表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/28

侵略者たちの世界

光が消えた。

黒瀬は目を開けた。

最初に感じたのは、空気の違いだった。現代より少し重く、湿度が高い。草と土の匂いに混じって、どこか甘い香りがした。

次に見えたのは、空だった。

2つの月が浮かんでいた。

一つは現代と同じ白い月。もう一つは青みがかった大きな月で、現代では見たことのない色をしていた。その2つの月が夜空に並んでいる光景は、美しいとも不気味とも言えた。

「ここが——異世界か」

郷原が呟いた。

4人は丘の上に立っていた。眼下には街が広がっている。

黒瀬はその街を見て、息を呑んだ。

現代と、変わらなかった。

建物の形は少し違う。道路の素材も異なる。しかし街灯が灯り、家々に明かりがついている。道を歩く人々がいる。子どもが走っている。店先に人が集まっている。

どこにでもある、普通の街の夜だった。

「……普通の人たちが、暮らしている」

久我が静かに言った。

藤堂は街を見渡しながら言った。

「当然だ。侵略者たちにとって、ここが故郷なんだから」

黒瀬は丘の上から街を見下ろした。

笑い声が聞こえた。店の前で話している大人たち。手を繋いで歩く親子。現代と何も変わらない、日常の光景。

その瞬間、黒瀬の胸に奇妙な感覚が生まれた。

(俺たちは今——この人たちの世界に、無断で乗り込んできた)

ザイロスたちが現代に現れた時、黒瀬たちはそれを「侵略」と呼んだ。しかし今、異世界に乗り込んできた黒瀬たちは——この人たちの目には、何に見えるのだろう。

「陽翔」

藤堂が黒瀬の隣に立った。

「考えすぎるな。今は日野原さんを助けることだけを考えろ」

「分かってる」

黒瀬は頷いた。しかし胸の中のざわめきは、消えなかった。

その時、久我が鋭く言った。

「来るぞ」

街の方から、複数の気配が近づいてきた。

丘の下から、黒い影が駆け上がってくる。異世界の兵士たちだった。現代に送り込まれてきた侵略者たちと同じ装いをしている。しかしその目には、現代で見た無機質な殺意とは違う——怒りがあった。

人間的な、感情を持った怒りだった。

先頭の兵士が叫んだ。

「現代の侵入者だ!ここは我々の世界だ、出ていけ!」

黒瀬は、その言葉に動けなくなった。

「侵入者」

その言葉が、胸に刺さった。

(俺たちも——同じことをしているのか)

「陽翔、構えろ!」

郷原の声で、黒瀬は我に返った。

兵士たちが一斉に向かってくる。その数、20体ほど。

黒瀬はマグナムを構えた。しかし引き金を引く手が、僅かに躊躇した。

(この人たちも——ザイロスと同じように、自分たちの世界を守ろうとしているだけじゃないのか)

「陽翔!」

藤堂が叫んだ。

兵士の一体が黒瀬に向かって飛んだ。黒瀬は反射的にかわし、マグナムの柄で兵士を弾き飛ばした。

倒れた兵士が立ち上がりながら、黒瀬を見た。

「なぜ躊躇する。お前たちが先に俺たちの世界を——」

「分かってる!」

黒瀬は叫んだ。

兵士が止まった。

黒瀬は構えたまま、しかし攻撃しなかった。

「俺たちはお前たちと戦いに来たんじゃない。連れ去られた仲間を取り戻しに来た。それだけだ」

兵士たちがざわめいた。

藤堂が黒瀬の隣に立ち、静かに言った。

「ザイロスのいる場所を教えてくれ。俺たちはそこへ行くだけだ」

しばらく沈黙が続いた。

兵士たちは顔を見合わせた。先頭の兵士が、黒瀬を睨んだまま言った。

「……お前たちが本当にそうなら、なぜ武器を持っている」

「身を守るためだ」

黒瀬は答えた。

「でも——お前たちを傷つけるために来たんじゃない」

また沈黙が落ちた。

兵士たちの気配が、僅かに変わった。

その時、後方から別の声が響いた。

「面白いことを言う現代人だな」

低く、静かな声だった。

兵士たちが道を開けた。

その奥から、一人の人物が歩いてきた。

西条蓮だった。

黒マントをまとい、無表情のまま4人を見ている。その目に、学校で見せた冷たい殺意はなかった。代わりに——何か複雑なものが宿っていた。

「お前たちが来るとは思っていなかった」

西条は4人の前で立ち止まった。

「ザイロス様のところへ行くつもりか」

「ああ」

黒瀬は答えた。

西条はしばらく黒瀬を見ていた。

「強くなったな」

唐突な言葉だった。

黒瀬は西条を見た。

「お前と戦った時とは——別人のような気配がする」

西条の口調に、敵意はなかった。ただ、事実を言っているだけだった。

「案内する気はないか」

藤堂が静かに言った。

西条は藤堂を見た。

「なぜ俺がそうする」

「お前も——本当はこんな戦いを望んでいないんじゃないか」

西条の目が、僅かに動いた。

沈黙が続いた。

夜風が丘を吹き抜けた。2つの月が、静かに空に浮かんでいた。

西条はゆっくりと踵を返した。

「ついてこい」

その一言だけ言って、歩き出した。

4人は顔を見合わせた。

久我が小声で言った。

「信用していいのか」

「分からない」

藤堂が答えた。

「でも——今は他に選択肢がない」

黒瀬は西条の背中を見た。

学校で初めて目が合った時の、あの衝撃を思い出した。あの時から、この男は何かを抱えていたのかもしれない。

「行こう」

黒瀬は歩き出した。

3人がその後に続いた。

異世界の夜の中を、5人は静かに進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ