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最後の関門

西条の背中を追いながら、4人は異世界の街を抜けた。

街の明かりが遠ざかるにつれ、道は暗く細くなっていった。両側に高い木々が立ち並び、2つの月の光だけが道を照らしている。

しばらく歩くと、開けた場所に出た。

眼前に、巨大な建造物がそびえていた。

現代の建物とは全く異なる。黒い石で作られた尖塔が幾本も天に向かって伸び、その頂点には青白い光が灯っている。建物全体から、重い魔力が漂っていた。

「ここが——ザイロスのいる場所か」

郷原が見上げながら言った。

「ああ」

西条は建造物の正門前で立ち止まった。そして4人を振り返った。

「ここから先は——俺には案内できない」

黒瀬は西条を見た。

「なぜだ」

西条はしばらく黙っていた。

「ザイロス様は——俺にとって、命を救ってくれた人だ」

その言葉は、静かだったが重かった。

「俺はかつて、異世界でも現代でも居場所がなかった。どちらの世界にも属せない存在だった。そんな時にザイロス様が俺を拾った。だから——あの人に刃を向けることは、俺にはできない」

黒瀬は西条の言葉を聞いていた。

(居場所がなかった——)

その言葉が、胸の中で静かに響いた。

「だが」

西条は続けた。

「お前たちを、ここまで連れてきた。それが俺にできる全てだ」

西条は黒瀬を真っ直ぐに見た。

「ザイロス様を——頼む」

その一言に、これまで見せたことのない感情が滲んでいた。

黒瀬は頷いた。

「任せろ」

その瞬間、正門の両側から人影が現れた。

3人だった。

左側に、ルゥが立っていた。いつもの軽やかな笑みを浮かべている。しかしその目は、笑っていなかった。

右側に、見たことのない人物が2人いた。一人は全身を鎧で覆った大柄な男。もう一人は細身だが、その体から無数の腕のような影が伸びていた。

千手観音のような存在——郷原が戦うべき相手だと、黒瀬は直感した。

ルゥが口を開いた。

「西条、案内したの? ザイロス様に怒られるよ」

「俺の判断だ」

西条は短く答え、ルゥを見た。

ルゥは肩をすくめた。

「まあいいや。どっちにしても、ここは通さないけどね」

鎧の男が一歩前に出た。その足音が、地面を震わせた。

千手の人物は無言のまま、無数の腕を広げた。

藤堂が4人に向かって小声で言った。

「各自、相手を決めろ。時間をかけるな」

黒瀬は頷いた。

「俺はザイロスのところへ行く。お前たちに任せていいか」

「当然だ」

郷原が前に出た。その視線は、千手の人物に向いていた。打撃同士の戦いになる——郷原の目に、それを望む色があった。

久我は雷槍を構えながらルゥを見た。

「リベンジといこうか」

ルゥは笑った。

「買ってあげる」

藤堂は鎧の男を見た。策が通じない相手かもしれない。しかし今の藤堂には、考える前に動く判断力がある。

「お前と俺だな」

鎧の男は答えなかった。ただ、拳を構えた。

黒瀬は3人を見渡した。

傷はまだ完全には癒えていない。修行の期間も短かった。それでも——3人の目に、迷いはなかった。

「行ってこい、陽翔」

藤堂が言った。

黒瀬は頷き、正門に向かって走り出した。

同時に、戦闘が始まった。

郷原が地を蹴った。千手の人物に向かって一直線に駆ける。無数の腕が郷原を迎え撃つ。しかし郷原は止まらなかった。

久我が空中に跳んだ。雷槍が青白く輝き、ルゥに向かって閃光が走る。ルゥは身をかわしながら笑った。しかし久我の動きは、以前とは違った。センスだけではない、積み重ねた基礎が体に宿っていた。

藤堂は鎧の男の動きを見た。考えるより先に、体が動いた。地面を叩き、水龍を展開する。しかし今回は——策ではなく、本能で動かしていた。

黒瀬は正門を駆け抜けた。

後ろで3人の戦闘音が響いている。振り返りたい気持ちを、黒瀬は堪えた。

(信じろ)

3人を信じて、前だけを見た。

建造物の中に入ると、長い廊下が続いていた。青白い光が壁に沿って灯り、足音だけが響く。

廊下を抜けると、大きな扉があった。

黒瀬は扉に手をかけた。

重い音を立てて、扉が開いた。

広い空間だった。

そしてその中心に——巨大な木が立っていた。

黒い幹。天井まで伸びる枝。そして無数の果実。

夢で見た光景が、目の前にあった。

果実の一つ一つの中に、人が閉じ込められている。その輪郭は薄く、今にも消えそうだった。

黒瀬は果実を見渡した。

そして——一つの果実の中に、日野原を見つけた。

目は閉じている。顔が白く、輪郭が僅かに透けていた。

「日野原さん——!」

黒瀬は駆け寄ろうとした。

「来るな」

声がした。

木の向こうから、人影が現れた。

ザイロスだった。

銀白色の髪。黒を基調とした装い。その目が、静かに黒瀬を捉えた。

「お前が——黒瀬陽翔か」

「ああ」

黒瀬はマグナムを構えた。

ザイロスは動かなかった。ただ黒瀬を見ていた。

「よく来た」

その言葉は、敵意ではなかった。どこか——待っていたような響きがあった。

黒瀬はザイロスを見据えた。

扉の外から、3人の戦闘音が聞こえてくる。

ここで——全てが決まる。

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