様の気とは全く別物ですね。前世では傍にいたからよく分かります」


祠と石碑に礼をし、都築は腕を組んだ。


「主様の雨乞いの力は、もう少し弱かったなぁ」

「お前も弱いって言ってるじゃないか」

「ちがっ……貶してるわけじゃありません! 主様は優しくてお淑やかな方だから、雨乞いしても小雨だったんですよ……!」

「性格が関係するのか……?」


景さんは怪訝そうに訊ねる。首を傾げながら俺のことを見ていたが、突如険しい顔つきで来た道を振り返った。


「景さん?」

「しっ」


彼は口元に人差し指を当て、静止の合図をする。

息を殺して振り返ると、岩壁を曲がった先に人の気配があった。

景さんとアイコンタクトして、一歩前に踏み出す。


「……あの。何で隠れてるんですか?」


静寂を壊さない程度に、壁の向こうに問い掛ける。

無視される可能性も考えたが、そこにいた人物はすんなり姿を現した。

驚いたのは、一人ではなく、二人の若い青年だということ。


「こんにちは。せっかくの雰囲気を壊したらいけないと思って、終わるまでお待ちしてたんです」

「あ。世喜さんったらまた誤魔化して。いつも有力そうな人を逃がすんだから、今回は真面目に訊こうよ!」


世喜と呼ばれた青年は、景さんと同年代に見えた。物腰は柔らかく、きちっとした襟元が知的に見せる。

反対に、その隣の青年の見た目は派手で、まだあどけない。都築の髪はダークブラウンだが、金に近い明るさでやんちゃな印象を受けた。




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