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それぞれの決着

郷原理人は、笑っていた。

無数の腕が四方八方から迫ってくる。避けきれない速さで、避けきれない数で。しかし郷原は笑っていた。

「良いな」

呟きながら、腕の一本を掴んだ。そのまま引っ張り、相手の体勢を崩す。生まれた隙に、右の拳を叩き込んだ。

千手の人物が後退した。

「お前の攻撃は多い」

郷原は構えを取りながら言った。

「でも——多ければ良いってもんじゃない」

千手の人物が再び無数の腕を展開した。今度は全方向から同時に迫ってくる。

郷原は動じなかった。

目を細め、腕の動きを読んだ。速い。しかし——パターンがある。

(幼少期、炎も水も出せなかった俺は、ひたすら動きを読む練習をしていた)

それが今、活きていた。

郷原は腕の隙間を縫うように動いた。左、右、前、後ろ——全ての腕をかわしながら、相手との距離を詰めていく。

千手の人物が驚いた顔をした。

「なぜかわせる」

「お前の腕には、利き腕がある」

郷原は静かに言った。

「無数に見えるが、一番速い腕は右の第三番目だ。そこを起点に動きが展開される。見えれば——対処できる」

千手の人物の目が、僅かに揺れた。

郷原は右足に全ての魔力を集中させた。

修行の日々が蘇る。神城に何度も叩きのめされながら、ただ一点に力を集める練習を繰り返した。力任せではなく、精度を上げることだけを考えた。

(俺には打撃しかない。でも——それで十分だ)

「これが俺の全てだ」

郷原は踏み込んだ。

右の拳に、これまでの全てを込めた。劣等感も、悔しさも、仲間への感謝も——全部。

千手の人物が無数の腕で防御した。

しかし郷原の一撃は、その全てを貫いた。

轟音が響いた。

千手の人物が、大きく吹き飛んだ。建造物の壁に激突し、そのまま動かなくなった。

郷原は右拳を見た。

指の関節から血が滲んでいた。しかし——痛くなかった。

「これで良い」

郷原は静かに呟いた。

* * *

久我澪は、泥だらけだった。

ルゥの攻撃は速く、変則的で、読みにくい。センスだけで戦っていた頃の久我なら、とっくに倒れていただろう。

しかし今は違った。

「さっきから泥臭いね」

ルゥが笑いながら言った。

「久我くんってもっとスマートなイメージだったけど」

「うるさい」

久我は立ち上がった。膝が笑っている。腕が重い。しかし——雷槍を握る手は、震えていなかった。

「センスだけじゃ、お前には勝てない」

久我は素直に言った。

ルゥが意外そうな顔をした。

「へえ、認めるんだ」

「認めた上で——勝つ」

久我は雷槍を両手で構えた。

修行中、神城に言われた言葉を思い出す。

(センスは才能だ。しかし才能は、積み重ねた基礎があって初めて本物になる)

久我は足を踏みしめた。泥臭く、地味で、格好悪い——しかしこの数日で積み上げたものが、今の自分を支えていた。

「行くぞ」

雷槍が青白く輝いた。

ルゥが動いた。高速で距離を詰め、久我の懐に入ろうとする。前回と同じ動きだった。

しかし久我は下がらなかった。

ルゥが驚いた顔をした瞬間、久我は槍を縦に振り下ろした。

ルゥがかわす。しかしそれが狙いだった。

「《雀蜂・連》」

ルゥがかわした先に、雷の柱が連続して落下した。逃げ場がない。

ルゥは咄嗟に腕で防いだ。しかし1000万ボルトの電流が腕を伝い、全身を痺れさせた。

ルゥの動きが止まった。

久我は踏み込んだ。雷槍の柄でルゥの顎を打ち上げる。ルゥが宙に浮いた瞬間、槍を水平に薙ぎ払った。

ルゥが地面に叩きつけられた。

しばらく動かなかった。

久我は荒い息をつきながら、ルゥを見下ろした。

ルゥはゆっくりと顔を上げた。その目に、笑いはなかった。代わりに——何か、澄んだものがあった。

「強くなったね」

ルゥは静かに言った。

「数日前とは、全然違う」

久我は答えなかった。

ただ、雷槍を下ろした。

* * *

藤堂爽一郎は、考えていなかった。

それが——これまでの藤堂とは、決定的に違うところだった。

鎧の男の攻撃は重く、速く、そして読みにくい。いつもの藤堂なら、相手のパターンを分析し、策を立ててから動く。しかし今回は違った。

体が先に動いていた。

「ウォーターバスター」

考える前に地面を叩いていた。水龍が出現し、鎧の男に向かって突進する。

鎧の男は拳で水龍を粉砕した。しかし藤堂はすでに次の手を打っていた。

「ウォーターバスター・二連」

別の方向から2体の水龍が現れ、鎧の男の側面を突く。

鎧の男が吹き飛んだ。

しかしすぐに立ち上がった。鎧に傷一つない。

(硬い——正面からでは通じない)

考えるより先に、体が動いていた。

地面に手を当て、鎧の男の足元に魔法陣を展開した。

「水圧・貫通」

地面から極細の水流が、針のように鎧の隙間に向かって噴き出した。

鎧の男が僅かによろめいた。

(隙間を狙え——)

藤堂は走った。考えながら走るのではなく、走りながら考えた。それが今の藤堂だった。

鎧の男が拳を振り下ろす。藤堂はかわしながら、その腕の関節部分——鎧の隙間に向かって水流を集中させた。

鎧の男の腕が、僅かに動きを止めた。

その瞬間、藤堂は全ての魔力を両手に集中させた。

「真・ウォーターバスター」

地面が割れた。巨大な水龍が1体、鎧の男の真下から噴き上がった。

鎧ごと、男が空中に吹き飛んだ。

藤堂は空中の男を見上げた。

「終わりだ」

水龍が空中で形を変え、男を包み込んだ。そのまま地面に叩きつける。

轟音が響いた。

煙が晴れると、鎧の男は動かなかった。鎧に無数の亀裂が入り、その隙間から微かな魔力が漏れ出していた。

藤堂は息をつきながら立ち上がった。

手が震えていた。しかしそれは恐怖ではなく——初めて「考えずに戦えた」という、奇妙な高揚感からだった。

「これが——本能で戦うということか」

藤堂は静かに呟いた。

その時、建造物の中から轟音が響いた。

3人は顔を見合わせた。

「黒瀬だ」

郷原が言った。

3人は建造物の正門に向かって走り出した。

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