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あなたと巡る、愛しい雨旅  作者: 七賀ごふん
輪転

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19/45

#9



俺と景さんは両想いだ。


多分。と小さい声で付けてしまうのは、やっぱり自惚れのようで気が引けるからだろう。

前世でも色んな経験をしたはずだけど、靄がかかったようで自信がないから。


でも、彼との関係についていつも考えていた。

海美さんにも誤魔化してしまったけど……本当はちゃんと段階を踏んで、“恋人”だと断言したい。


「……よし!」


残ったカフェラテを飲み干し、深呼吸して電話をかける。

いつもなら、この時間は仕事を終えてるはずだ。

心臓がバックンバックン言ってる。

しっかりしろ、俺。

窓の外を見て必死に気持ちを落ち着かせていると、短い声が聞こえた。


『はい』

「あっ。景さん、俺です」


俺です、って何かオレオレ詐欺みたいだ。第一声から間違えた気がして、慌てて補足する。

「名田です。名田都築です」

『分かるよ。どうした?』

電話に出てくれた景さんは、いつもと変わらないペースで尋ねてくる。

「今お忙しいですか? お仕事中だったら、メッセージの方で連絡します」

『大丈夫。終わった』

スピーカーの先からカタン、とキーを叩いた音が聞こえた。

終わったのか、終わらせたのか……正直判断がつきにくいが、時間をとらせるのも悪いので、本題に入ることにした。

「ありがとうございます。景さん、今週の土日は晴れなので、捜索はできないんですけど……」

手元にあったグラスを握る。声が震えないように、なるべくはっきり声を上げた。


「良かったら、会えませんか。ご予定さえ空いてれば……一日」


何とか、言えた。

でも言い切ってから手が震えてきて、本当にチキンだな、と情けなくなった。

景さんの返事を聞くのが怖過ぎて、若干気持ち悪くなってきた。

あと十秒待たされたら気を失ってもおかしくないと思ったけど。

『わかった』

移動してるのか、少しの雑音と共に優しい声が聞こえた。

『土曜日で良いのか?』

「は、はい! ありがとうございます!」

思わず声が大きくなり、手で口元を覆う。

やった……!


『じゃあ一日空けておく』


まずい。頑張ってもにやけてしまう。

「待ち合わせについては後で、メッセージで送りますね。それじゃ、お仕事頑張ってください」

『あぁ、お前もな』

川のせせらぎのように、透き通った声が鼓膜にとける。

俺の時間が止まる。


『おやすみ。都築』

「はい。おやすみなさい。……景さん」


プツッ、という音が聞こえた後も、しばらくスマホを耳に当てていた。

彼の声を忘れたくないから。そして、笑顔をやめるのに時間がかかると思ったから。


電話ひとつでこんなにも鼓動が速まるなんて。下手したら寿命が縮みそう。


最後の客が退店し、BGMが変わる。都築はひとり、熱を持った額を押さえた。







待ちに待った土曜日。都築は駅前の噴水広場でスマホを眺めていた。


昨夜は緊張してよく眠れなかった。まず、目的の場所へ上手く案内できるか。気を利かせることができるか。

────素敵なプロポーズができるか。

パターンは十種類ほど考えてきたが、いざその時が来たら全て吹っ飛ぶ自信がある。試験と一緒だ。


天気は本当についていて、雲ひとつない青空だった。スマホから顔を上げると、たくさんの人が楽しそうに歩いていた。

こういう景色を見るたびに、悠久の平和を願ってしまう。前世は戦と無縁の山村にいたけど、そこでは派閥や仕来り、飢饉で苦しむ日々を送った。


現代にも格差があるし、争いの渦中の国もある。今が一番良いと言い切ることはできないけど、少なくともこの国は、選択肢が随分広がった。

ただ生きることだけを目的にしないで……いつか全ての人が希望を見つけられる世界になってほしいな。


朝から色々考えてしまったが、ぶんぶんと首を横に振って気持ちを切り替える。

俺は恵まれてる。前世のように食べるものに困ることがない。人生二回目やらせてもらえてるんだから、しゃきっとしないと。


「都築」


密かに決意して深呼吸してると、名前を呼ばれた。声の方を振り返ると、そこには太陽の輝きに負けない美青年が立っていた。

「おはよう。待った?」

「待ってないです。……おはようございます」

わあ。イケメン。

特別な感情を抱いてる相手だというのに、薄っぺらい感想しか出てこない自分に辟易する。

でも実際、周りの女性達は景さんのことをちらちらと見ている。若干頬が赤く染まっていて、こんな状況でなければ可愛いとすら思った。


捜索時はカジュアルだけど、今日はもっとキレイめのファッションだった。

俺だったら先に言ってもらわないと、オシャレなレストランなんて入る服装は用意できない。さすがだ。

「どうした? ボーッとして」

「あっ。ええと、その……いつにも増してかっこいいと思って」

目を逸らし、俯きがちに答える。

「晴れの日に景さんと会うことって少なかったから、太陽の下で見るとさらに輝いて、直視すると火傷しそうです」

しっかりしろ、俺。一体何を言ってるんだ。

緊張のあまりパニックに陥ってると、景さんは耐えられない様子で笑った。

「ほんとに面白いな、お前は」

「どうも……」

「でも、お前も今までで一番大人っぽいぞ」

そう言うと、景さんは眼鏡を外して胸ポケットに掛けた。

「せっかく街中を歩くなら、いつもと違う格好で行くか」

「……はい!」

午前十時。街全体が活気に包まれる頃。

俺は初めて、景さんとプライベートで隣を歩いた。


というか、一応おデートのつもりなんだけど……気付いてないかもな。

先に宣言しておけば良かった。でも、これはこれでいいか。


身長が高い景さんは、人混みの中でも颯爽と歩いている。離れそうになってもすぐに見つけられるから、地味に助かった。

そして肝心のプランは……。

映画は好みが分からなかったから、やめた。そもそも景さんの趣味が分からなかったので、定番の観光地へ向かった。

東京のランドマークである高いタワーの周りに、外国人観光客もたくさん訪れる商業施設。ただ歩いてるだけでワクワクして、中のお店を回っていった。

「景さんは来たことありました?」

「一回な。でもそんなにゆっくり見られなかったから」

景さんは綺麗な和物が並んだ店で周囲を見回し、微笑む。


「最近はこういう場所に来なかったし……誘ってくれてありがとな」


景さんの笑顔を見たら、人混みの中でも音が止んだ。

「こちらこそ……」

恥ずかしくなって、つい顔を逸らしてしまう。すると景さんは、突然俺の手を引いた。

「プラネタリウムは行ったことある?」

「え。ありません」

「じゃあせっかくだし寄ってくか」

青森じゃ散々だったからな、と言い、彼はエスカレーターに乗った。


そういえば腰も打ったんだよな。恥ずかしい。

黒歴史を思い出していたけど、ちょうどいい時間帯に上映作品があった為、彼と中に入る。

カップルも多くて、妙にどきどきした。

「ここはアロマもあるから、リラックスしたい時に良い」

「へぇ……疲れてるときにも良いんですね」

三十分程度の上映なら、結構すぐかも。

リクライニングシートの為倒そうとしたが、レバーを何回引いても全然倒れない。

「あれ……! おかしいな。俺のシート壊れてるのかも」

「それ俺のレバー」

どうやら景さんのレバーを引きまくってたらしい。彼はこちらに身を乗り出すと、反対側にある俺のレバーを引いた。


「っ!」


無事に倒すことができた。……ことは良かったのだが、これだと景さんが俺に覆い被さる形になる。

既に劇場内は暗く、周りにお客さんはいない。騒がなければなんて事ないけど。

景さんは俺の胸に手を当て、かすかに聞き取れる声で呟いた。


「キスできそう 」

「な……っ!」


火がついたように顔が熱くなる。彼の胸を押し返し、小声で抗議した。

「ここでは駄目ですよ」

「ここじゃなければいいんだな?」

「それは……っ」

人が増えてきた。中々どいてくれない彼に観念し、顔を逸らして囁く。


「誰もいないところなら……」


勇気を振り絞って言うと、彼はさっと身を引いた。シートを倒し、アナウンスが流れる前にぽつりと呟く。


「楽しみだ」

「……っ」


このひとは……。

下手したら、夜まで心臓がもたないかもしれない。


上映開始後はさりげなく手を握られた。

うぅ。

俺がエスコートしようと思ったのに、気付いたら翻弄されてしまっている。

想像以上に手強い。

作品が終わるまで、自分の心音がうるさくて仕方なかった。




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