蒼い炎と漆黒の嵐
荒野に、2人の魔力がぶつかり合っていた。
黒瀬の炎とザイロスの黒い波動が交差するたびに、大地が揺れ、空気が震えた。赤茶けた土が舞い上がり、2つの月が煙に霞んでいく。
どれくらい戦っただろう。
黒瀬の腕は限界に近かった。傷から血が滲み、息が上がっている。それでも足は止まらなかった。
ザイロスも、無傷ではなかった。
肩の焦げ跡が広がり、銀白色の髪が乱れている。しかしその目は——最初から変わらなかった。静かで、深く、何かを測るような目だった。
「お前は——なぜ止まらない」
ザイロスが言った。
「もう限界のはずだ」
「限界は——超えるためにある」
黒瀬は荒い息のまま答えた。
神城の言葉が蘇る。
(限界を超えた先に、本当の力がある。ただし——それは守りたいものがある者だけに開かれる扉だ)
黒瀬は右手に炎を集中させた。
日野原の顔が浮かんだ。妹の涙が浮かんだ。街が燃える光景が浮かんだ。そして——ザイロスの話が浮かんだ。
手を伸ばしたが、届かなかった。それだけだった。
その言葉が、黒瀬の胸に刺さったままだった。
(俺も——同じだった)
日野原を守れなかったあの夜。手を伸ばしたが、届かなかった。
ザイロスと黒瀬は——同じ痛みを知っている。
「ザイロス」
黒瀬は走り出した。
「お前の大切な人たちは——現代に流出した」
ザイロスの目が動いた。
「つまり——現代の中に生きている」
「黙れ」
ザイロスの魔力が爆発的に高まった。漆黒の波動が荒野全体を覆い始める。地面が割れ、空気が歪む。
「現代を滅ぼすことは——大切な人たちを二度殺すことになる」
「黙れと言った!」
漆黒の波動が黒瀬に向かって一気に解き放たれた。
黒瀬は炎を全身に纏った。
逃げなかった。
(俺の炎は——理解しようとする気持ちだ)
漆黒の波動と蒼い炎が、正面からぶつかり合った。
拮抗した。
黒瀬は押し返された。足が地面を削りながら後退する。膝が折れそうになる。腕が悲鳴を上げる。
それでも——炎は消えなかった。
「うぉぉぉぉぉ!!」
黒瀬は叫びながら、炎に全てを込めた。
守れなかった悔しさ。取り戻すという約束。ザイロスへの理解。そして——両方の世界を救いたいという、黒瀬自身の願い。
炎が、蒼から白へと変わった。
漆黒の波動が、押し返され始めた。
ザイロスの目が、初めて見開かれた。
「なぜ——」
「お前の痛みを——俺は否定しない!」
白い炎が漆黒を飲み込んでいく。
「でも——大切な人たちが現代に生きているなら——現代を滅ぼすことはできないはずだ!」
漆黒の波動が、崩れ始めた。
ザイロスが後退した。初めて、後退した。
白い炎がザイロスの全身を包んだ。
爆発が起きた。
衝撃波が荒野を駆け抜け、土煙が空まで舞い上がった。
煙が晴れた。
ザイロスは膝をついていた。
銀白色の髪が乱れ、装いに焦げ跡が広がっている。しかし——息はある。
黒瀬は走り寄った。
マグナムをザイロスに向けた。
引き金に——指をかけた。
しかし。
黒瀬の手が、止まった。
ザイロスを見た。膝をついたまま、荒野を見つめているその横顔に——黒瀬は見たことのある表情を見た。
瓦礫の前で膝をついていた、あの夜の自分と——同じ顔だった。
黒瀬はマグナムを下ろした。
「……お前を殺しても、何も解決しない」
ザイロスは黒瀬を見た。
その目に、初めて——困惑の色があった。
黒瀬はマグナムを完全に収めた。そして——右手を、ザイロスに向かって差し伸べた。
「一緒に考えよう」
荒野に風が吹いた。
「両方の世界を——救う方法を」
ザイロスは差し伸べられた手を見た。
しばらく——長い沈黙が続いた。
荒野に風が吹き続けた。2つの月が、静かに空に浮かんでいた。
ザイロスの目が、揺れた。
何年もかけて積み上げてきた憎悪が、ゆっくりと、ゆっくりと——崩れていくような。
「……お前は」
ザイロスの声が、初めて掠れた。
「なぜそこまで——」
「お前と——同じだからだ」
黒瀬は答えた。
「大切な人を守れなかった。取り戻したかった。その気持ちは——俺も同じだ」
ザイロスは黒瀬を見た。
差し伸べられた手を見た。
そして——その手に、自分の手を重ねた。
黒瀬はザイロスを引き起こした。
2人は並んで立った。
その瞬間、荒野の空気が変わった。
漆黒だった空が、少しずつ——明るくなり始めた。




